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#015.楽器を大切に(破損させない15のポイント)


金属は柔らかく、そして硬い

金管楽器はぶつけたり、落としてしまえば簡単にグニャ!ボコ!と曲がったり凹んだりします。凹んだらリペア(修理)に出せばいい、と思うかもしれませんが、ハンマーで叩いて戻るのは見た目だけです。金属は凹んだり曲がると、その部分が伸びて薄くなってしまいます。一度伸びた部分は二度と元の厚さには戻りません。

楽器表面の傷も同じです。メッキやラッカーを再びかけるのはお金も時間もかかりますし、よほどの理由がない限り現実的な行為とは言えません。コーティングも厚くなりますから、音もだいぶ変わります。

そこで今回は、大切な楽器をいつまでも良いコンディションに保つための扱い方の鉄則15を解説していきます。今回のお話は特に楽器表面に対してのケアです。凹ませない、傷つけないためのポイントをご紹介します。

楽器を始めたばかりの方、特に小中学生の方にはぜひ読んでほしい記事です。


1.ベルで立たせない

トランペットは形状から、なんとなく自立しそうなイメージを持ってしまうのかもしれません。もしかしたらスタンドに立てかけてある状態を見て、そう思ってしまったのかもしれませんし、カタログや教本の表紙などでこのような写真を目にすることがあるからなのかテューバやユーフォニアムがそう置いてあるからなのかわかりませんが、ベルを床に直接置く人がいます。特に小中学生に多い印象です。

これはいけません。トランペットはベルで立たせても非常にバランスが悪いのです。もし倒れたらその損傷は計り知れませんし、倒れなくてもベルは傷つき、そして重さを一点に受け止めるので歪んだり折れる可能性があります。そのバランスを補おうとしているからなのか、足でベルを押さえている人がいますが、もうそこまで来ると呆れが先に来てしまいます。絶対にやってはいけません。

2.丁寧に置く

金管は金属でできているので硬いイメージを持ってしまうからなのか、雑に置く人がいます。しかし楽器の金属の厚さ、信じられないくらい薄いのをご存知でしょうか。試しにどこかの管を抜いて側面の厚さがどれくらいあるのか観察してください。

何と繊細な金属。めっちゃ薄いのがわかりますよね。こんなのちょっと力を込めれば指の力だけで簡単に潰れます(やれとは一言も言ってない)。

ですから、とにかくそっとおきます。どのくらい「そっと」かと言えば、おいた時の衝撃や音がまったくしないレベルです。

3.イスの上に楽器を置かない

多くの部活動では自分のイスに楽器を置くことが多いので何がいけないのか、意外に感じるかもしれません。では、いつも楽器をイスに置いている方、ベルの側面(外側)をじっくり見てください。イスのふちに当たる部分、細かなこすり傷、もしかすると凹みがあるかもしれません。

イスに置く危険性は傷が付くことだけではありません。イスの座面はトランペットの全長よりも小さいので、ベルやマウスピースは座面の外に出ています。そのベルやマウスピースに足や荷物が当たったら、と考えると結構怖くないですか?

僕が高校生の時、母校の中学校の部活に遊びに行き、一緒に合奏をしていたのですが、それこそ休憩時間にイスの上に楽器を置いて席を立ったその間、誰かが僕が使っていた譜面台に足をひっかけて倒し、その譜面台が見事に僕の楽器のマウスパイプに当たってベチャンコになったことがあります。

いつも言うのですが、これが本番前日だったらどうですか?そう考えて日頃から極めて安全に楽器を扱う意識を持って欲しいのです。

4.高いところに置かない

イスや机の高さも十分「高いところです」です。なぜ置いてはいけないのか。ぶつかりやすく落ちたら終わりだからです。高いところは腕やカバンが当たりやすい位置です。

これは僕ではありませんが、楽器をそうした高いところに置いたほんの一瞬、バランスが崩れて落下し、ベルが曲がって演奏できなくなった、という話を聞きました。しかもそれがこれから本番の会場で、です。恐ろしいですね。

5.スタンドに立てかけてその場を離れない

トランペット専用のスタンドをお使いの方も多いと思います。

ベルに差し込んで直立させるのですが、これは演奏中に足元に置くためのものです。合奏中、トランペットを演奏しない時間にこれを使うことで手や腕の労力を軽減することができます。以外にこの「持ったままの状態」がパフォーマンスに悪い影響を与えるそうです。
また、トランペットとコルネットを両方使う場合などにもスタンドは非常に重宝します。

しかしスタンドを使用するのは自分がその場にいるときに限定しましょう。立てかけたまま席を外してはいけません。

理由は、もう説明しなくて大丈夫ですよね。スタンドは非常に倒れやすいのです。細長いものは軽く当たれば倒れます。

6.少しでも不安定だと感じるところには置かない

ここまで解説すればお分かりになるでしょうが、もはやあらゆる不安定なところには一切置かないことが重要です。神経質だと思う人もいるでしょう。でも楽器の安全を確保する気持ちは神経質すぎでちょうどいいのです。これから起こるネガティブな可能性を全て危険視しましょう。

では、どうすればいいのか。答えは簡単です。

7.ケースに入れる(ハード、セミハード)

そう、トランペット専用のケースに入れることが最も安全なのです。ただし、ソフトケースはNGです。この場合のケースとは、ハード、もしくはセミハードを指します。
僕はレッスンのときも合奏の時も休憩時間など席を立つ際には必ずケースに楽器を入れ、その場を離れる際にはフタも開かないようにします。

8.移動はケースに入れて

楽器を移動するときも当然ケースに入れます。吹奏楽部ではよくパート練習と合奏で部屋を移動することが多いと思いますが、移動時、楽器をそのまま持っている人がとても多いです(しかも走る人がいる!)。あれは本当に危険です。学校はたくさんの人がいる場所です。廊下の曲がり角から人が飛び出てくることも多いし、何が起こるかわかりません。

