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ツキノエッセイ

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なにげない日常だったり、ふらりと立ち寄った過去や、ふと思い出した記憶を拾い集めて、言葉の花束にしてみたい。 切り取ったシーンをそのままに ノンフィクションを始めてみる。 人生…
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#トラウマ

エッセイ|虎と馬

エッセイ|虎と馬

心臓が移動している。

左のこめかみあたりが、どくんどくんと鼓動を刻んでいた。

「偏頭痛ですね。」と診断され、拍子抜けしたのと同時に安堵したのは、中学生の頃。

見たことも聞いたこともないような様々な検査をしたものだから、自分はてっきり何か重い病気なのではないかと思い込んでいた。

その頃、頻繁に頭痛がおきていて、度々学校を休むこともあった。
父が頭痛持ちだったこともあり、祖母が心配して病院に連

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エッセイ|なのはな心療内科

エッセイ|なのはな心療内科

菜の花。
暖かな春に咲く鮮やかな黄色の可愛い花。
その名前に引き寄せられるように選んだ病院だった。

久しぶりに外へ出る決意をした日。
春はもうとっくに過ぎていて、夏も超えて、秋も十分に深まった頃だった。
ようやく自分が少し壊れてしまっていることを自覚し、病院に行くことを決めた。

_ 当時、私は自宅から歩いて数分の歯科医院で働いていた。男性歯科医一人と衛生士の先輩と私だけの小さな医院だった。

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昭和ガラスの向こう側

昭和ガラスの向こう側

椛だったか、桜だったか。
何か模様の入ったガラスの引き戸だった。
その昭和レトロガラスと呼ばれるガラスは、今はとても貴重なものらしい。

私にとって、トラウマのようなそのガラスの存在は、いつまでも記憶の一番奥の引き出しに眠っている。

両親が離婚して、母と弟と3人で暮らしていた頃。六畳二間の狭い借家にそれはあった。

ある暑い夏の日。
朝早くに目が覚めて、いつも隣に寝ているはずの母がいないことに気

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泣けないわたし

泣けないわたし

湿った薄灰色の空のにおい

ちょっとだけ強気な風が通りすぎる

午後はものすごーく、眠くて
ほんの少しだけうとうとした。。

色のない夢を見た

内容はあまり覚えてないけど、
小さなわたしが泣いている夢だった

わたしは、昔から
泣いちゃいけない。って思っていて
気づいたら、
泣くことができない人間になってた

嬉しくても
悲しくても
痛くても
怖くても

人前では絶対に泣かなかった

我慢強い子

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