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【書評】ニコラス・スパイクマン「平和の地政学」(芙蓉書房出版)

 今世紀に入ってブームとなった感のある地政学。今や、書店には「地政学」を冠した本が数多くあります。私も最近、下記の本に関わりました。

 手に取りやすい本で入門するのはいいことですが、やはり古典的な書物を読んだ方が本当の教養につながるでしょう。

 とはいえ、地政学の祖とされるマハンやマッキンダーの著作は、一般にはハードルが高いように思われます。マハンの文章は非常に難解ですし、マッキンダーの著書はそこまでいかないものの、高校世界史の知識がないとほとんど理解できないでしょう。

「平和の地政学」

 「平和の地政学」は、オランダ生まれのアメリカの政治学者ニコラス・スパイクマン(1893~1943)の著作です。正確に言うと、彼が50歳を待たずに亡くなった後、講義ノートなどをまとめて出版したものです。

 成立の経緯ゆえに、スパイクマンの思想が非常にわかりやすくコンパクトにまとまっています。全部で150ページほど。地政学をきちんと学びたい人にとっては非常にいい入り口なのです。

スパイクマンの思想とは

 透徹したリアリズムをもって国際政治を分析したスパイクマンは、第二次世界大戦後のアメリカの取るべき進路について提言しています。

 彼は、ユーラシア大陸の周縁部(東アジア~南アジア~中東~ヨーロッパに至る地域)を「リムランド」と呼びました。

 このリムランドでは、ランドパワー(陸軍国)とシーパワー(海軍国)がぶつかり合うことで紛争が起きる。リムランドを支配する国が現れるとアメリカを脅かすことになる。よって、アメリカはリムランドの情勢をコントロールしなければならない、とスパイクマンは考えました。

冷戦の予言者

 スパイクマンは1943年に死去しますが、戦後の世界をかなりの部分で予言していました。彼は第二次世界大戦中にも関わらず、アメリカと日本が同盟するべきであることを提言し、非難を浴びていたのです。

 スパイクマンの理論は、アメリカがソ連に対抗して行った「封じ込め」政策にも影響を与えたとされます。

 スパイクマンの思想は、アメリカの地政学や国際政治学の中で重要な位置を占めています。

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