Aged and Rotten Egg

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記事一覧

「岐津禰」No.9

          9、  あの金貸しが島を出てからほぼ一か月、その金貸しから何か連絡がなかったか確かめるために、度部は吉津祥子の家を訪ねた。  雨戸が閉め切った…

「岐津禰」No.8

           8,  昨夜、度部は、お預けを食らわされた。吉津祥子の、熱く火照った体を抱き、着物の襟に差し入れようとした度部の手を、吉津祥子は不意に、何…

「岐津禰」No.7

                7,  その夕、度部はほぼいつも通りの時間に「キツネ」のカウンターに座っていた。他に客は未だ無い。吉津祥子が、度部の前に、突き出…

「岐津禰」No.6

           6,  翌日、勤務を終えた度部は自転車で「キツネ」に向かった。「キツネ」の提灯が見えて度部は安堵した。  店内に入ると、この時間、いつもは度…

「岐津禰」No.5

             5,  度部は、警視庁本庁に出張する署長を見送るため、数名の警官と一緒に、ジープで港へ向かった。  折り返し東京に向かう船が港に入って来…

「岐津禰」No.4

            4,  度部は、近くに可愛い女の子が引っ越してきて、それが嬉しくてならない子供のように心が弾んだ。一日の始まりが待ち遠しく、一日が楽しく…

「岐津禰」No.3

              3,  度部は、汗に塗れていた、嫌な夢を見た… 官舎の自室から起きて外に出た。360度、見渡す限り大海原、そして立つは絶海の孤島。波…

「岐津禰」No.2

             2,  白い靄にぼんやり見える人影はあの女、あの老女だった。しかし、何故あの老女が、こんなところで、何をしている…?  度部に暴行された…

「岐津禰」No.1

(注意: 時に表現がきつい箇所(いわゆる暴力、エロ、グロ、差別的表現)があります、途中で気分が悪く成られた方はすぐ中止してください、特にこの種の小説にアレルギー…

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近々に連載開始します。内容は、戦後間もなく、南海の孤島で起きた殺人事件を題材に、初老の女と、老女を見ると欲情する男の、話です。例によって、古典と現代の入り混じった、訳の分かり難い、汚い話、です。

題名は「岐津禰」

「人畜所履髑髏」No.18&終

            18,  驢馬の首に抱きつき、泣きながら回想する藤原広足の見る景色は、全て闇の空間に立体して映し出されていた。その映像が消えると、藤原広…

「人畜所履髑髏」No.17/19

             17,             授業中、時に、ふと、ひとの視線を感じるようになった。気になり、振り向いた先に、髪の長い、色白の、ほっそ…

「人畜所履髑髏」No.16/19

             16/19  広足はその後のことはよく覚えていない。あの後、自分が何をしたのか何も覚えていなかった。だが、中学校を卒業し、街に出て夜間の…

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「人畜所履髑髏」No.15

               15,  翌る日、恐る恐るモト爺の家の様子を見に行った。モト爺は、一人で将棋盤に向かい、駒を動かしては頻りと考え込んでいる。モト爺…

「人畜所履髑髏」No.14

            14, 日本霊異記 中巻 四十一 女人大蛇所婚賴藥力得全命緣 より 河內國更荒郡馬甘里,有富家。家有女子。大炊天皇世,淳仁朝。天平寶字三年…

「人畜所履髑髏」No.13

             13,  土を深く掘りそこに子を寝かそうとして、私は、そこに埋まる、人の形そのままに遺った白骨の骸を見つけました。きっと、この男の母、…

「岐津禰」No.9

「岐津禰」No.9

          9、
 あの金貸しが島を出てからほぼ一か月、その金貸しから何か連絡がなかったか確かめるために、度部は吉津祥子の家を訪ねた。
 雨戸が閉め切ったまま、だった。度部が知る限り、あの金貸しが居た数日の間以外に、雨戸が閉め切ってあったことは一度もなかった。庭に、洗濯ものも干していない。
 昨夜は、遅くまで「キツネ」は開いていたし、吉津祥子が、何も云わず、店じまいの片づけを始めたのを見て

