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ユメクイゲーム

「ねぇ!今日はどんなユメをみた?」

教室へ入るやいなや興奮気味にクラスメイトの花純が話しかけてきた。朝から互いのユメの話を教えあう光景も、もう見慣れたものだ。


2年前から流行りだした『ユメクイゲーム』

ある有名なゲームクリエイターが、「私たちが作らずとも身近なところで日々創造世界は生み出されている!」と言葉を残して開発した。

やり方は簡単、頭に機械を装着して眠るだけ。朝起きたらその日のユメが手のひらサイズになって現れる。色や形はその時々で異なり、それを人にあげると貰った人は食べることでユメを追体験できる。


ユメクイゲームは爆発的に売れ、一家に一台が当たり前になった。

更に、ユメの売買も盛んに行われている。自分じゃ見れないユメを買えば、大金持ちにだって王様にだって男にだって女にだって、文字通り何者にでもなれる。

自分の夢をグッズとして販売するアイドルだっているくらいだ。


今日はのんびりピクニックをする夢だったよ、と答えると「な〜んだ、つまんないの。私も今日はフツーのユメだった」と花純は肩を落とした。

すぐにパッと顔を上げて「ところで隣のクラスの颯馬くん。今日も大人気みたいよ」と楽しそうに耳打ちする。花純はコロコロと表情が変わるから見ていて面白い。

山中颯馬のユメは繊細で美しいと評判で、「サトリを開けるぞ」なんて噂されている。故に我こそはといつもユメの取り合いになるのだ。ユメを見るのにも才能がいるらしい。

花純は好きなことを話し終えて満足したらしく、自分の席へと戻って行った。


続いて後ろの席の加賀くんがトントンと背中を叩いてきた。
ドキッ 心臓が跳ねる。

加賀くんはどんなタイプの人からも好かれる柔らかな日向のような人。彼について尋ねると、きっと誰もが彼の笑顔を1番に思い浮かべるだろう。

そんな彼が私に話しかけてきた。

「佐々田さん。ピクニックのユメちょーだいよ。僕陸上部だからユメでも走ってばっかでさ。たまには穏やかな気持ちで寝たいんだ」

頼りなげにへらっと笑う顔は、グラウンドを走る加賀くんとは別人みたいだ。

「う、うん。もちろんイイよ」

私は慌てた様子でポケットから透明な包み紙にくるんだユメを取り出して加賀くんに渡した。ユメの色は赤く、一部が宝石みたくキラキラと輝いている。

加賀くんが「佐々田さんっぽいね」なんて言うから私は顔を真っ赤にして笑うしかなかった。


彼が私のユメをみる。私と彼はひとつになる。やっと。やっと私を感じてもらえる。彼に渡すためにと貯めておいたストックのうち、『とっておき』の子を持ってきておいて良かった。

「また明日、感想聞かせてね」


大人気のユメクイゲームだが、問題点がひとつある。
それは、ユメを作った人間は嘘をついて渡せることだ。公で売買する際はその人のクチコミや身元を公開するなどしてなんとか判断できるが、友人同士なんかは嘘をつく必要が無いから判断もしない。

知ってた?ねぇ、私の加賀くん。

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