見出し画像

(アパレル・ファッション業界)人や社会、環境などに配慮した服作りを行う「エシカルファッション」の重要性

以前noteでは「アパレル業界で急速に進むリユース文化」という記事で海外のアパレル業界におけるリユースの潮流やスタートアップ企業の動きをご紹介しましたが、国内でもリサイクルやリメイクなど環境保護を意識した取り組みが進んでいます。
最近では洋服のリサイクル回収箱がオフィスビルや空港、商業施設の一部に置かれるといった、アパレル店舗以外の場所での取り組みも目にするようになりました。
今回は「エシカルファッション」に関する取り組みについて、「ファッション販売」編集委員の二本木 志保さんにレポート頂きました。

人や社会、環境、そして地域に配慮した商品やサービスを選択する消費行動を「エシカル消費」と言い、欧米では1980年代あたりからこの表現が使用されるようになりました。
一方、日本で「エシカル」という言葉が意識され始めたのは、2013年にバングラデシュで発生したビル倒壊事故がきっかけだと言われています。このとき、犠牲になった多くの人々が倒壊したビル内にあった縫製工場で働く労働者だったこと、彼女たちが劣悪な環境下で低価格で販売されるファストファッションのアイテムを縫製していたことが報道され、人や社会、環境などに配慮した服作りを行う「エシカルファッション」が注目を浴びることになったのです。
また、アパレル・ファッション業界では、2015年に国連サミットで採択されたSDGsをはじめ、2019年には国連貿易開発会議が「ファッション業界は世界第2位の汚染産業」と発表したことなどから、従来の課題であった余剰在庫や製造時の水質汚染といったさまざまな問題が大きく取り上げられるようになり、自社のものづくりを見直す企業が増えました。
特に消費者にわかりやすい「環境への配慮」から取り組む企業が多く、いつの間にか「エシカル」や「サステナブル」という言葉がトレンドワードのように使用される風潮が生まれました。しかし、当時は言葉の本来の意味を理解しないまま店頭でお客様を接客することになり、困惑する販売スタッフも少なくなかったようです。
すでに欧米では「エシカル」や「サステナブル」なものづくりは特別ではなくなりました。日本においても海外の講師を呼び、ファッションにおける「エシカル」や「サステナブル」な取り組みとは何かという研修を実施する企業も現れています。消費者の中で理解が広まりつつあることに伴い、商品を提供する側にも高い意識が求められる状況になっているのでしょう。

出典:ファッション販売2022年8月号
髙島屋のプロジェクト「デパート デ ループ」
デニム回収キャンペーンでのアップサイクルの仕組み

服から服を作る「アップサイクル」

エシカルなものづくりとして素材にフォーカスした取り組みが広がる中、アップサイクルによる素材開発に挑戦するところも増えてきました。これまで服のアップサイクルというと、ペットボトルからリサイクルしたポリエステル繊維を使用するケースがほとんどでしたが、服から服を作るという循環型の取り組みが目立ち始めています。
百貨店の「髙島屋」では、2020年6月に「デパート デ ループ」という、販売・回収・再生をセットにした循環型のプロジェクトを開始。第1弾として2021年にカシミヤの回収キャンペーンを行い一定の成果を得たことから、2022年4月には、着なくなったデニムを店頭で回収し1年後に新たなデニムとして販売する「デニム回収キャンペーン」をスタートさせました。回収したデニムはアップサイクルし製品化。2023年春に、デニムブランド「RED CARD(レッドカード)」とコラボレートした再生デニムアイテムが発売されることになっています。
オリジナルブランド「ネストローブ」を手掛ける株式会社ネキストでは、生地から服のパーツを細断するときに発生する裁断くずを活用したアップサイクル糸を作ることに成功。その糸から生地を織り、服を作る取り組み「アップサイクルリノ」を手掛けています。アップサイクル糸は強度を保つために裁断くずと新しいコットンを混紡して作られており、生地に独特な風合いが生まれることから、好評を得ています。
アパレル・ファッション業界以外の企業が発信する取り組みとして大きな話題となったのは、「地球を、着まわせ」をコンセプトに2020年4月に誕生したD2Cブランド「BRING(ブリング)」です。
「BRING」は衣類やプラスチックなどのリサイクル開発を手掛けるベンチャー企業・株式会社JEPRAN(前・日本環境設計株式会社)が運営。ユニフォームリサイクルに関するコンサルティング事業からスタートした背景から、大量に廃棄される服を循環させる仕組みづくりを始めました。
同社では服の原料としてよく用いられるポリエステルに着目。回収した服からポリエステル繊維を取り出し、新しく開発したリサイクル技術によってポリエステル樹脂へと生まれ変わらせ、糸を作って製品化し、「BRING」として販売しています。衣類の回収は参加企業の店頭などで行っており、ブランドの理念をはじめ商品の機能性やファッション性が支持され、2021年11月には初の実店舗を恵比寿にオープンしました。

