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【エッセイ】忘れられないあの涙

私から溢れた涙はどこに消えていったのだろう。
私の記憶、時間、想いと共に全てがこの地上に吸収されていったはず。あんなにも流れ続けた雫の一つ一つの記憶を今、たどろう。

これまでどのくらい涙が出たのだろう。
小学生の時に楽しくておかしくてお腹をかかえて泣き笑いしたこと。母親とケンカして自分の間違えに悔しくて涙が溢れたこと。
一番大事な涙なんて存在しないと思う。
いつだってその時の自分に必要な涙のはずだから。
でも、あの涙は他のとは違っていた。
また同じことがこの先あるのかどうかも分からいほど不思議な涙。

自分について考えていた時にその涙は初めてこぼれ出した。何の理由もなく。

この涙はいつもと違うとすぐに分かるほどだった。
ただ流れを止める方法が見つからないかのように溢れだしてきた。今まで自分がしてきた事や小さい頃の記憶。家族との様々なできごと。

はっきりしていたのは、これらの中の1つや2つの事が私の涙を作っているのではないということだった。私を今の自分にしてきた数え切れないほどの毎日への想いが一気に溢れてきたのだ。

悲しかったわけでもなく、辛かったわけでもない。感謝とかそういった類の言葉では表せない何かが気持ちを一杯にしていた。

その涙の一つが流れに変わった頃には穏やかな気持ちでいっぱいになっていた。
そんな涙があってもいいのかもしれない。
理由なんてなくていい。きっかけがあっただけ。
全てが流れ終わったときには、幸せな気持ちだけが残っていたのだから。それで充分だと思った。

後から涙の理由を考えても良かったのかもしれない。
でもそのまま……理由なく受け止めてもいいんじゃないかと思った。

こんな経験が全ての人に起きるかどうか私には分からない。私と同じような考え方をする人がいるのかどうかも。

もし、こんな不思議な涙が流れ始めたら心にそっと置いておいてもいいのかもしれない。そういう経験だって素敵だと思うから。人生の不思議なパートの一部に、自分だけの不思議な涙をくわえておくのも。

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