Greenbuild 2023 —環境建築の未来を創り出すために
2023年9月26日〜29日、アメリカ・ワシントンD.C.で開催されたGreenbuild International Conference and Expo 2023に参加しました。
おそらくこのイベントは日本ではほとんど知られていないと思います。日本人の参加者は十数人、日本人学生は僕のみでした。このイベントはgreen building(後述しますが「環境建築」とは微妙に異なると捉えています)に関連したテーマを扱う世界最大規模のカンファレンス・展示会です。毎年アメリカで開催されていて、昨年2022年はサンフランシスコで開催、来年2024年はフィラデルフィアで開催される予定です。
環境に対する意識は人によってバラつきがあるとはいえ、アメリカは環境に対する意識が高く、特にZ世代の環境意識が高いことに加えて、エネルギー政策に先進的に取り組む州は着実に増えています。
このようなアメリカという国で開催されたカンファレンスで僕が経験したことや考えたことについて、この記事で4つのパートに分けて紹介します。記事というよりもレポート寄りのまとめ方で、全体の文字数は約24,000文字とかなり多いので、興味を持っていただいた箇所を読んでいただけると嬉しいです!(小出しできるように細分化してまとめ直すかもしれません。)
まず、「1. 環境×建築という視点」は、そもそも日本ではあまり認知されていない「環境×建築」という考え方について簡潔に説明しています。環境問題に関連した活動に取り組まれている学生・社会人の方たちと話している中でも、エシカルファッションやプランドベースフード、フードロスといった言葉をよく耳にします。もちろんそれらの活動自体は非常に魅力的である一方で、少なくとも若者世代の間では衣食住の中でも「衣」と「食」に関連した環境活動に意識・興味が偏重しており、「住」があまり注目されていないというイメージがあります。だからこそ「環境×建築」の重要性や面白さについて少しでもここで伝えたいと思っています。
「2. Greenbuild 2023・参加報告」は、そもそもGreenbuildとはどういったイベントなのか、概要について簡潔に説明した後に、4日間で自分が体験した一連の流れや出来事について写真を用いながら紹介しています。Greenbuildはイベントとして非常に興味深く、アメリカの国民性も含めた興味深さ・斬新さが沢山ありました。これまでに僕が日本で出展・参加したエコプロ2022、SBUniversity2023といったサステナビリティに関連したイベントと比較した上での視点も含めています。
「3. Greenbuild 2023・考察」は、僕がGreenbuild 2023を通して得られた知見についてまとめています。Greenbuild 2023で扱われていたトピックや明らかになった世界の最新の動きについて紹介した後に、日本では知ることができないような印象的なセッションの内容を振り返りました。そしてそれらを包括する形で、環境建築の取り組みはトップダウン型であるべきかボトムアップ型であるべきかという一つの問いに向き合いました。自分の意見や感じたことを織り交ぜて、自分自身の考察も記載しています。ここで触れている内容について議論したい部分もあるので、読んでいただいた上で感じたことなどを気軽に教えていただけると嬉しいです。
※ただし、まだまだ知識不足な点も多くある上に、考察の内容が変化することもあり得るので、この箇所は随時更新・修正して行く予定です。
1. 環境×建築という視点
green buildingの概要について
日本ではあまり聞き慣れないgreen buildingという言葉ですが、定義を簡潔にまとめると以下のように説明できると思います。
1995年に松尾陽さん(東京大学名誉教授・建築学専攻)が退官最終講義にて説明された「環境建築」という言葉がありますが、これは今の日本社会では「地球環境に配慮した建築」、例えば断熱性能の高い住宅や、室内に緑が多く取り入れられた健康的なオフィスビルといったような「環境性能が高く、人の健康にも配慮した建築物単体」を指すものだと現状捉えられていると思います。それに対してgreen buildingはどちらかと言うと、このような地球環境にも健康にも配慮した建築空間を広めていこうという取り組み・動作的なものを指す意味合いが強いと考えています。
世界は今カーボンニュートラル実現に向けた動きが加速化していますが、本当に実現を目指すのであれば環境に配慮した新築の建物をいくら建てても何も変わらず、既存建築物を含めた社会全体のイノベーションが必要になります。ZEBやZEH*のように建築物単体の環境性能を扱う考え方が主流である日本は、環境建築を生み出し、そしてムーブメントを起こしていこうというgreen buildingの思想から見習うべき部分があると思います。
*ZEB(ZEH):Net Zero Energy Building(House)
