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【怖い話】 統失2級男が書いた超ショート小説 

熊島靖は結婚して14年も経つというのに、妻とは週に3回も性交するような男だったので、当然職場に友人は居なかった。そんな靖は上昇思考の強い人間で常に(どうすれば金持ちになれるのか)と考えていた。そこで導き出した答えが中華料理屋だった。脱サラした靖は意気揚々と中華料理屋を始めたが、経営は直ぐに暗礁に乗り上げ、借金は600万円に膨れ上がっていた。そんな破滅寸前の靖に幸運が訪れたのは、街で蝉が鳴き始めた7月中旬の事だった。気休めで買った3千円の宝くじが3億円に当選してしまったのだ。借金を全額返済した靖は暫く遊んで暮らす事にした。しかし、遊んで暮らす事は退屈な事だった。妻を愛していたので愛人を作る事は出来ない。結果的に只ひたすら宗教の本を読んで過ごす生活が始まった。暫くそんな生活を続けていると、靖は宗教団体を立ち上げる自分を夢見るようになった。そして、宝くじ当選から2年後、靖は遂に当選金を元手に宗教団体を立ち上げる事となった。既存の新興宗教団体からの妨害にもめげず、靖の教団は6年で大きく成長し、信徒は4万人を数える迄になっていた。靖は金儲けだけを考えていたので、親米親政権路線を貫く事にした。この路線で行けば、国から敵対視される事も無く金儲けに専念出来るからだ。そんなとある秋の日、現職の外務大臣を介してCIAの職員が接触を図って来た。黒人や白人だと日本では目立つからなのか、CIAの職員は日本人の中年と青年の2人組だった。「兎に角、中国の悪口と中国脅威論を吹聴しまくってくれ、日本人の対中国感情が悪くなる事なら何でもやって欲しい、見返りは我々の傘下にあるメディアであなた方の事を好意的に取り上げる事だ」と中年のCIA職員は教団本部の応接間のソファーに腰掛けながら、真剣な眼差しで靖に語り掛ける。靖は暫く考えた後、その取引に応じる事にした。CIAがバックに付いてくれたなら教団は更に大きくなるし、更に金が入って来る。靖は満面の笑みでCIA職員の2人と握手をした。

5年後、靖の教団の信徒は12万人に膨れ上がっていた。中国の悪口を言いまくればメディアが誉めてくれて、信徒は増える一方だった。何もかもが順風満帆に思えた矢先に、1人娘のゆかりが留学先のアメリカで、中国人留学生の劉益長と出逢ってしまった。ゆかりは父親の影響で反中国の人間だったが、劉益長は美形で物腰も柔らかく何より知的だった。2人は簡単に恋に落ちる。暫くしてゆかりは名古屋の父親に電話を掛けて「中国の悪口を言うのは、もう止めてくれ」と懇願した。更にこの願いを聞き入れてくれないのなら、親子の縁を断つとまで言い切った。靖は思い悩んだが、可愛い1人娘を失う訳には行かないと、それまでの路線を180度転換して「日中友好こそアジア繁栄の唯一の道、これ迄の反中発言はCIAに言わされていただけだ」とまで公言する様になった。その3週間後、靖と14歳の少女信徒との性交問題が持ち上がった。靖は性交を終始否定していたが、それまで擁護していたメディアは一斉に靖を叩き始めた。そんな中、東京のホテルで靖が首を吊って死んでいるのが発見される。警察はその日の内に「事件性は無く、完全な自死である」と発表した。司法解剖が行われる事は当然ありませんでした。

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