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「岐津禰」No.8

「岐津禰」No.8

           8,
 昨夜、度部は、お預けを食らわされた。吉津祥子の、熱く火照った体を抱き、着物の襟に差し入れようとした度部の手を、吉津祥子は不意に、何か嫌な匂いでも嗅いだように鼻に皺を寄せると、その度部の手を襟の上から抑えつけ、度部からすっと体を離した、そして何でもないように云った、
(度部さん、おおきに、ほんまに嬉しいわ。せやけど、やっぱり、それはあきません、そんな大金、他人の度部さん

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「岐津禰」No.7

「岐津禰」No.7

                7,
 その夕、度部はほぼいつも通りの時間に「キツネ」のカウンターに座っていた。他に客は未だ無い。吉津祥子が、度部の前に、突き出しの小皿を出した、それを受け取ろうとした度部の手を吉津祥子が握って、度部は驚き、小皿を落としそうになった。
「聞いて欲しい、ねんけど、話…」
度部は、首振り水飲み人形のように首を振って、了解を示した。
「店、今日、早く閉めるつもり、11時、

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「岐津禰」No.6

「岐津禰」No.6

           6,
 翌日、勤務を終えた度部は自転車で「キツネ」に向かった。「キツネ」の提灯が見えて度部は安堵した。
 店内に入ると、この時間、いつもは度部が殆ど一番目の客となるが、今日は、カウンターの真ん中に一人、初めて見る、白髪頭にハンチング帽を被った男が座って、小皿の煮魚を箸でつつきながら、盃を傾けている。
 男は、入って来た度部に振り向きもせず、カウンターに肘をついたまま、盃を口に

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「岐津禰」No.5

「岐津禰」No.5

             5,
 度部は、警視庁本庁に出張する署長を見送るため、数名の警官と一緒に、ジープで港へ向かった。
 折り返し東京に向かう船が港に入って来た。波止に横付けすると、全員、見慣れた島の住民ばかり、板の橋を危なっかしく渡って降りて来る。
 最後に、見慣れぬ、七〇歳前後の、ほぼ白髪頭にハンチング帽を被った、一見、街の人間ふうな男が、揺れる板の橋を、船員に介助して貰って降りて来た。

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「岐津禰」No.4

「岐津禰」No.4

            4,
 度部は、近くに可愛い女の子が引っ越してきて、それが嬉しくてならない子供のように心が弾んだ。一日の始まりが待ち遠しく、一日が楽しくて仕方なかった。
 勤務を終え、特にその方面に用事もないのに、わざわざ島の全周の半分の距離を、自転車で遠回りして、吉津祥子の家を遠目に見ながら官舎に帰るのが習慣になっていた。
 通り掛かりに、庭に出て洗濯物を取り込む姿が見えたりすると、なに

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「岐津禰」No.3

「岐津禰」No.3

              3,

 度部は、汗に塗れていた、嫌な夢を見た…
官舎の自室から起きて外に出た。360度、見渡す限り大海原、そして立つは絶海の孤島。波は穏やかで、水平線は朝陽を受けて朱く、遥か遠くまで見渡せた。
 ここに着任して以来、同じ夢を何度も見る度部、あれ程にやりたい放題、日本軍憲兵の制服の威を借りて、悪事を重ねてきた度部、だったが、何故か、最後に犯したあの老女の夢ばかりを見てし

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「岐津禰」No.2

「岐津禰」No.2

             2,
 白い靄にぼんやり見える人影はあの女、あの老女だった。しかし、何故あの老女が、こんなところで、何をしている…?
 度部に暴行されたことを憲兵隊本部に訴えにわざわざ来たのか?だが、日本兵の暴行、暴力等日常茶飯事、やりたい放題の朝鮮で、そんな訴えが一々取り上げられる筈もない、そんな意味のないことするためにわざわざ来る筈はない。
 度部が、ひと影にぼんやりとまとわりつく靄

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「岐津禰」No.1

「岐津禰」No.1

(注意:
時に表現がきつい箇所(いわゆる暴力、エロ、グロ、差別的表現)があります、途中で気分が悪く成られた方はすぐ中止してください、特にこの種の小説にアレルギーのある方は
詠まないでください)