ところで、「地球環境に配慮した建築」は人・地域・文化などによってイメージするものは異なります。建物全体が緑に覆われている建物は環境に優しいと考える人もいれば、緑に覆われた外観だけでなくエネルギー消費量を抑えた建物こそが環境に配慮していると考える人など人それぞれだと思います。だからこそ、第三者によって評価される共通の評価軸が必要になります。そこで開発されたのがLEED認証やWELL認証などといった認証制度です。認証制度の種類は他にもありますが、特にLEED認証とWELL認証は世界的に注目されています。
せっかくなので、アメリカでLEED認証を取得した事例を紹介します。こちらはノースカロライナ州にあるデューク大学のThe Richard H. Brodhead Center for Campus Life(LEED Silver取得)という施設です。(2023年9月に訪ねました。)
デューク大学は2021年時点でキャンパス内の50件を超える建物・施設がLEED認証を取得しています。今回取り上げるのはゴシック様式の歴史的な建物に囲まれたこのモダンな建物で、学生食堂や学習スペースが設置された施設です。
また、この施設の出口付近には駐輪場が設置されていて、施設の利用者に積極的な自転車の利用を促進しているという部分も評価できるポイントです。
ちなみに、個人的にお気に入りの環境建築がこちらのアル・バハール・タワーズ(UAE・アブダビ)です。こちらの建物にもLEEDの設計指針が取り入れられているそうです。
このように、LEED認証を取得している建物が実際に高性能な環境建築であることは間違いありませんが、その反面、このような認証制度にも不完全な側面があると考えていて、それについて自分の中で考えていることについては記事の後半部分でまとめています。
以上を踏まえて、次のように用語を整理したいと思います。
・環境建築:「環境性能が高く、人の健康にも配慮した建築物単体」というニュアンス
・green building:「環境建築」をもっと普及させていこうという取り組みを指す。日本ではこの動きがほとんど見られない。
【宣伝】GBJ学生ユースのご紹介
ここで宣伝ですが、「環境×建築」という見方・考え方に興味があるという方は、GBJ(Green Building Japan)学生ユースという学生団体にご加入いただけるととても嬉しいです!GBJ学生ユースでは「建築」「まちづくり」「環境」「サステナビリティ」をテーマに、それらの学習・普及に関するイベントやインタビュー企画、見学会などを実施しています。今後は不動産に限らず広いテーマを扱っていく予定です!
2024年3月にTwitterアカウントを開設しました!
2024年度より僕がリーダーを務める予定ですが、コアメンバーの人数がやや少ないという状況です……。関東に限らず全国の高校生・大学生のご加入をお待ちしております。関心のある方は僕にDMやメール(一番下にメアド貼ってます)にて気軽にお声掛けいただけると幸いです!
2. Greenbuild 2023・参加報告
Greenbuildについて
改めて説明しますが、Greenbuildは主催団体USGBC(U.S. Green Building Council)によって毎年アメリカで開催されている世界最大の開催規模を誇るgreen buildingのカンファレンス・展示会です。
さらに今年は、USGBCが創立30周年を迎える歴史的な年でもあるため、3日目の夜にはUSGBCの創立30周年を記念するイベントも開催されました。
本カンファレンスには、アメリカ国内に限らず世界中から沢山の方たちが集まり、アメリカ・メキシコ・台湾・中国・タイ・イタリア・オランダ・ラトビア、……など沢山の国の方たちと交流することができました。
こちらがイベントのスケジュールです。
green buildingに関連したいくつものセッションが開催されるだけでなく、企業によるブース出展、参加者同士のネットワーキングの機会、さらには著名な俳優・作家・政府高官・学者などによる基調講演などもありました。過去にはバラク・オバマ前大統領による基調講演もあったそうです。これから詳細に紹介していきますが、Greenbuildは学術的なイベントである一方で、どこかエンターテイメントの要素が含まれている印象を受けました。
ちなみに、会場はアメリカ最大のコンベンションセンターと名高いWalter E. Washington Convention Centerでした。
僕は今回のGrennbuild 2023に「Greenbuild Scholarship」と「Volunteer program」の2つのプログラムを通じて参加しました。
「Greenbuild Scholarship」は通常の参加費$800(Learning Package)が免除される上に、会場すぐ近くの綺麗なホテル4泊分の料金も全てUSGBCが負担してくれるという非常に良心的なプログラムでした。参加後には簡単なレポートの作成が求められました。
「Volunteer program」はGreenbuild2023のイベント自体がTRUE認証と呼ばれる廃棄物ゼロを目指すための認証を取得するために、イベント内で発生する廃棄物の適切な分別をサポートするボランティア活動に取り組むプログラムです。4時間のシフト×2回、合計8時間のボランティア活動を行うことで参加費が免除されました。
