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潮田クロ
2023年10月19日 15:16
妾のことを愛人と言ったのは太宰治だそうだ。本当か嘘か知らないが、お陰で昨今、妾とは呼ばれない。妾の語感には日陰者のイメージがあるので、太宰治には感謝している。 かといって、愛人に日陰者のイメージがないかというと、これもある。テレサ・テンが「愛人」を歌って、いい歌だったが、愛人イコール日陰者のイメージが定着したように思う。もっとも、「愛人」の歌詞を書いた人は、現にある愛人イコール日陰者のイメージ
2023年10月18日 13:15
「けどさ、安心したよ」「何が」「てっきりソープ嬢にでも身を落として、兼田さんに貢いでんだとばっかり」「馬鹿。見損なうな。それに職業差別だぞ。前からお前、そういうとこあるよな」姉ちゃんは俺を睨んで、ぬるい茶をグビリと飲んだ。「あ。いや、別にそんなつもりじゃ。でも、大変じゃないの?意地張ってないで、帰っといでよ」「誰が。女一匹、こうと決めたら曲げないよ」うそぶく姉ちゃんに、変わらねえな、
2023年10月13日 14:21
どんなに深く結ばれていても、時間が経つにつれ、去っていった者への思いは淡くなり、あると信じていた絆もゆるんでいく。そして、全ては忘却の海に沈められる。 妻の真世が亡くなって、もう半年になる。時がたてば、その悲しみも薄まるものと思っていた。薄まることを期待していたわけではない。亡くなった当初は、この痛みをずっと覚えていよう、忘れまいと誓ったぐらいだ。 しかし、生きている人間には生活がある。私は
2023年10月12日 01:39
昔はね、年頃になったら、いろんな人が、お見合い話もってくるのよ。田舎でしょ、もうお節介な人ばっかりでさぁ、女は年頃になったら嫁に行くもんだったのよ。今みたいに、自立して生活するなんてできなかった。女なんて働き口もないしね。就職できて農協の窓口か製材所の事務員、給料やっすいしね、簿記なんかもちゃんと習ってないから、歳いって、若い子来たら、いつでも真っ先にに首切られるわけ。あの頃、ちゃんとした女の仕
2023年10月9日 17:50
日曜日のフードコートで見れるもの。うるさい子供連れの幸せ家族、ラーメン啜る汚い不良学生、妻の買い物待ちのほうけたオヤジ、ただ喋りたいだけのおばさん二人連れ、やっすい化粧してここしかくるとこない女子高生、嫌がる子供に焼きそばを食わす女、さっきから煙草を吸いたい男。不安でただ自分の手をさするしかない老女。不機嫌な爺さん。漫画を読むかゲームしてる小学生。うどんを持って空いてない席を呪う貧乏カップル。
2023年10月8日 13:15
家を建てる時、書斎にする二階は、壁を大きく切って広い窓にしてもらった。見下ろせば隣家の屋根だが、こうして机について水平に目をやれば、幾分かの雑木林、その向こうに山々の清とした連なりを見ることができる。秋が深まれば、尾根は白く染まり、私の目を更に楽しませてくれる。 もうひとつ私を楽しませるのは、窓の手すりに野良猫が、やってくることだった。一階の屋根づたいに近づいてきて、雨樋に器用に足をかけ、ヒョ