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Watcher #1
前から近づいてくる。
チカチカと、接触のわるい灯りがふたつ。
一定のリズムで、縦にゆれて。
子供のころ“お化け電気”って言ってたな。
ああいうのを。
もうわかっている。
あの光が“あれ”だということは。
慣れるものだ。
今回は、どんな形なのだろう。
カツンという音と、ヂャリㇼィという音が交互にひびく。
ゆったりと。
おれは、自分から近づいていった。
と言うより、わざわざ
Watcher #2
以前、あれに名前をつけようとしたことがある。
あれを全てひっくるめて呼ぶ名前。
だけど、しっくりくるものは思いつかなかった。
どの呼び方にも違和感があった。
個別の名前なら、まだマシなものはつけれたけれど···
同じものを見たことは、今のところない。
だから、個別につけてもなあ··といったところだ。
そして、あれについて誰かと共有することはあきらめた。
なので、あれの総称はいらない
Watcher #3
おれは“あれ”を、夜によく見た。
だけど、夜ではない時間帯にも、見たことはある。
陽がかたむいて、だいだい色の外。
ドラッグストアへのショートカットで公園を通りぬける途中。
なんとなく、そんな気分になって、空を見上げた。
夕空のみの視界。
そこへ、風に流されたシャボン玉が入ってきた。
シャボン玉の出どころを探るように、上げていたアゴを戻す。
「あ」
そこに“あれ”がいた。
白い
Watcher #4
おれの中では、“あれ”は幻覚だというのが有力だ。
検索したところ、幻覚には、
幻視
幻聴
幻触
幻嗅
幻味
体感幻覚
が、あるらしい。
おれは“あれ”を見ているし、あれが出す音も聞いている。
触ったこともあるし、匂いは···
錆っぽい“あれ”から、すこし錆びくささが、匂ったこともある。
味は、さすがに知らない。
これらを、幻覚で説明づけようとすればできてしまう。
体感幻
watcher #6
引きつづき、幻覚の原因を調べている。
気が向いたときに。
おれは“あれ”を見ることに、なれてしまっていた。
だから、幻覚に悩まされているわけでもない。
なので、緊張感もない。
緊張感がないといえば、幻覚の原因には、こんなのもあった。
たとえば、深夜の高速道路を車でながく走行しているとき。
眠くなるやつだ。
刺激が少なく、言ってみたら感覚遮断に近い状態。
そんな状態が途切れることな
Watcher #8
脳卒中で失明することがある。
そして、周りの人が、数日間、その人の目が見えなくなっていることに気がつかないケースがあるのだという。
当の本人が失明しているとは思っておらず、見えているかのような振る舞いをするからだ。
その人の視覚には、脳のつくった幻が満ちているらしい。
アントン症候群というそうだ。
おれは、脳卒中で倒れたことはない。
だけど、ネットでこの話を読んだとき、自分はこれなんじ
Watcher #10
MRIにはじめて入った。
脳の検査、一番やすいコースで3万だ。
結果は「異常なし」。
健康な脳だといわれた。
定期的に検査を受けることをすすめられたけど、医者も商売だからな。
検査に行って安心したもんだから、のんきにPCでネットを見ていた。
定期的に見にくいサイトがある。
無修正のサイトだ。
無修正なので、海外のサイトへとぶ。
あらゆる手で踏ませようとしてくる広告がひしめく。