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「全国オーガニック給食フォーラム」資料集についてのメモ

2022年10月26日の「全国オーガニック給食フォーラム」参加者に配布された資料集を読んで私が気づいた点を書き留めています。色々追記・修正していく可能性もあるため、ひとまず(ver.1.00)とします。

全国オーガニック給食フォーラムの開催概要はこちら。22年11月現在、アーカイブ配信チケットは引き続き購入が可能。

参加者に配布された資料集もオンラインショップから購入が可能。

なお、本記事は「現在のオーガニック給食運動には多大な問題点がある」という認識に基づいて、批判的に書かれています。そのため、前提として「何がどう問題なのか」を簡潔にまとめた拙記事を併せてお読みいただくことをお勧めしております。

第一部:フォーラム編

P.2-3 見開き巻頭言

千葉県いすみ市で田植え体験をおこなう子供たちがカメラに向かって手を振るさわやかな写真を背景に、巻頭言は「NPOメダカのがっこう」理事長の中村陽子氏。

「有機農業の頑張りは、効率優先、利潤追求の流れに押し戻され」
「食と農と環境の悪化」
が進み、
「日本人のほぼ全員の尿からネオニコチノイド系の殺虫剤が検出」され、「日本はもう終わった」
と思ったところに、再び吹き始めた「有機の熱い風」こそが「オーガニック給食」であるという仕立てになっている。

有機農産物を選択しなければ日本人の健康が致命的に脅かされるという世界観が、もはや疑いのない前提として、冒頭から堂々と共有されている。これが本フォーラムの実行委員たちの共通認識、ということなのだろうか。

また「たくさんの首長さんたちが立ち上がり」「市民団体の方々とも仲良く繋がって」きたとも言及されており、オーガニック給食運動における市民団体の影響力を高く評価していることが窺える。

P.5 実行委員長挨拶

目次をはさみ、続いてのページは実行委員長である千葉県いすみ市長、太田洋氏の「開催に向けて」の言。本文を引用する形で「次世代を持続可能性に富んだオーガニック食材で育てることが、私たち現代の大人たちに課せられた使命」という見出し。

P.6-9 海外の先行事例

ここから本編へ。まずはフランス、韓国の事例紹介が各見開き2P。
フランスのページでは健康不安への言及は特になし。韓国のページでは運動の発端として、食中毒の多発(給食自体の品質の低さ、衛生管理のずさんさ)が挙げられている。

また韓国の関係者の声として、オーガニック給食を導入したメリットを「農家と子どもたちの健康も守られています」としながら、同時に「科学的にどのくらい良くなったかは、10年以上過ぎてからでなければわからない」とも併記しており、ひとまず具体的な根拠のない希望的観測であることがわかる。

P.12-13 オーガニック給食マップ

農水省、文科省、環境省の取り組み紹介を経て、見開きのオーガニック給食マップ。令和2年度の農水省の調査を根拠として「学校給食で有機食品を使用しているのは123市町村」という見出しがついているが、マップ上では公立小中学校だけではなく幼保や私立校も含まれているほか、数年前に1品目が使用されたのみの事例や、海外産バナナを使用した事例までもカウントされている。これらもオーガニック給食が実現されたという定義に当てはまるのだろうか。

P.15-17 現場からの声

続いて4地域事例の紹介をコラム的に挟み、「現場からの声」と題して
JA常陸組合長の秋山豊氏、
学校給食地産地消食育コーディネーター杉木 悦子氏、
千葉県いすみ市農林課主査 鮫田晋氏の寄稿が続く。

P.18-19 特別寄稿

鈴木宣弘氏、Yae氏、内田聖子氏による特別寄稿。
鈴木氏(東京大学大学院農学生命 科学研究科教授)は「子供たちを標的にした洗脳政策」として戦後食生活の欧米化が米国の陰謀であったこと、また子供を実験台にしたゲノム編集作物の利益が米国発グローバル企業に還元されることを告発。「世界一洗脳されやすい国民からの脱却」のために学校給食を有機化すべきと主張している。

