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“すべて自分でやらない”という選択『WHO NOT HOW』読みどころ紹介

社会に変革をもたらすようなイノベーション創出は、決して一人だけで成し遂げられるものではありません。達成したい目標が大きれば大きいほど、解決したい課題が難しければ難しいほど、自分一人でできることの限界を感じる場面は増えるのではないでしょうか。

現状の仕事や自身のパフォーマンスに停滞感を感じている人や、もっとチャレンジしたいけれどやり方に悩んでいる人におすすめしたい一冊が、『WHO NOT HOW 「どうやるか」ではなく「誰とやるか」』です。

本書はタイトルのとおり、「どうやるか」ではなく「誰とやるか」の重要性について書かれた本です。人は大きな未来を描くとき、「どうすれば(How)この目標を達成できるか?」と考えがちですが、そうではなく「私がこれを達成するのを助けてくれるのは誰か?」と問いかけることで、時間の使い方や収入、人間関係や目的意識に変化が生まれることを説いているのが主題です。

この本の著者は起業家向けコーチングの世界的な企業ストラテジック・コーチの共同創設者であるダン・サリヴァン氏と、組織心理学者のベンジャミン・ハーディ氏。
ベンジャミン氏がダン氏の「どうやるのかではなく、誰とやるか(Who Not How)」に関するプレゼンテーションを聴講した後、この考えを世の中に広めるため書籍化を持ちかけたことから出版に至ったそうです。

本書では「PART1:時間の自由(どうやって自由な時間を増やすのか)」「PART2:お金の自由(どうやって収入を増やすのか)」「PART3:人間関係の自由(より質の高い人間関係を作るには)」「PART4:目的の自由(自分の時間をどう使うと人生の目的意識が拡大するのか)」という4つの観点について、「どうやるか」と問うのではなく「誰とやるか?(私を助けてくれるのは誰か?)」に問いを変えることで成功と自由、幸福を手にしたエピソードを「Who Not How」の考えを使って紹介しています。

「誰か」の存在がより効果的な結果を生み出す

何かを成し遂げたいと思った時、人は「どうやるのか?(How)」を考えがちです。しかし、「どうやるか?」にとらわれると、「自分の持つ知識と能力が、あなたの限界」になり、目標達成に向けられるリソースが限定的になり、「時間の自由」も減ってしまいます。「どうやるか?」ではなく、より効果的に望む結果を生み出す手助けをしてくれる「誰か」を見つけることで「時間の自由」を手に入れることができることを本書では説いています。

PART1では「16歳の少年が自分の好きなときに好きなものに使うお金が欲しいと思い立ったら?」「多忙な起業家が年老いた母親と共に過ごす時間を得るためには?」「インドに製造拠点を移すためには?」といった具体的なエピソードを元に、それぞれの周りにいる「誰か」によって、望む結果をずっと短い時間で手に入れ、時間の自由が増えた事例を紹介しています。そして、時間は有限だからこそ、自分の時間をコントロールするためには「どうすれば?」に時間を費やすのではなく、「誰か」に頼ることが重要だと言います。

では、そのような「誰か」はどうやって見つけることができるのでしょうか?
著者は適切な「誰か」はすでに準備万端で待ち構えているため、すべきことは、「自分のビジョンを明確に表現すること」だと言います。ビジョンの解像度を上げ、それを他者にきちんと説明できる状態にしておくことで、そのビジョンを実行してくれる適切な「誰か」が見つけやすくなるのです。
本書では、そのようにビジョンを明確にし、言語化するためのツール「インパクト・フィルター」についても紹介しています。

その他にも、一人ですべてをこなすことにこだわっていると、今後の可能性や選択肢を限定的にしてしまうことや、「何かをしたいのに、実行するだけの知識や能力が欠けているときに生じる、心理現象」=「先延ばし」の習慣を取り上げ、その時こそ「誰か」の助けが必要なタイミングであることについても解説しています。

「時間の自由」から生まれた余白を活用し、「お金の自由」を手に入れる

著者は時間の使い方を改善し、時間の自由を手にすることで、自分の時間とエネルギーを最も価値の高い仕事に集中できるようになり、「収入を増やす能力が自然と高まる」と言います。

さらに、多くの事柄を抱えていると、重要なことであっても些細なことであっても意思決定を重ねることになり、そのうちエネルギーを使い果たしてしまうという「決断疲れ」などの心理的負担をかけるケースも紹介。
意思決定が必要な面倒なことを「誰か」に見てもらうことでできた「余白」を活用してビジョンを広げることで、生活の質や収入を飛躍的に向上できると述べています。PART2では、そのような「時間の自由」と「お金の自由」の関係性を踏まえながら、お金の自由度を高めていくための考え方を解説しています。

