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可愛らしくも切ないマイノリティの物語「バクちゃん」

今回は、先日読んだ漫画のご紹介をさせてください。

「ねぇ? 日本は、東京は、どう見える?」

第21回文化庁メディア芸術祭【新人賞】を受賞した著者が贈る、
移民バクちゃんの「すこし不思議」で「すこしリアル」なダイバーシティ物語。
夢が枯れた故郷から地球へやってきたバクちゃん。
永住をめざし賢明に生きるバクちゃんの目にうつる東京は、わたしたち「みんな」の世界かも。(amazonページより)

主人公バクちゃんは、「夢」という食料資源が枯れてしまった故郷の星から、地球の日本に移民としてやってきた宇宙人(バク)です。1巻では、故郷とは異なる生活習慣に戸惑ったりしながら、地球や日本に適応し、永住権を取ろうとがんばるバクちゃんの姿が描かれています。

主人公がバクっていうところからファンタジーストーリーだと想像されると思いますが、ところがどっこい、これ以上ないくらい現実の物語でした。
日本に住む実際の移民たちや、世界中に散らばる「故郷とは別の国で懸命に生きる移民・難民」の姿を、ファンタジーという衣装をまとって描き出しているのです。

バクちゃんは物語中でさまざまな移民仲間(それぞれが別の星から来ている異星人たち)と交流するのですが、これも移民社会の凝縮というようなエピソードがギュッとこめられていて興味深く読みました。
以下は、地球に27年住んでいるという、区民館の掃除係サリーさんとバクちゃんの会話です。
(バクちゃんは区民館に、履歴書の書き方を習いに来ていた)

バクちゃん「27年いて、地球は好き?」
(しばし沈黙)
サリーさん「選択肢なし(ノーチョイス)」

サリーさんは、長い移民生活の中で子育てもしていて、息子さんを大学に通わせたり、娘さんが横浜で仕事を得るほどに育て上げました。
でもそれは、目の前のことに懸命に対処していたらできた結果であり、好きでこの地を選んだわけではないのでしょう。現実世界でも移民の生活って、本当に選択肢が限られるんですよね。語学力不足やワークビザの制限で、気軽に転職もできなかったり。そもそもその場所に流れついたのだって、本人の意思とは関係なかったケースも多いはずです。
好き嫌いを言っている余裕もなく懸命に働き、子育てをしてきたサリーさんの人生が、この短い会話の中からも想像できました。「バクちゃん」って、余白から感じ取れることが多い漫画だと思います。

そして、私が気になったもう一人のキャラクターが「ダイフクくん」。
ダイフク君が出会ってすぐのバクちゃんに言った「自分の星に帰ることが一番いい選択肢だろうな。地球でほどほどに暮らしたらさ」というセリフは、多くの移民が現地民から思われてる/言われている言葉です。あの場面、私とバクちゃんの表情のシンクロ率は100%でした。

ネタバレになるといけないので詳細は書きませんが、ダイフク君の生い立ちを知るにつけ彼の存在が私の子どもに重なり、後半のシーンで泣いてしまいました。

どうしてこんなに移民の状況や心情をリアルに描けるのかと思ったら、作者の増村十七さんも、カナダでの移民経験があるのだそう。もちろん日本の取材も綿密になされているそうですが、繊細な心情などはご本人の経験が反映されているのではないでしょうか。

そして移民以外にも、同性カップルなど多様性のあるキャラクターが登場します。著者の視線は、そういったマイノリティの方々を「社会に存在する人」として丁寧に掬い上げているのです。移民もマイノリティなので、「移民物語」ではなく「社会でマイノリティとされる立場の人々の物語」と解釈すれば、多くの方にも興味をもっていただけるのだはないでしょうか。

まだ1巻しか出版されていないので、この先の展開が楽しみです。

また、以前別の書籍(ふるさとって呼んでもいいですか)で移民に関する読書感想文を書いたことがあります。もしよろしければ、そちらもご高覧くださいませ。



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