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恋と学問

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もののあはれとは何か?本居宣長「紫文要領」から読み解く、源氏物語の魅力と本質。
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2021年11月の記事一覧

恋と学問 第12夜、地獄に堕ちた紫式部。

恋と学問 第12夜、地獄に堕ちた紫式部。

時の流れは恐ろしいもので、かつて支配的だった価値観も、人知れずゆっくりと崩れてゆき、いつの間にか、ある人物の評価が正から負へと反転していたり、価値を失い忘れ去られたりするのは世の常です。

そう遠くない時代、マルクスはインテリの必読文献でした。肯定否定、どちらにせよ、一応は読んでおかなければインテリとはみなされませんでした。今は見る影もありません。むろんマルクスが変わったのではない。時代が変わった

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恋と学問 第11夜、蛍の巻の文学論・後編。

恋と学問 第11夜、蛍の巻の文学論・後編。

今夜のテーマは、源氏物語の蛍の巻に描かれた、光源氏と玉鬘の「真剣な雑談」を、本居宣長がどのように解釈し、そのように解釈することで何を伝えたかったのか、考えてみようとするものです。

宣長は、ふたりの会話の一言一句に対して、ほとんど逐語的と言ってよいほどに細かく、いちいち解釈を差し挟んでおり、結果として解釈の全体像が見えづらくなってしまっています。

この弊害を解消するために、前回は手始めに会話の全

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恋と学問 第10夜、蛍の巻の文学論・前編。

恋と学問 第10夜、蛍の巻の文学論・前編。

今夜は、紫文要領の本論部分「大意の事」における、「第2章/蛍の巻の文学論」を読み解きます。(岩波文庫版「紫文要領」34-57頁)

本居宣長は、源氏物語の中盤に位置する25巻目、蛍の巻に描かれる、光源氏と玉鬘のあいだに交わされた文学談義を指して、この物語の「大綱総論也」(同57頁)と、最大級の言葉で注意を促しています。

物語の登場人物同士が物語の存在意義について語り合う。その姿を通して、紫式部は

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恋と学問 第9夜、モノをカタルとカタルシス。

恋と学問 第9夜、モノをカタルとカタルシス。

紫文要領の中心に位置する「大意の事」は、モノガタリという言葉についての考察から始まります。以前目次を作った時、「第1章/物語文学とは何か」と名付けた部分です。
(岩波文庫版「紫文要領」29-34頁)

今夜はここを出発点にして、古今東西の知見も参考にしながら「モノガタリとは何か」、ひいては「文学とは何か」といったあたりのことを、宣長と一緒に考えてみましょう。

まず、宣長のモノガタリ観が明らかにな

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