💠捨てられたくなかったから、捨てた
1週間前、浮気がバレた僕のもとへ今日、彼女が別れを告げにやってくる。
社内で出会って交際に発展し、もう一年と半年くらいかな。
彼女の見た目は決して目立つタイプではないのに、なぜかいつも1番に目に飛び込んできた彼女。なんとなく目で追っているうちに好きになって、告白した。
いや、もしかしたら初めて見た時から好きだったのかもしれない。
付き合ってから彼女はよく口を膨らませて「浮気は許せない」と言っていたっけな。
そのたびに、そんな可愛い心配をしなくても僕にとって女の子は君だけなのにとくすぐったい気持ちになった。
けれど僕は浮気をした。
僕だって浮気は是が非でもされたくなかったし、する人の神経が知れないと思っていた。けれど、案外あっさりと、僕は浮気ができたのだ。
◇◇
ある日の同窓会、昔好きだった女の子が僕に対して気のある素振りを見せてきた。その子は昔よりずっと魅力的になっていて、同い歳なのに甘えさせるのが上手だった。彼女の揺らぐ瞳に捉えられた途端、吸い寄せられるようにキスをしていた。
そしてそのままホテルへ行った。
絶対するもんかと思っていた浮気の壁は簡単に倒れ、あっという間に僕は罪を犯した。彼女とは違う性格、違う身体、違うテクニック、違う匂い、その全てが新鮮で、久しぶりに心がときめき躍った。
◇◇
浮気をした翌日彼女に会ったが、思いのほか何も感じなかった。
もっと罪悪感に苛まれたり申し訳なく思うものかと思っていたが、むしろ安心している僕がいた。
ひどい話だが「僕は彼女に対してもっと酷いことをしているのだから」と裏でこっそり思うと、彼女に何でもしてあげたくなったし彼女の気分に振り回されてイライラすることもなくなった。
いつでも甘えさせてあげられたし、包みこんであげられた。
そんな余裕を見せる自分のことが気に入ってすらいた。
馬鹿な僕は心も頭もすっかり麻痺して、二重生活も馴染んでいった。
しかし、ある日うっかりスマホを置いてお風呂に入ってしまったことで、僕の余裕ある幸せライフは終わりを迎える。お風呂から上がって、彼女が僕のスマホを握りしめてブルブルと震えているのを見て、一瞬で察知した。
あ、バレた。
ここにきて初めて罪悪感や後悔が波のごとく押し寄せて、自分がいかに取り返しのつかないことをしたのかを足元からじわじわと実感した。
純粋な気持ちで愛し、まっすぐ見つめてくれる彼女と楽しく過ごす時間は二度と戻ってこないのか。そんな事をどこかで考えながら早口で弁解している僕の姿を、冷静な自分が冷たい目で見つめていた。
まったく自業自得もいいところだ。
僕は自分が傷つきたくないから、先に彼女を傷つけたんだ。余裕なんて初めから無かった。甘えていたのは僕の方だ。
◇◇
彼女は丸々1週間、連絡を返してくれなかった。既読のつかないメッセージが右側にだけ未練がましく連なっていった。
きっと1人で悩んだり、友達に相談しているんだろう。
僕は彼女と別れたくない。もう一度チャンスをくれるなら、彼女にだけ尽くすし他の女の子がいる飲みの場には行かないと誓う。
今更だけど、結婚したいと思う女性は彼女だけだった。
同窓会の女の子はただ、新鮮な性行為を楽しむための相手で、その子とは一緒になんてなれない。本気なんかじゃなかったんだ。
彼女は今日、僕に別れを告げに会いに来る。
僕はきっとみっともなく泣いてすがりつくだろう。もし彼女が許してくれたとしても、今までの関係がまるごと戻ってくるわけではないのに。
虫がいい話なのはわかっている。
でも僕は、彼女と離れたくないんだ。
どの自分が本当の自分なのかわからなくなって、ぐちゃぐちゃになりそうだ。
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