出典:株式会社JEPLANプレスリリース
「BRING」のキービジュアル

新しい価値を作り上げる「リメイク」

アップサイクルの一つとして、最近増えているのは「リメイク」です。着なくなった古着や余剰在庫などに手を加えて新たな価値を付加し、お客様に届けるリメイクは、〝世界で1点だけ〟という希少性が受け、リメイクブームとも呼べる動きが起きています。そうした流れを受け、リメイクを取り入れるブランドや、新しくリメイクブランドを立ち上げるアパレル企業が現れました。
「アズ ノゥ アズ ドゥ バズ」などのレディスカジュアルブランドを展開する株式会社アズ ノゥ アズでは、15年以上前からリメイク商品を手掛けていましたが、リメイクブランドとして2019年に「FURUNE(フルネ)」を、2012年に「re.link(リリンク)」を立ち上げました。
「FURUNE」は海外から買い付けたヴィンテージや古着の良さを活かすデザインを考え、リメイクを行うブランドです。一方の「re.link」は、商品化のために作成したサンプルやB級品などを活用したリメイクアイテムを展開しています。
同社のパタンナーが加工やリフォームを施すため、ブランドの世界観を守りながら新しい提案につながる服作りを実現しているのです。ネームタグにはシリアルナンバーが振られ、製作シーズンや製作したパタンナーの名前が手書きされるなど、もともとこだわりが詰まったアイテムを展開し、ファンを獲得してきた同社ならではの強みが発揮されています。
また古着リメイクを軸にしたデザイナーズブランドとして注目されているのが、デザイナーの植木沙織氏が手掛ける「SREU(スリュー)」です。
2016年に「フルギニレース」としてデビューした当初から、古着をリメイクしたアイテムを展開していましたが、2020年春夏コレクションでリブランディングし「SREU」として再スタート。モードな佇まいを持つ大人も挑戦しやすい古着リメイクを提案し、楽天ファッション・ウィーク東京でコレクションを発表しました。
「フルギニレース」時代に、パリの伝説のセレクトショップ「コレット」(2017年に閉店)のオーナー、サラ・アンデルマン氏に評価され、パリの展示会に参加するようになったことをきっかけに、それまで国内向けと海外向けで変えていたデザインテイストを、植木氏が得意とするモードな大人が着られるリメイクに絞り展開したところ、海外で話題となり、国内企業からコラボレーションのオファーが届くようになったのです。
エシカル、サステナブル先進国で注目され、日本に逆輸入されたブランドといえるでしょう。

出典:ファッション販売2022年10月号
「re.link」のアイテムには一つ一つ異なる手書きのタグが付けられる

問われるエシカル消費への対応

このようにアパレル・ファッション業界では、各社・各ブランドが自分たちにできることからエシカルなものづくりを進めています。他方の服を買う側の消費者の意識も変わりつつあり、服を選ぶ際にデザインはもちろん、企業やブランドの姿勢を判断基準にする人も増えてきました。
特に若年層にその傾向が強く、電通グローバル・ビジネス・センターと電通総研が2021年7月に実施した「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」によると、「価格が高くても環境によい日用品を選ぶ」と答えた人の割合は18〜29歳では55%。日本全体の平均と比較すると7.8ポイント高い結果です。同様に「価格が高くても生分解性素材・天然原料を選ぶ」とした人は18〜29歳では38%で、全体平均の28.2%と9.8ポイントの差になっています。
家庭科の授業でファッションを通してエシカルを学ぶ活動に取り組む、高等学校教諭の葭内ありさ氏のような存在も現れ、教育現場からの意識変容も一部で起こっています。エシカルやサステナブルはこれからの時代においてベーシックなものと捉える人は、今後ますます増えていくことでしょう。
一過性ではなく事業としての持続性を鑑みながら、自社・自ブランドの個性や強みを反映させたエシカルな取り組みを行い、支持につなげていくことが、〝選ばれる企業・ブランド〟である上で重要になってくるのではないでしょうか。

(文:「ファッション販売」編集委員 二本木志保)

国内のアパレル・ファッション業界における「エシカル」への取り組みをレポートしていただきました。各ブランド・メーカーでさまざまな工夫をしていますが、ただ単にアップサイクルやリメイクをするだけでなく、ブランドの理念や世界観をしっかりと訴求したり、ファッション性や機能性などの面で付加価値を加えている点が印象的でした。
レポートにも書かれているように「一過性ではなく事業としての持続性」を持つことが企業のエシカルやサステナブルへの取り組みには欠かせないポイントであり、人や社会、環境、地域に配慮しながらビジネスとして成立させるための差別化や工夫は、今後もますます広がっていきそうです。若年層を中心にエシカル消費への関心も高まる中で、より良い顧客体験の創出につながるような新しいアイデアが次々と生まれることを期待したいです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!