僕の秘密を知ってほしい
幽霊は存在するのか?
この問いに正確に答えられる人間は少ないだろう。
僕にも”普通の”幽霊は見えない。
ただ、一体だけ、例外がいる。
その男は小学生の頃、突如として僕の前に現れた。
ヒョロっと高身長だが背は曲がっていて異常に青白い肌。乾燥してパサパサになった唇はいつも半開きで、溶けおちそうな目はどろんと虚ろで何も映さない。
初めて見た時はパニックに陥って泣きながら友人や家族に助けを求めたが、理解してくれる人は1人もおらず、自然とその男について口を閉ざすようになった。
そいつが現れてからもう20年くらい経つだろうか。ここまで隠してきた男のことを僕がこうして日記を記すのには理由がある。
男は基本的にどこかを向いていて僕と目が合うことは無いのだが、これまで3度、ピタリと目が合った経験がある。
1度目は中学2年の体育の授業中だった。
友人とふざけあって雑談していた時、いきなりぞわりと全身が粟立つような恐怖に襲われ、昼間なのに金縛りを受けたかのような圧を感じた。激しくなる動悸を抑えながら必死に原因を目で探ると、遠くでじぃっと僕を見ている男と目が合ったのだ。いつもは虚ろげな目がその時ばかりはしっかりと僕を捉えていた。どのくらいの時間動けずにいたかわからない。僕からすると永遠の時のように思えたが、周囲の様子からして実際は1分そこらだったのだろう。
不快感がべっとりと跡を残したせいで、しばらくは男から隠れるようにして生活していた。だが、そうは言っても楽しい事や幸せなことに上書きされるうちに忘れてしまう。
そして完全に男のことなど意識しない頃にまた2度、3度と同じことが起こったのだ。
目が合ったところで周囲に死人が出るわけでも僕に不幸が舞い降りるわけでもない。
ただ、最近になって次の4度目こそは何か起こるのではないかと考えるようになった。
ジンクスや言い伝えを信じるタイプではないのだが、考えれば考える程に確信めいたものが僕の中には生まれた。
あの男はただの幽霊などではなく、死神なのかもしれない。
そういえば、こうして日記を書いていて思い出したことがある。
あの男が初めて姿を現した日の数日前に、僕はまさに今僕が書いたような文章をどこかで読んだ気がするのだ。
道端で拾ったクシャクシャの紙に、女と目が合ってしまうと書かれてはいなかったか?
そして、もうすぐ訪れる4度目から逃れたい、まだ生きたいと悲痛な叫びを訴えていた。当時は気味の悪いメモだとすぐに捨てたが、もしかして、これは連鎖するのか?
あぁ、大変なことだ。すまない。こんな文章は残すべきではなかった。何故思い立ってしまったのか。誰かが背中から囁いてきたのだ。
とにかく、悠長にこんなことを書いている場合ではない。
この文章は即刻廃棄することとする。
誰も目にできない所に捨てなければ。
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