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マインクラフトやSpotifyを生み出した文化とは?~北欧のイノベーション事情(前編)

スタートアップ企業と言えばシリコンバレーが有名ですが、他にもユニコーン企業が多数輩出しているエリアが存在します。

今回は前編、後編の2回に分けて「Unicorn Factory」と表現されることもある北欧に注目。次々とユニコーン企業が輩出される背景にある歴史や文化、そして“サステナビリティとイノベーションの関係性“、“サステナビリティ×リテール領域”で活躍するスタートアップについても紹介したいと思います。

評価額10億ドル以上のユニコーン企業を続々と輩出する北欧

北欧のユニコーン企業と言えば、子どもから大人まで楽しめる人気ゲーム「マインクラフト(Minecraft)」の開発元である「Mojang」や、パズルゲーム「キャンディークラッシュ」を生み出した「King」、音楽やポッドキャスト、ビデオも楽しめる音楽ストリーミングサービスの「Spotify」が有名ですが、他にもNorthvolt、Wolt Enterprises、Klarnaなど評価額10億ドル以上のテクノロジー企業を輩出しています。

なぜ北欧でこれだけのユニコーン企業が登場しているのでしょうか?

その背景には、北欧独自のエコシステムが関係しているようです。Innovation Lab Asiaの「北欧イノベーションガイド2021」では、「市場資本主義と、それに市民に教育や医療、社会保障を無料で提供する包括的な福祉国家を組み合わせた“ノルディックモデル”」が、「強固な北欧イノベーションエコシステムの基盤」になっていることに加え、この北欧独自のイノベーションエコシステムの基盤があるからこそ、起業や新しいチャレンジを後押ししていることについて、以下のように述べられています。

人々は失敗を恐れることなく、失敗は避けるべきリスクではなく有益だとする文化を育みます。北欧の大学生の90%は起業家になることが文化的に受け入れられていると感じています

さらに、北欧諸国は公的機関からの資金調達やその他の支援のための機会やフレームワークも整っており、GDPで比較して欧州で最高レベルのR&D投資を行うなど、新しいテクノロジー活用にも積極的なことから「イノベーションと起業家精神を養う肥沃な基盤を築いた」と評価されています。

そんな北欧諸国の人口は5カ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)合計で約2,700万人程度。5カ国合わせても世界人口ランキング50位以内にも入らないほどの規模ですが、Innovation Lab Asiaによると、「一人当たりのユニコーン企業輩出数はシリコンバレー以外では世界最大」とされているようです。

イノベーション大国スウェーデン

その北欧の中でも注目したいのがスウェーデンです。スウェーデンは「グローバルイノベーションインデックス2021」でスイスに次いで2位、EUの「イノベーションスコアボード2021」でも2年連続1位となり、欧州におけるイノベーションリーダーとして評価されている国です。

オランダのデータプロバイダーであるDealroomが発表している「Sweden Tech Ecosystem : Report 2021」では、スウェーデンはヨーロッパ有数のイノベーション・ハブであり、スタートアップエコシステムの価値が2020年からわずか1年でほぼ2倍なったと書かれています。また、スタートアップへのVC投資は2021年だけでも78億ユーロに到達し、過去最高を記録。VCの資金調達によってヨーロッパで最も急速に成長している国であると評価されています。

さらに、アーリーステージの45%、レイターステージの67%が海外からの資金調達を実施しており、スウェーデン企業は海外投資家からも注目されているようです。

スウェーデンがこのようなイノベーション大国になれた理由について調べてみたところ、大きく3つのポイントがあるようです。

その1:新技術や情報社会へいち早くアクセスするためのデジタル通信用のインフラを整備

道路や水道、電力供給と同じように基本的なインフラの一部と考え、ストックホルム市内に敷設されるすべての光ファイバーネットワークを管理・調整するために、1994年にストックホルム市がStokabを設立しました。それにより、企業やユーザーが独自に大きなインフラ投資をすることなく、平等で合理的な条件でサービスを受けられるようになりました。

その2:「Home PC Reform(パソコン法)」により、多くのスウェーデン人にパソコンの基本的な使い方を学ぶ機会を提供

1998年に施行されたパソコン法により、企業が従業員の家庭にパソコンを購入した場合に税制上の優遇を与えることで、家庭にパソコンが急速に普及することになりました。さらに無料で教育を受けられる制度が充実していることもあり、一般的なコンピューターの能力やITリテラシーの向上につながっていると考えられます。

その3:複数の政府機関からの資金や情報提供など、起業家を支援するエコシステムを確立

スウェーデンでは、投資家や起業家に必要な情報を提供したり、活動のためのネットワーク、資金などをサポートする機関が複数存在しています。

例えば「Startup Sweden」はスウェーデン経済・地域成長庁が主導し、スウェーデンのスタートアップを国家レベルで支援するために2016年に創設されました。主に起業家向けに知識、ネットワーク、ツールの提供などを中心とした支援を行っています。

「VINNOVA(イノベーションシステム庁)」はイノベーション創出を推進すべく2001年に設立されました。新規プロジェクトや研究開発の支援、人材支援、情報提供などを実施。政府がインキュベーターと一緒にアクセラレーションプログラムを行うなど、企業のイノベーション創出を積極的にサポートしています。その他、Swedish Institute、Swedish Agency for Economic and Regional Growth、Research Institutes of Sweden(RISE)、Sting、Business Swedenなどイノベーターをサポートする機関が存在しています。

また、中学生や高校生などの革新的な能力を強化することを目的としたプログラムを提供する非営利団体Unga innovatorsなどもあり、学校が様々な組織と協力して、若者たちにテクノロジーや起業に関心を持ってもらうための活動をしています。

このような取り組みが、若き起業家たちの大きな助けや後押しとなっているようです。例えば、有名な話ではありますが、ストックホルム発のユニコーン企業であるKlarnaの創業者Sebastian Siemiatkowski氏はロイターのインタビューにて、スウェーデン政府の施策で低所得家庭でありながらコンピューターを手に入れたことで、彼は16歳からそのコンピューターでコーディングを始めることができたと言います。また、「スウェーデンにある社会的セーフティネットのおかげで、私たちはリスクを冒す可能性を低くすることができる」とも述べています。

このように、北欧ならではの文化や国として取り組んできた歴史が、ユニコーン企業が次々と輩出される土壌を作っていると考えることができそうです。

ちなみに、スウェーデンはイノベーションリーダーとして急成長している一方で、多様性に関する課題もあるようです。

先述したDealroomのレポートでは、スウェーデンのスタートアップ企業が調達した資本のシェアをみると、女性だけの創業チームの割合はわずか1%未満となっているようです。その上で、利益を見ると男性だけの創業チームと比べて女性だけのチームは45%も高い結果となっていることについて指摘しています。

こういった課題にどう取り組んでいくのかも含めて、引き続き注目していきたいところです。

次回は「サステナビリティ」と「イノベーション」の関係を少し深堀しつつ、サステナビリティ×小売領域で活躍しているスタートアップ企業をいくつか紹介していきたいと思います。

(後編につづく)

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