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無人コンビニで、“デスクやベッドから1分圏内”の新市場をつくっちゃう戦い方 【マーケティング戦略の観察】

『マンションに導入する“無人コンビニ”の品揃え』(2019.04.10 ニュースイッチ)という記事を読んで、これは“ラストワンマイル戦争における新たなマーケティング戦略だなー”と感じたので、そのポジショニングを分析してみた。


1、まず、“ラストワンマイル”という背景のおさらい

“ラストワンマイル”というマーケティング用語がある。

日本はどんどん便利になり家や会社のすぐ近くにコンビニがあるが、それでも買い物をするためには、着替えて歩いて外に出なければならない。
モノを買ってもらうためには、この「家」と「店」のあいだの最後の距離(ラストワンマイル)をどうつなぐか? が、あらゆる販売業にとっての永遠の課題である、という話しを前回の記事に書いた。

アマゾンや楽天のeコマースはもちろん、スマートスピーカーやアマゾンダッシュボタンも、この“ラストワンマイルにおける各社攻防戦の一環である”と市場分析をした。
今回の記事は、それの続きだ。
(前回の記事はこちら↓)


2、“家や会社の中に、購買できる場所を準備しちゃえ”という戦い方

さて、今回注目した話題は、
ラストワンマイルの距離をつめるためには、もういっそ「家や会社の中に、購買できる場所を準備しちゃえ」というけっこう直接的な考え方である。

その事例としてまず『600(ろっぴゃく)』を紹介する。
この『600』というサービスは、オフィス内やマンションのエントランスといった場所に、“小さな無人コンビニを設置する”というサービスだ。サービス内容を引用する。

600は主にオフィスに設置する飲食品や日用雑貨販売サービスだ。冷蔵庫タイプの本体は幅60cmとコンパクトのため設置しやすく、冷蔵保存ができるため取扱可能な品目は日用雑貨から、スイーツ、カップラーメンなど幅広い。本体の中には最大600品目の商品を置くことが可能だ。
ユーザーが600を利用するにはまず、本体に取り付けられたカードリーダーにクレジットカードをスワイプして扉をあける。各商品にはRFID(radio frequency identifier)タグがついており、このタグと本体が無線通信で情報をやり取りすることで、どの商品が本体から取り出されたかを把握する。あとは、画面の表示にしたがってカード決済を行うだけだ。

とにかく使い勝手を究極までシンプルにしてみせた。

このベンチャー企業『600』のマーケティング戦略は、“徒歩1分圏内をターゲットにした新しい市場創造”だという。
下記サイトに代表のインタビューがあったので引用させてもらう。

半径50mあるいは徒歩1分圏内をターゲットとした新しい市場である。自動販売機と同じような利便性で、コンビニと同じような多様なものが買えるというもので、600の主戦場もここだ。
「コンビニの商圏は500m、スーパーの商圏は5,000mと言われ、それぞれ日本では10兆円規模の市場があります。50m商圏も40年程度をかけて10兆円規模の市場になっていくと予想しています。日本では200万台から500万台の無人コンビニの普及余地があるでしょう」と久保氏(※引用者注:600代表取締役 久保渓氏)は分析する。
オフィスやマンション、病院、ジムなど、人が集まる空間であればどこにでも無人コンビニは設置余地がある。


おもしろい見解だ。これは“ラストワンマイルの新解釈”と呼べるのではないか。
ワンマイルを“つなぐ”のではなく、“ゼロマイル地点に入り込む”のである。
この戦略ポジショニングは大変興味深い。

3、各社も参入、“ゼロマイル”戦略の事例

でも、この“考え方”自体は、そんなに目新しいものでもない(よね)。

もともと日本には「自動販売機」がいたるところにある。会社の中にも沢山ある。この普及率は世界一だという。
だから、日本人からすると、文化として自動販売機に対する“なじみ”があるし、“使い慣れている”。無人コンビニ『600』のことも普通に聞くと、ただの自販機だよね?と自然と受けとれる。

それに、ここ数年は、いろんな企業も『オフィス内で購入できるサービス』を提供しはじめている。ぼくの働く会社にもいくつか導入されている。たとえば、

セブンイレブンの『セブン自販機』や、

少し前に話題になった『オフィスグリコ』や、

『ネスカフェアンバサダー』もこの一種といえそう。

なので、“すごく画期的な発想”というわけでは決してない。

4、無人コンビニベンチャー『600』の特徴とは

ではこの無人コンビニ『600』の特徴はなんだろう。自動販売機となにが違うのだろう。
独自に分析してみると、3つ考えられる。

1つめは、
“親の企業体にしばられない商品の多様性と数”だろう。
どうしても提供母体となる企業の達成目標のために、ネスカフェはコーヒーを販売するし、グリコはお菓子を販売する。
でもこのベンチャーは、そういう限定された商品ジャンルという“しばり”を持たず、“その場所で利用者が必要としている商品を多様に置く”ということにこだわって特化している。
企業名の“600”も、“小さな一台で600商品も置ける収納能力”からきているという。
限られた数品の売れ筋商品を大量にストックするというよりも、いろんなニーズに多様に柔軟に応えるという方向性で戦略していることがうかがえる。

2つめは、
その“利用者が必要とするもの”を置くために、設置オフィスの従業員向け専用のLINEやSlackを準備し、欲しいものを直接聞き取り補充する“コンシェルジュサービス”を備えている点。

基本的には“必要ならなんでも置く”という。
公式サイトをみると、

リクエストがあれば、八ツ橋など観光地を代表する人気の土産菓子から、みかんやマスカットなどの果物、多国籍な職場に対応するハラルフードまで、

という表記もあり、この“しばり”を持たない自由度は、このベンチャーの強みだ。

3つめは、
キャッシュレス決済への限定だ。この割り切ったスタンスが“設置機材の小ささ”と“運用のやりやすさ”を産んでいる。
従来の自販機は、現金管理をきちんとやろうとすると“設置機材が大きくなる”。
もしくは、現金徴収を簡易にして、個々人からの集金方法をとると“運用がめんどくさい”。
それを、とても洗練されたキャッシュレス対応に特化させることで、シンプル化している。

現金主義の人々にはもちろん向かないが、時代の流れはキャッシュレスに確実に向かっている。
まもなくこの判断が正しかったという日がくるだろう。

3つの特徴でした。
自動販売機に比べると、より戦略的にサービス設計がなされているなというのがわかる。

5、まとめ 『ラストワンマイル戦争』はさらに続く

それで、冒頭のニュースに戻ると、この無人コンビニ『600』は当初、オフィス設置需要からビジネスを開始したが、この4月から不動産業との提携で、マンションエントランスへの設置も開始したという。
これからもいろんな可能性があるだろう。

今回は別に『600』の営業紹介をしたかったわけではなく、
この分野、つまり『ラストワンマイル戦争』に違う切り口から参入する企業も登場し、ますます“顧客とのラストワンマイルをどうつながるか”という分野はマーケッターの知恵勝負がおもしろくなってきそうだ、というお話でした。

コツコツ書き続けるので、サポートいただけたらがんばれます。