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【通貨偽造罪】 統失2級男が書いた超ショート小説

大学を中退後に就職した家具製造会社は2か月で辞めていた。高山誠悟には昔からそう云うところがあり、小学生の時には少年野球も2か月で辞めていたし、中学生の時に始めた空手は1か月も持たなかった。そして今は無職の期間が15か月も続いていた。そんな誠悟に父親は甘い男で毎月3万円の小遣いを渡していた。習い事や仕事は長く続かないが、誠悟は活動的な男で家に引き籠もる事はなく、今日も昼間から街に繰り出し大手チェーンの服屋で8290円を使った後、これも大手チェーンの飲食店でカツ丼を食べ770円を使っていた。父親は毎月25日に小遣いをくれる。その25日まではあと16日あり、所持金は今日の買い物と外食で1803円になっていた。実家住まいなので食に困る事はないが、2000円弱の所持金では心許ない。そこで誠悟は帰宅後、友人の伊藤に仕事が終わった時間であろう19時半になってから電話を掛け、「5000円を貸してくれ」と頼んでみた。すると伊藤は半笑いで「金が無いなら、無職は無職らしくギャンブルで稼げよ」と言い放ち借金の依頼を断って来た。その対応には腹を立てた誠悟だったが、伊藤は柔道の有段者で喧嘩をしても勝てる相手ではない。「ギャンブルは馬鹿の娯楽だよ」と誠悟は精一杯の返答をして電話を切った。テレビで話題になっている闇バイトの事も頭に浮かんだが、(刑務所生活は家具製造会社の労働よりキツいだろうな)と思い直し即効でその考えを打ち消して、その晩は鬱屈した気持ちのまま眠りに就いた。

翌日の昼過ぎに煙草を買いに出掛けたコンビニでトイレを借りると、トイレ内に茶封筒が置かれていた。中を覗いてみると18万円が入っている。(神様は俺の様な怠け者にも、温情を見せてくれるんだな)と、ほくそ笑んだ誠悟の脳内に警察に届け出るという選択肢は一瞬たりとも浮かばなかった。茶封筒は細かく切り刻んでトイレに流し、18万円は自分の財布に移し換えてトイレを出る。当初は
1箱だけの予定だった煙草を4カートン買う事にして、誠悟はトイレで拾った1万札を半セルフレジに挿入する。しかし、レジの反応がいつもと違って少しおかしい。するとレジの向こうから男性店員が出て来て誠悟の手首をいきなり掴んだ。そして、品出し中の女性店員に向かって、「斎藤さん、偽札犯だよ、警察呼んで」と大声で叫んだのだった。

誠悟は警察署の取調室で何度も「トイレで拾った金だ」と弁明したが、刑事は信じてくれず、また裁判所の裁判官も信じてはくれなかった。その理由は、いつもの如く金欠状態にあった事件の2ヶ月前に誠悟はスマホを使い気休めの遊び感覚で『偽札 作り方』というワードで検索をしていたからだった。あの検索後の偽札入手は完全に偶然の一致であったのだが、それは誠悟に取って極めて運の悪い出来事だった。斯くして誠悟には通貨偽造罪で懲役4年の実刑判決が下される事となってしまう。刑務所に収監された誠悟は家具工場に回され、4年間みっちりと家具の製造を続けた。その結果、誠悟の家具製造技術は熟練工並みに上達し、出所後は立派な家具職人として生きて行く事になるのだった。

しかし、コンビニのトイレに置かれていた偽札の18万円は果たして何であったのか?あれは、誠悟を刑務所に入れて立派な家具職人に育て上げようとした神様からの贈り物だったのだろうか?いや実際はそんなファンタジックな話しではなく、あれは、ネコババ犯に偽札を使用させ、逮捕される様に画策した当該コンビニ女性店員の愉快犯としての仕業だったのだ。読者の皆さんも拾ったお金には十分お気を付け下さるよう宜しくお願い致します。

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