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💠ほんとうは綺麗じゃないの

恋愛は所詮ゲームと同じだった。

私のことなんてタイプじゃなさそうな男が、だんだん私のことを意識しはじめて必死に心を繋ぎ止めようとしてくるのが楽しかった。

私は求められてる。

潤んだ瞳で男の目をじっと見つめて、か弱くていい子のふりをする。

最初に好きになるのは絶対に相手。

「私のことを好きな男」が好きだったの。だって当然でしょう?私のことが好きだから守ってくれるし甘やかしてくれるし可愛いと囁いてくれるんだもの。

私のことを好きじゃない男なんていらない。

『告白』されたらゲームオーバー。もう曖昧な関係ではいられないから。


でも別に嘘をついてたわけじゃないのよ。

相手のことで頭の中がいっぱいになって胸が高鳴る音が聞こえて、きちんと好きだったから。

毎日がキラキラして、可愛くなった自分にワクワクする。

この歪んだ自己愛の裏には、自己肯定感の低さが隠れていることなんて、とっくに気がついてた。だからやっぱり”こんな私”に必死になる男が急に気持ち悪く見えたりもして、一生懸命言い訳を作って仕方なかったことにした。

愛を返せないくせに、好きでもない男にめちゃくちゃに犯されるのは気持ちがよかった。

とにかく、私はその時をただ生きてただけ。悪いことをしてるなんて自覚はなかった。


なのに、

初めて本気で好きだと思う人が目の前に現れてしまった。

まさかそんな、愛なんてこの世に存在していても、自分とは関係のないものだと思っていたのに。

彼の前ではいい子のフリじゃなくて、ほんとのいい子になりたい。

彼と一緒にいるときの自分と、過去の自分が同じ人間だなんて思えない。あんな過去、無かったことにしたい。

彼が優しくあたたかく包んでくれるとき、どうでも良い男の生ぬるい息遣いを思い出して気持ち悪くなる。

どうして。私は彼に、彼に全部はじめてをあげたかった。

綺麗な私をあげたかった。

私がこれまでしてきたことを、考えてきたことを彼が知ったらどんな顔をするだろうか。この罪悪感を抱えきれなくて、全部吐き出してしまいたくなる衝動に駆られる。

でもだめ。彼の綺麗な色に、汚い色を一滴でも垂らしちゃいけない。

心に矛盾をかかえて、後悔して、懺悔して、今の幸せを噛み締める。

そうすることしか、今の私にはできないから。

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