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「岐津禰」No.1

(注意:
時に表現がきつい箇所(いわゆる暴力、エロ、グロ、差別的表現)があります、途中で気分が悪く成られた方はすぐ中止してください、特にこの種の小説にアレルギーのある方は
詠まないでください)
 
 
「岐津禰」
 
      序
日本霊異記 中巻
十三 生愛欲戀吉祥天女像感應示奇表緣
 和泉國泉郡血淳山寺,有吉祥天女像。聖武天皇御世,信濃國優婆塞,來住於其山寺。睇之天女像,而生愛欲,繫心戀之,每六時願云:「如天女容好女賜我。」優婆塞夢見婚天女像,明日瞻之,彼像裙腰不淨染汙。行者視之,而漸愧言:「我願似女,何忝天女專自交之。」媿,不語他人。弟子偷聞之。後其弟子,於師無禮,故嘖擯去。所擯出里,訕師程事。里人聞之,往問虛實,並瞻彼像。淫精染穢。優婆塞不得隱事,而具陳語。諒委,深信之者,無感不應也。是奇異事矣。如涅槃經云:「多婬之人,畫女生欲。」者其斯謂之矣。
 
 
             1,
 朝鮮軍憲兵隊、補助憲兵、度部征男は、誰か、女の悲鳴を聞いたような気がしてふと目が覚めた。その声、何処かで聞いたような気がして度部は頭を上げて兵舎内を見回した。が、兵士達の、荒い寝息と地響きのような鼾が聞こえるだけで、女の悲鳴など何処からも聞こえず、まして男ばかりのこのむさくるしい宿舎内に、女の姿が有る筈も無い。
 夢か…
度部は、この数日、いや、記憶ははっきりしないが何日も、いや数か月も、同じ女の叫びを聞いて夜中にふと目覚めてしまう。いつしか、夢うつつに聞く女の泣く声が同じ女の声だと今では確信していた。
そして目覚めて辺りを見回し、誰も、女なんかいないことを確認して再び毛布を被り、度部は、確かにこの声、何処かで聞いた覚えがあり、それが誰、だったか、何処、だったか思い出そうとするが、度部の記憶は霧に包まれたように何も思い出せなかった。
 今夜も、どうせいつも通り、何も思い出せない、何も手掛かりさえも掴めないに違いない、とさっさと考えるのを諦めて、寝返り打って、眠りに落ちるのを待った。
 その度部の耳に、今度は女の泣く声がはっきりと聞こえてきた、度部はそっと毛布をはぐり、体を起こして声の聞こえてくる方を見た、ふと兵舎入口に、白く、ひとの形に靄がかかって揺らいでいるのが見えた、
 その靄が一塊りに、ぼんやりとひとの形となり、よく見ると、それは、もう数か月も前、度部が民家で、手籠めにした老女、だった。
 あの日、度部は、憲兵隊収容所から逃げた抗日武装農民を追って、その村まで来ていた。逃げた男の元の在所はこの周辺だと聞いていた。辺り一帯、手当たり次第に、百姓家の戸を足で蹴破り、中に踏み込み、悲鳴を上げる女や子供を突き倒し、男が潜んでいないか乱暴に家探しした。
 或る一軒の、土と藁と板で囲った粗末な家の陰に、男が走り込む影を度部は見た。
 辺りには他に男が隠れる家も小屋も何も無い。男を追い詰めた、と度部は確信した、しかし慎重に家の周りを、中の物音を確め乍ら歩いた。男が、逃げる途中で、何処かで鎌や包丁、鉈など手に入れた可能性も考えられる。
 家の中から、激しい息遣いが聞こえてきた。度部は、家の裏側に廻り、裏戸の隙間から家の中を覗いた。案の定、男は表の戸口に向かって、侵入してくる度部に、鉈を振りかざして襲い掛かる態勢で待ち構えていた。
 度部は裏戸を音立てぬよう開け、男の背中に声を掛けた、男は驚いて振り向き、鉈を頭上に構えて度部に向かって襲い掛かってきた、度部は抜いていた拳銃を、男の脚に向けて発砲した。
 男はもんどりうって転び、撃たれた脚を抱え、獣のように吠えて床を転がった。抗日農民兵を捕まえる際にその生死の如何は問われなかった。男の頭を狙って拳銃を構えた時、女が一人、男の前に立ちはだかった、
「息子を撃つな、殺さないでくれ」
と朝鮮語で叫んだ。
 度部は、物心着く頃から浮浪児だった。慶州の廃れた農家を隠れ家に、近在の村から食い物や銭を盗んで生きて来た。
 何故か日本語も朝鮮語も話せた。長じて悪の仲間に加わり、警察や憲兵に追われたが、或る日、取り調べた憲兵将校、成瀬が、日本語も朝鮮語も流暢に喋る度部をスパイとして抗日組織に送り込んだ。度部が重要な情報を持ち帰って、その褒美に、度部を補充憲兵として正式に雇った。
 以後、成瀬は度部を重宝した。何れ正式に日本軍憲兵として採用するつもりで、「渡部」からサンズイを除き、度部を姓として、名を征夫、と付けた。
 女は、床で激痛に吠える男の母親、か。女は、度部より一回りか二回りは上の、髪はほぼ白髪で、その髪がざんばらに女の顔を覆っている。
 度部は容赦なく老女を軍靴で蹴り倒した。老女は転げて壁に体をぶつけた。その時、老女の履いていたチマが腰のあたりで破れ尻が剥き出しになった。女の様子から想像したよりその肌は若々しく、真っ白で張りがあり、度部の男根は溜まらずいきり立った。
 度部は子供の頃からその性癖は異常だった。10歳頃、その頃は何処か日本の山村に住んでいたが、その頃既に、何故か老女にだけ発情し、近所の老女を襲った。それは強盗に押し込んだ家であったり、畑でしゃがんで草を摘む女だったり、山の谷川で洗濯をする女であったり、見掛け次第、手あたり次第、女を、老女を姦した。
 憲兵隊で補充憲兵度部に与えられた任務は、そんな性癖を持つ度部には正に天職と云えた、度部の異常性欲を腹いっぱいに満たしてくれた。
 度部は哀願する老女を蹴り倒し、その服を剥ぎ取り、腹這いにさせ、首の後ろに銃口を突きつけ、度部は後ろから老女を犯した。度部が突き上げる度、老女は悲鳴を上げた。その隙に男は逃げ出した。