楽器をそのまま持って移動して良いのは、舞台袖からステージの間だけです。

9.ベルのカーブしているところに腕を通さない

ベルのカーブしているところというのは

ここです。ここに腕を通し、まるで買い物袋でもかけているかのような持ち方をする人が結構います。

この持ち方は楽器が揺れるのでどこかにぶつかる可能性が高く、非常に危険です。そして、この持ち方をしていると両手が空くために「もっといろいろ持てる」と思ってしまいます。部屋移動をする際、楽器以外に楽譜、譜面台、メトロノームなど、いろいろな道具を持つ必要があり、それを一緒に全部持って、譜面台と楽器が歩くたびにガチガチ当たっている人を見かけたこともあり恐怖でした。

10.マウスピースを下に向けない

マウスピースが抜け落ちないよう、楽器本体よりも低い位置になることがないようにします。初心者に多いので気をつけましょう。落下しないための対策として、マウスピースを楽器に装着するときは、ほんの少しキュっと回し入れるようにします。抜く時も同様です。
マウスピースも楽器同様、一度傷つけたら元には戻りません。特に唇の当たるリム周辺を傷つけてしまったら、唇が怪我をするかもしれませんし、シャンク部分(楽器に差し込む部分)を凹ませたら演奏に影響が出ます。マウスピースに関しては過去の記事「008.マウスピースについて考える その2」に詳しく書きましたのでそちらもぜひご覧ください。

11. 3番管のストッパーをこまめに点検する

この楽器は3番管落下防止ネジがついています

3番管は演奏中頻繁に抜き差しするのでトロンボーンのスライドのように抵抗なく動かせる状態保つのが鉄則ですが、そのために3番ピストンを押しただけでストンと落ちてしまいます。そのため、落下防止のためのストッパーが付いていることが基本です。写真ではネジになっていますが、もしこれが緩んでいたら、簡単に落下します。

実際、ピストンをたくさん押しているうちにネジが緩むこともあり、ヒヤっとしたことが何度かあります。また、Bach製品は3番管全体が抜け落ちることはないのですが、その先端部分だけを引っこ抜いて水分が出せる構造になっているために、間違った使い方をすると(3番ピストンを押さずに3番スライドを抜き差しすると)先端部分の管が飛ぶことがあり、注意が必要です。

12.オイルを注すときやスワブ、グリス塗りや、その他メンテナンスをするとき

日課のバルブオイルを注す際、またはグリスを塗るときなどは楽器本体と対象のパーツが分離しています。どちらのパーツにも配慮しないと、トラブルが起きる可能性が高くなります。このような場合には、必ずひとつひとつの手順を確認しながら安全に行います。例えば、

「チューニングスライドを置く場所確保」

「グリスのフタを開ける」

「楽器本体からチューニングスライドを抜いた」

「管を安全なところへ置いた」

「楽器本体をケースに戻した」

「チューニングスライドにグリスを塗った」

「管を安全なところへ置いた」

「指についたグリスを拭いた」

「楽器本体を手に取った」…


決して面倒くさがっていっぺんに進行させないことです。


13.クロスで表面を磨くときにも注意する

練習後、楽器を片付ける際に専用のクロスで表面を丁寧に拭き上げるのも当然ですが、そのときにも危険が潜んでいます。

楽器を拭いているそばから指紋を付けるわけにいきませんので、持ち方が独特になることが多く、手を滑らせやすいです。また普通に持っているときと違いますから思わぬところへぶつけてしまうこともあります。

楽器を拭き上げる際は周りの空間にも楽器本体にも意識を強く持っておくことが大切です。特に慌てている時には注意しましょう。

14.ソフトケースでの混雑したところは細心の注意を払う

ソフトケースには楽器を守る機能がほぼありません。あくまでも運搬を目的としたケースですから、混雑した街中、電車やバスの中、学校の廊下などは常に細心の注意を払いましょう。

一般の人からすると、そのカバンの中に高価な楽器が入っているなんてこと知るよしもありません。ですから街中の人たちは悪気がないままぶつかってくるかもしれませんから、私がソフトケースで移動しなければならない時は(極力しないようにしていますが)、肩にかけた挙句に前に抱き抱えています。特に混雑した電車などでは抱き抱えていないと圧迫に耐えられません。

15.ハードケースであっても注意

ではハードケースや、セミハードケースは絶対に安全かと言えばそうではありません。楽器ケースは強い衝撃と圧迫には弱いので、先程書いたように満員電車などは大変危険です。

実際に体験した話ですが、セミハードケースの底にあたる部分にピッコロトランペットのベルがくるよう入れていたところ、ケースを地面に置いたときの衝撃がベルに影響を受けて一部が折れ曲がってしまいました。

また、ハードケースをイス代わりにしている人をたまに見ますが、言語道断です。

さて、今回15の気をつけて欲しいことを書きましたが、結局のところ楽器がいつまでも美しい状態のままか、ボロボロになってしまうかは、楽器を大切にしようと思う心、愛情をどれだけ注いでいるかだと思うのです。楽器のコンディションとパフォーマンスは比例します。ぜひ楽器は極端なまでに大切に扱うよう、心がけてください。

部活動で楽器を借りて演奏している方へ

部活動で楽器を借りて演奏している方、その楽器は歴代の先輩たちが大切に使い続けてきたからこそ、今あなたが演奏できていることを忘れないでください。そしてその楽器はあなたが引退した後、後輩が使うのかもしれません。そうやって吹奏楽コンクールやコンサートで部活の音を作り上げているのですから、ぜひ感謝の気持ちを持って大切に大切に扱ってください。

それでは、また次回です!


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。