マガジンのカバー画像

恋と学問

39
もののあはれとは何か?本居宣長「紫文要領」から読み解く、源氏物語の魅力と本質。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

恋と学問 第28夜、聖典から他者の心に達した人。

恋と学問 第28夜、聖典から他者の心に達した人。

今夜お話するのは、紫文要領の目次を作った時に一括して「補説」と名づけた、本論と結論の中間にある部分です。(岩波文庫版、151~162頁)

本居宣長はここで、源氏物語について言い残したことがないように、思いつくかぎりの論点を列挙しています。

補説1.栄華と物の哀れ
補説2.仏教・再論
補説3.人の情の本当の姿
補説4.物語中の迷信について
補説5.過去を想像する力

以上の5項目を、質疑応答の形

もっとみる
恋と学問 第27夜、父親殺しの誘惑。

恋と学問 第27夜、父親殺しの誘惑。

紫文要領を読解する私たちの歩みも、だんだんと終わりに近づいてきました。今夜取り上げる「不義密通すら主題ではない」(岩波文庫版、138~151頁)は、第3部「恋愛と物の哀れ」の最終章であり、ということは、本論の最終章でもあります。

(紫文要領の目次についてはコチラ)

本居宣長は前章で、源氏物語に長年かけて降り積もった、誤読という名のホコリを一気に払いのけました。その手ぶりは「真剣に取り合うに値し

もっとみる
恋と学問 番外編その3、安藤為章「紫家七論」の思想。

恋と学問 番外編その3、安藤為章「紫家七論」の思想。

◇ 画期的な源氏物語論
紫家七論(しかしちろん)は1703年に成立した源氏物語論で、作者は契沖に師事した国学者、安藤為章(あんどうためあきら、1659-1716)です。

古典研究と言えば、一言一句について細かに解釈を加えてゆく「注釈書」のことを指した時代に、為章は、まず紫式部日記の記述から作者の人物像を探って、そこで得られた成果を物語解釈に持ち込む方法を発明します。今の言葉で言う「作家論」の方法

もっとみる