また、「時間の自由をまだ手に入れていないのに、お金の自由を欲しがる」ことは自由が生まれる道筋ではないことについても言及しています。
本書では法律事務所の創設者が「誰か」を見つけてもビジョンが明確でないために失敗した事例や、とある会社のCEOが会社を買いたいという申し入れがあった際、会社売却の経験がないにもかかわらずすべて自分で対処しようとしたことで失敗した事例を交えながら、「お金の自由」を手に入れるために避けるべき考え方についても解説しています。

目標を想像もできなかった地点まで引き上げる「誰か」の存在

適切な「誰か」に頼ることで自分の時間が解放され、より意義のあることに集中できるようになる。その結果、より大きなビジョンや目標を掲げられるようになり、それを達成するために必要な「誰か」をまた見つけることが重要になります。PART3、PART4ではより質の高い人間関係を築くことで、自分では想像していなかった目標やビジョンへ大きく成長できること(「人間関係の自由」と「目的の自由」)について解説しています。

著者は、より良い人間関係を築いていくためには自分が他の人に役立つ「誰か」になることが大切であることを伝え、「私にどんなメリットがあるのか?」というテイカー(奪う人)の考え方ではなく「彼らにどんなメリットがあるのか?」というギバー(与える人)の考え方に基づくなど、「誰か」に価値を提供し、人間関係を育てるために必要な考え方を解説しています。

また、「競争」や「どうやるか」ではなく、「誰か」とのコラボレーションによって目的の自由度が高まり、目的意識が拡大する事についても伝えています。
例えば、とある弁護士が祖母の物語を世に伝えるため伝記を執筆するプロジェクトに取り組んだ事例を紹介。彼女は多忙で時間がない上に伝記を書いた事がないという経験不足によってプロジェクトが難航する中、伝記作家である歴史学の教授も祖母の伝記を執筆していることを知り、ライバルと捉えるのではなくコラボレーションの道を選択することで、最初に想像していたものよりもずっと優れたものになっていること、そして目標達成のためにコラボレーションが大切であることについて述べています。

また、このように「誰か」とのコラボレーションによって大きな目標を達成できることについては、この本ができるまでのエピソードそのものが示しています。
一部ご紹介すると、先述したとおり「どうやるのかではなく、誰とやるか(Who Not How)」についての考え方とツールを作ったダン氏は本書を1ページも書いておりません。そして実際に執筆の役割を担っているのは組織心理学者のベンジャミン氏。ダン氏にとっての「誰か」にあたります。さらに、ベンジャミン氏は本の出版がなかなか実現できずに苦労する中、その壁を乗り越えるために尽力してくれた人物がベストセラー作家のタッカー・マックス氏です。彼はこの本の出版以外にもダン氏のために仮出版契約の交渉を行っていたことから、ダン氏、ベンジャミン氏にとっての「誰か」にあたります。
そして、ダン氏もまたタッカー氏、ベンジャミン氏に大きなチャンスを与えた事から、二人にとっての「誰か」であることについて説明しています。このように、この本の制作プロセス自体が「Who Not How」を実践しており、彼らが互いに必要な「誰か」になることで、理想的なコラボレーションが生まれているのです。

「誰か」との人間関係において、お互いのヒーローを目指す

本書の最後には、起業家を後押しするメッセージが綴られています。著者は、成功した起業家が飛躍を見せるのは常に「誰か」を見つけたときであり、そこで経験した自己拡張により、それが「これ以外はありえない方法」と感じることができるようになると言います。さらに、「どうやるかではなく、誰とやるか」の考えを通し、自らの目標を果たすことで「誰か」のヒーローになり、また「誰か」が自分のヒーローになる。そのようにして自分の中の最高の部分が引き出されることで、人生で素晴らしいことを成し遂げることができると解説しています。

そして「人生とは、人であり、人間関係であると気付くようになるだろう。あなたが生み出した素晴らしいコラボレーションとチームワークによって、時には予期しないような方法で、人として何度も変容し、拡大する、自己変容を経験するようになるだろう」と綴っています。

このように「どうやるか」ではなく「誰とやるか」という問いを立てて行動することは、ビジネスでより大きな目標を達成できるだけでなく、自分自身を変革し、人生をより良くしていくことにもつながります。新しい価値創造やイノベーション創出を目指す起業家や新規事業に携わる人はもちろん、誰かに任せる勇気や、頼られる力を手に入れたい人にとってもおすすめの一冊です。


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