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Forget Me Not

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#創作

Forget Me Not(第16章)

Forget Me Not(第16章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

 アトリエの床はびりびりに破かれ、もしくはぐしゃぐしゃに丸められた油彩紙で埋められていた。ちょうど紙のストックを切らした時、ロクスケが訪ねてきた。この前贈った絵のお礼と言ってLサイズのピザを5枚と瓶ビールを20本ほど持ってきてくれていた。この手土産は今の私の気分にとって最高のものだった。

 私

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Forget Me Not(第15章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

第15章
 吹き抜く風。氷柱の切っ先の鋭さが身体を射抜いてくる1月下旬朝。毎年、こうも耐え難い季節にも必死に抗って生き抜こうとする自分を愛しく感じる。希望を持って持ち続けている自分がまだ内にいることを思う。歯を食いしばって耐え抜くのはこの冬にも終わりがあるということ、そして同時に春がやってくるこ

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Forget Me Not(第14章)

Forget Me Not(第14章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

第14章
 「この前は気分を害するような話をして悪かった。すまない。」
こんな一文から始まる手紙を、私はロクスケ宛に書いた。
ロクスケを家に呼んだ日から5日が経過したが、あの日から私は気が変になっているようだった。

胸の内に留めている間は気分的に楽になるために早く打ち明けてしまいたいと感じるも

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Forget Me Not(第13章)

Forget Me Not(第13章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

第13章
 20XX年12月15日。この日の全国紙の一面には、連続して起きた行方不明事件とそれに次ぐ水死体発見の記事が大々的に、しかし冷静に掲載されていた。私はこれまでに何度も、一つの砂粒をも落とさぬ機械のような精密さをもって、徹底してこれを読み込んだ。あるいは、事件現場に残された指紋一つ、血液

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Forget Me Not(第12章)

Forget Me Not(第12章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

第12章
 私はキッチンに立ち、ここにやってくる前の自分が何をしようとキッチンへ向かったのかを懸命に思い出そうとしていた。私の息で膨らませたはずの考えが、外部からの光を鈍い虹色に反射しているはずのところ、そうかと思えば意図せぬタイミングでパッと消える。子供じゃああるまいし、自分の考えは自分の金庫

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Forget Me Not(第11章)

Forget Me Not(第11章)

これは何?
 絵を描けなくなった画家である日向理仁を中心に、湖畔で起きた失踪事件の解明を試みるお話。

第11章
 青葉と墓参りに行く日の朝、私は6時に起き上がってシャワーを浴びた。きちんと歯を磨き、きちんと髭を剃った。そしてきちんとアイロンをかけたシャツとデニムを着て、ヘアワックスで髪を整えた。もう何年も行ってなかった墓参りに対して、これで一応の姿勢は作れただろう。8時には朝食が出来上がっていた

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