鈴木氏、内田聖子氏のどちらも「給食無償化」を併せて主張している点も留意しておきたい。

P.20-21 子どもたちのために立ち上がった<カッコいい>トップたち

次に、「子どもたちのために立ち上がった<カッコいい>トップたち」として見開きで、フォーラム参加23自治体の首長からの一言メッセージ。あからさまに健康不安を煽るような文言はさすがに見られないものの「安心安全」「子供たちの健康を守る」といった種類の表現が頻出する。

オーガニック給食について自分達の意向に合致する動きを見せているという理由で、自治体首長という権力者に対して安易に<立ち上がった><カッコいい>などと全人格的に持ち上げてしまうのは、運動家としてもあまりに無防備で楽天的ではないかと心配になる。

第二部:資料編

P.22-23 オーガニック給食基本資料

ここから後半「資料編」に移行する。間違いなく、本資料集のハイライトのひとつがこの「オーガニック給食基本資料」だろう。

「SDGsにも貢献!オーガニック給食の意義とは?」という見出しに続き、真っ先に「1, 健康に良い」の項目からスタートする。

その後は「2,環境に良い」「3, 社会に良い」 と続くが「1, 健康に良い」に最も多くスペースを割いている。

本文では、
「40 年前には、アトピーも食物アレルギーもなかった」のに
「今では日本人の 3 人に 1人がアレルギー」で、
「2000年以降、日本や欧米各国で発達障害児が急増」しているが、
「農薬や PCB など有害な環境化学物質に曝露すると、発達障害のリスクが高くなる」ことが報告されている、

としてアトピー、食物アレルギー、発達障害児の急増が農薬の使用によるものであることを事実上断定する書き振りとなっている。

同時に「有機農産物を食べることで、体に入ってくるネオニコチノイドを減少できる」としてオーガニック給食のメリットを強調。「危ないかもしれないものは摂らないよう、予防原則で」行動すべきと締めくくる。

この項目に関しては出典が示されており、
木村-黒田純子氏、黒田洋一郎氏、
一般社団法人 農民連食品 分析センター、
NPO法人 福島県有機農業 ネットワーク

の資料となっている。

なお、このページで使用されているグラフ等の画像は、資料集の編集を担当する「NPO法人メダカのがっこう」が近年のセミナー等で使用している内容とほぼ共通している。
https://www-city-oyama-tochigi-jp.cache.yimg.jp/uploaded/life/264811_365356_misc.pdf

栃木県小山市のサイト上で公開されているNPO法人メダカのがっこうのプレゼン資料より

さらには「オーガニック給食にすると、良いことが起きた!」との見出しで、笑顔の女児の写真を囲む形でさまざまな「証言」が短く箇条書きされている。そこには、

「発達障害の子どもが穏やかになった」
「アトピーが改善したり、インフルエンザの欠席が減った」
「36.5 度以上の子どもの割合が増えた」など、
前項の「メダカのがっこう」の資料で告発されている農薬批判をなぞるようなものが多い。

また、同ページにはコラム枠として「子どもの心と健康を守る会」代表の国光美佳氏「ミネラル・オーガニック給食で、子どもが落ち着いて、元気に!」(株)菌ちゃんファーム代表の吉田俊道氏「マミー保育園の給食は、ミネラルたっぷり」など「ミネラル」を強調する内容が連なる

こうした表現に懸念を示す関係者はいなかったのか。また、参加後でもこれを懸念し主催者に問合せをおこなった自治体や議員、参加者はいなかったのだろうか。

P.24-29 オーガニック給食の課題と解決のヒント

ここでは安定供給、調理現場負担、予算など、導入の壁となりやすい課題と、それに対して考えられる対応策や解決事例を紹介している。

驚いたのは、P.28「できるところから変えてみよう」のページ。欄外のような小さな枠で「子どもが元気になる給食のため、まずは、できるところから」という見出しとともに、

「「オーガニック給食」は、単に有機 JAS 認証をとった農産物だけの給食 という意味ではなく(中略)安全安心な食材を使うこと、地産地消や国産、和食、無添加など、広い概念」

