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Watcher

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現代劇
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Watcher #31

Watcher #31

その日のオフ会で話をしたのは女性だった。

その女性は、自分によくしてくれた叔母がいると言った。

もしかしたら、その叔母の葬儀へ自分は行かないのかもしれない、とも言った。

その女性の叔母はまだ亡くなっていないし、病気をしたという話もないとのこと。

けれども、万が一の事を考えてしまうそうだ。

その女性は、子供のころよくウソをついていたと言う。

子供のころ、ウソをつくことはコスパがよかったと

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Watcher #30

Watcher #30

おれの立場がおかしなことになっている。

オフ会でのことだ。

参加者からおれへの悩み相談がたえない。

たけど、相談する人の大半が、話を聞くだけで満足してくれるので助かっている。

聞くだけでは終わらず、アドバイスをすることになってしまうこともあった。

そのときは、三木さんが助け舟を出してくれる。

おれは、ほとんど何もしていない。

なのに、悩み相談はおれの手柄になっている。

悩み相談が増

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Watcher #29

Watcher #29

相談を受けた。

オフ会でのことだ。

ただの飲み会と化したプチ飲み会とは別モノ。

普段、会うことのない人たちが、たくさんいた。

その中の少なくない数の人が、何故かおれを慕っている。

はじめて会った人の相談にのった。

おれのことを大したものだと錯覚してくれている。

なので、その人にとっては重要で、周りの人には相談できないような告白を聞けた。

その男性は、自分が“変わりたい”と“変わりた

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Watcher #28

Watcher #28

いつものプチオフ会が定番化して、ただの飲み会になっていた。

馴染みのメンバーとは、オフラインでのやり取りのほうが多くなっていた。

例えば、SNSに誰かが面白い写真をあげたとする。

しかし、オンラインでわざわざ絡むことは殆どない。

飲み会のときの話のネタにする。

「この前上げてた写真さあ···」と。

普段オンラインでやりとりしてるメンバーが、オフラインで会うからオフ会だ。

オフラインが

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Watcher #1

Watcher #1

前から近づいてくる。

チカチカと、接触のわるい灯りがふたつ。

一定のリズムで、縦にゆれて。
 

子供のころ“お化け電気”って言ってたな。

ああいうのを。

もうわかっている。

あの光が“あれ”だということは。

慣れるものだ。

今回は、どんな形なのだろう。

カツンという音と、ヂャリㇼィという音が交互にひびく。

ゆったりと。

おれは、自分から近づいていった。

と言うより、わざわざ

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Watcher #2

Watcher #2

以前、あれに名前をつけようとしたことがある。

あれを全てひっくるめて呼ぶ名前。

だけど、しっくりくるものは思いつかなかった。

どの呼び方にも違和感があった。

個別の名前なら、まだマシなものはつけれたけれど···

同じものを見たことは、今のところない。

だから、個別につけてもなあ··といったところだ。

そして、あれについて誰かと共有することはあきらめた。

なので、あれの総称はいらない

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Watcher #3

Watcher #3

おれは“あれ”を、夜によく見た。

だけど、夜ではない時間帯にも、見たことはある。

陽がかたむいて、だいだい色の外。

ドラッグストアへのショートカットで公園を通りぬける途中。

なんとなく、そんな気分になって、空を見上げた。

夕空のみの視界。

そこへ、風に流されたシャボン玉が入ってきた。

シャボン玉の出どころを探るように、上げていたアゴを戻す。

「あ」

そこに“あれ”がいた。

白い

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Watcher #4

Watcher #4

おれの中では、“あれ”は幻覚だというのが有力だ。

検索したところ、幻覚には、

幻視

幻聴

幻触

幻嗅

幻味

体感幻覚

が、あるらしい。

おれは“あれ”を見ているし、あれが出す音も聞いている。

触ったこともあるし、匂いは···

錆っぽい“あれ”から、すこし錆びくささが、匂ったこともある。

味は、さすがに知らない。

これらを、幻覚で説明づけようとすればできてしまう。

体感幻

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Watcher #5

Watcher #5

アルコール依存

ドラッグ

治療薬

トラウマ

断眠

統合失調症

認知症

てんかん

ナルコレプシー

代謝性疾患

幻覚の原因を検索してみたが、どれも自分に当てはまらない。

代謝性疾患は、糖尿や高血圧など、生活習慣病のことだった。

それらに幻覚の症状があるなんて、知らなかった。

統合失調症は、自覚がない場合とかあるのか?

それにトラウマも、「忘れているトラウマ」とか言われたら、

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watcher #6

watcher #6

引きつづき、幻覚の原因を調べている。

気が向いたときに。

おれは“あれ”を見ることに、なれてしまっていた。

だから、幻覚に悩まされているわけでもない。

なので、緊張感もない。

緊張感がないといえば、幻覚の原因には、こんなのもあった。

たとえば、深夜の高速道路を車でながく走行しているとき。

眠くなるやつだ。

刺激が少なく、言ってみたら感覚遮断に近い状態。

そんな状態が途切れることな

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Watcher #7

Watcher #7

左右の目の、極端な視力差が、幻覚を見る原因になっていることもあるらしい。

多い人は、日に数回も見るという。

おれの右目は円錐角膜というもので、視力が低い。

だから、視力差での幻覚を、おれも見ることはある。

はじめて“あれ”をみる以前から、見ていた。

見るといっても、おれの場合、年に一度みるか見ないかだけど。

視力差の幻覚と“あれ”は、全くちがう。

視力差の幻覚は、幻覚というより、目の

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Watcher #8

Watcher #8

脳卒中で失明することがある。

そして、周りの人が、数日間、その人の目が見えなくなっていることに気がつかないケースがあるのだという。

当の本人が失明しているとは思っておらず、見えているかのような振る舞いをするからだ。

その人の視覚には、脳のつくった幻が満ちているらしい。

アントン症候群というそうだ。

おれは、脳卒中で倒れたことはない。

だけど、ネットでこの話を読んだとき、自分はこれなんじ

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Watcher #9

Watcher #9

“あれ”になる夢をみたんだ。

自分が。

前に話すって言ったろ。

夢のはなしを。

おれがなった“あれ”は、おれが見たことないやつだった。

見た夢は、こんな夢だ。

おれを含めた、三人の人間がいた。

場所は、夢だとよくある、どこともつかない場所。

その内のひとりが、変な記憶を思い出すと告白しだした。

「どんな記憶だ?」と聞いた。

せまいところに、誰かと閉じこもっている、記憶らしい。

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Watcher #10

Watcher #10

MRIにはじめて入った。

脳の検査、一番やすいコースで3万だ。
 

結果は「異常なし」。

健康な脳だといわれた。

定期的に検査を受けることをすすめられたけど、医者も商売だからな。

検査に行って安心したもんだから、のんきにPCでネットを見ていた。

定期的に見にくいサイトがある。

無修正のサイトだ。

無修正なので、海外のサイトへとぶ。

あらゆる手で踏ませようとしてくる広告がひしめく。

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