「岐津禰」

      序
日本霊異記 中巻
十三 生愛欲戀吉祥天女像感應示奇表緣
 和泉國泉郡血淳山寺,有吉祥天女像。聖武天皇御世,信濃國優婆塞,來住於其山寺。睇之天女像,而生愛欲,繫心戀之,

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近々に連載開始します。内容は、戦後間もなく、南海の孤島で起きた殺人事件を題材に、初老の女と、老女を見ると欲情する男の、話です。例によって、古典と現代の入り混じった、訳の分かり難い、汚い話、です。

題名は「岐津禰」

「人畜所履髑髏」No.18&終

「人畜所履髑髏」No.18&終

            18,
 驢馬の首に抱きつき、泣きながら回想する藤原広足の見る景色は、全て闇の空間に立体して映し出されていた。その映像が消えると、藤原広足は、気を失って石畳みに倒れ伏した。驢馬が心配気にその様子を見、百合の曝髑髏の目から大粒の涙が溢れた。
 丈六の閻魔大王、控える餓鬼どもに、藤原広足を連れ去れ、と命じた。藤原広足、餓鬼共に体を抱えられて、闇の中へと消えて行く。
 驢馬は目に

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「人畜所履髑髏」No.17/19

「人畜所履髑髏」No.17/19

             17,           
 授業中、時に、ふと、ひとの視線を感じるようになった。気になり、振り向いた先に、髪の長い、色白の、ほっそりした女子学生が居た。目が合った。女子学生はにこりと、その眼に何の悪意も恐れも無く、微笑み、そして軽く会釈した。そんな、子供のような、人懐っこい目を見たのは初めて、だった。広足はつられて、こくりと頭を下げた。
 名前を、百合、と云った。いつ

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「人畜所履髑髏」No.16/19

「人畜所履髑髏」No.16/19

             16/19
 広足はその後のことはよく覚えていない。あの後、自分が何をしたのか何も覚えていなかった。だが、中学校を卒業し、街に出て夜間の高校に通うようになって、少しずつ、あの夜の記憶が生々しく蘇るようになった。
 広足は、モト爺の家の台所から持ち出してきた包丁で、驚く母を刺して殺し、逃げるモト爺を後ろから羽交い絞めにし、その首に血にまみれた包丁を突き刺し、掻き切って殺した

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「人畜所履髑髏」No.15

「人畜所履髑髏」No.15

               15,
 翌る日、恐る恐るモト爺の家の様子を見に行った。モト爺は、一人で将棋盤に向かい、駒を動かしては頻りと考え込んでいる。モト爺のいつもの姿だった。何となく安心して帰りかける広足に気付いてモト爺が手招きした。広足は、悪戯が見つかったような気持ちでモト爺のところに行った。
 モト爺は、将棋盤に目を遣ったまま、
「昨日は、見とった、な?」
と訊いた。広足、顔が真っ赤にな

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「人畜所履髑髏」No.14

「人畜所履髑髏」No.14

            14,
日本霊異記 中巻
四十一 女人大蛇所婚賴藥力得全命緣 より
河內國更荒郡馬甘里,有富家。家有女子。大炊天皇世,淳仁朝。天平寶字三年己亥夏四月,其女子,登桑揃葉。時有大蛇,纏於登女之桑而登。往路之人,見示於孃。孃見驚落。蛇亦副墮,纏之以婚,慌迷而臥。父母見之,請召藥師,孃與蛇俱載於同床,歸家置庭。燒稷藁三束,三尺成束為三束。合湯,取汁三斗,煮煎之成二斗,豬毛十把剋末合

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「人畜所履髑髏」No.13

「人畜所履髑髏」No.13

             13,
 土を深く掘りそこに子を寝かそうとして、私は、そこに埋まる、人の形そのままに遺った白骨の骸を見つけました。きっと、この男の母、だと信じ、その骸に手を合わせ、私の子の死後のことをお願いしようとして気が付きました、骸に頭が無かったのです。こんな浅い、土を盛っただけの、犬か猫の死骸を埋めるような粗末な墓、何十年も雨風に曝されて、お供え物を食いに来た猪か、野犬に掘り出され

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