と、こともなげに書かれている。良し悪しはともかく、ここまで概ね想像の範囲内で書かれている本資料集だったが、この部分だけはびっくりして声が出た。

このような定義は初めて耳にした。地産地消や国産までも「オーガニック給食」と呼ぶであれば、既に十分それらの取り組みを進めている地域でさらに有機農産物の導入を進める理由はあるのだろうか。

ここまで散々、農薬の恐怖を主張しておきながら突然、何食わぬ顔で大幅に定義を拡大していて、困惑を隠せない。このあたりの認識にはおそらく実行委員会(もしくは資料集の編集部)内部でも相当のグラデーション、または擦り合わせ不足があるのではないだろうか。

さらにP.29「予算」のページでは、全国76自治体で給食が無償提供されているとして「給食費無償化は、オーガニック給食導入による給食費値上げ解決の1つになる」と両者を接続。

こちらもよくわからない。ひとたび無償化さえしてしまえば高額な有機食材を使用しても直接の保護者負担が発生しないから良い、という論理なのだろうか。

無償化とオーガニックをそれぞれ別の議題として提起するならまだ理解できるのだが、どのみち原資は市民の税金であることを考えるとあまりにも乱暴なドッキングではないだろうか。

P.30-34 条例、映画と書籍ほか

その後は、オーガニック給食に関連する自治体(韓国を含む)の条例紹介、オーガニック給食の歴史の紹介などが続く。近年Twitterでの発言が農業関係者の間で度々物議を醸しているオイシックス・ラ・大地の藤田和芳氏も登場し、やはりなぜか給食費無償化を主張している。

巻末にはオーガニック給食にまつわる映画と書籍の紹介、協賛広告が連なる。映画にはいただきます2〈オーガニック給食篇)」「食の安全を守る人々などがピックアップされている。

最終ページ「オーガニック給食宣言」

そして資料集の締め括りはフォーラムでも終盤に発表された「オーガニック給食宣言」が全文収録されている。

宣言者として古田貴子氏(自然栽培給食プロジェクト団体〜まんま〜)
宣言文起草者には、古田氏に加えて
亀倉弘美氏(大磯ハッピースクールランチプログラム)
後藤咲子氏(食べもの変えたいママプロジェクトみやぎ)

が名を連ねる。

宣言冒頭では、巻頭言の「メダカの学校」中村氏と鏡合わせのように、
「健康をつくるはずの食が、いま脅かされて」いて、
「わが子のアレルギーと家族の体調不良」の経験から
「日本の食の在り方に危機感」
を持ったという世界観がまず開陳される。

日本は世界の潮流に逆行し「農薬の規制緩和、遺伝子組み換え作物、ゲノム編集食品、食品添加物、種子法廃止や種苗法の改定」など不安だらけであり、これを解決するのがオーガニック給食であるという。

なお、この「オーガニック給食宣言」の内容に対しては「優生思想、家族主義を連想させる文言がある」という指摘があった旨を主催者が後日発表している。

発表内容によると、主催者サイドではこのような批判を踏まえ協議をおこなった結果として「オーガニック給食を広める活動を通して、本来の「健やか」の意味を取り戻したい。そして、誤解や分断を生まないよう、対話と新たな発信で広く社会に訴えかけたい」と述べ、「宣言文の修正は行わない」結論に達したとしている。

しかし、オーガニック給食運動が発達障害に対する無理解と差別的偏見・自己責任論の助長につながるメッセージを繰り返し発信している点については、関係者はどう考えているのだろうか。

冊子編集を担当したのは「NPO法人メダカのがっこう」

裏表紙には「活動に悩んだらメダカのがっこうが相談に乗ります」との一文が記載されており、冊子を手に取る市民団体や一般生活者を強く意識していることが窺える。

今回、フォーラムに名を連ねた自治体の首長らが、この冊子の内容を隅々まで読んでいるとは正直考えづらいが、特に「オーガニック給食基本資料」に掲載されているような健康不安を煽る内容について、どういう認識を持っているのか、聞いてみたいところだ。



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