実際にどのように廃棄物の分別が行われていたのかについてですが、廃棄物の分別率80-85%という目標達成に向けて(アメリカ国内平均は16%)、以下のように分別されました。
・BOTTLES / CANS
プラスチック・アルミニウム製の容器(空の状態)
・CARDBOARD / PAPER
紙、雑誌、段ボール(ピザの箱など)
・COMPOSTABLE
コンポスト向けの廃棄物。会場内で購入した飲食物の紙製の容器が対象で、残った食べ物は捨てても良いが、飲み物は捨ててはいけない。
・LANDFILL
埋め立ての廃棄物。会場外で購入した飲食物の容器が対象。
ボランティアはオリジナルの水色のTシャツを着て、会場内の至る所に設置されたボックスの前に立ち、参加者が廃棄物を正しく分別して捨てられるようにサポートしました。「このように分別してください」と紙に書いてどこかに貼れば良いだけの話では、と思っていましたがなかなか指示を守ってくれない方が割といるんですよね……。中には「これ(捨てようとする廃棄物)がCOMPOSTABLEな訳がないだろう」と何故か怒ってしまう方もいました。また、このボランティア活動はアメリカ特有の少しでも雇用を生み出そうとする思想にもどこか通じる部分があるのではないかとぼんやり考えました。
それに加えて一つ気になったというか物申したいのが、食べ物を残す人が多すぎるということです。食べ物ごと容器を捨てようとする人に対しては、「Please wait, I'll have it! …I'm really hungry.」と言って、余ったものは全て僕が食べていました。でもこういう時に外国人の方と仲良くなれるんですよね……。
ちなみに廃棄物の分別に関連して、ボランティアに限らず参加者には事前に「Be a Sustainable Attendee」ということで、以下の決まりのようなものが共有されていました。
ボランティアは廃棄物分別のサポートだけではなく、会場の道案内をしたり、写真撮影をサポートしたりなど、とにかく色々やっていました。「ボランティアをやってくれてありがとう!」と声を掛けてくれる方もいて、総じて楽しくボランティアの役割を全うできたと思います。
ボランティアプログラムに参加することで得られる最大の利点は、ボランティアコミュニティを通して沢山の繋がりを作ることができたことです。ボランティアは学生が意外と少なめでしたが、建築・都市に限らず機械・電気系の学生も多くいたのが印象的でした。都市の電化を通して脱炭素の達成を目指そうとする世界の潮流を踏まえると納得できますが、建設DXに特化したイベントでもないこのようなカンファレンスに機械・電気系の学生や社会人が沢山いるのは日本ではあまり想像できません。
ちなみに、先ほど少しだけ登場したGreenbuild event appがとても興味深いものでした。
イベントのスケジュールを詳細に確認することができるのはもちろん、会場フロアマップの確認、各セッションごとに質問をリアルタイムで投稿できる機能、さらには参加者同士のマッチング機能を搭載しており、非常に万能で便利なアプリケーションでした。デジタル化による紙資源削減といった狙いもあるようです。
そしてここからは、僕が体験したGreenbuild 2023での4日間を振り返ります。
■Day1
実は開催2日前の夜に、とあるビアガーデンにてボランティア同士の小規模な交流会がありました。ここで早速交流できたのは良かったです。
1日目が始まりました。
会場のコンベンションセンターはとにかく広大でした。
午後からはセッションが始まりました。この日僕は以下の2つのセッションに参加しました。
・「Unleashing the Global Power of Greenbuilding - An International Symposium」
・「DC's BEPS Affordable Housing Retrofit Accelerator」
セッションの詳細な感想等は「3. Greenbuild 2023・考察」にまとめていますが、2つ目のセッションは非常に興味深い内容でした。
17:00からはWelcome Receptionが始まりました。
ご飯を食べたりバンドの演奏を聞いたりしながら、参加者が自由に交流する時間でした。僕とほとんど同い年のアメリカ人の女の子3人組と仲良くなることができて、日本から来たと言うとびっくりされました。そして同じく日本から参加されている僕のインターン先の方たちともここで合流しました。それにしてもバンドの演奏の音がデカすぎる……会話に支障を来しまくっていました。
初日はセッションもあまり無く、ボランティアのシフトも無かったのでイベント自体はどこか物足りなく終わってしまいましたが、夜は日本・台湾・香港・USGBC南アジア支部の方たち総勢約20名で食事会に行きました。とても良いレストランだったのでD.C.を訪ねた際は是非。
僕以外は全員社会人で活躍されている方々でしたが、非常に刺激を受けました。USGBC南アジア支部のディレクターの方からは「次会うときはSpeaker、つまり参加者ではなく登壇者として会おう!」と言われました。今回のイベントに参加するにあたって、僕は完全にインプットを目的として臨みましたが、いつか必ずアウトプットする立場に、つまり話題を提供する立場としてその場に立たなければならないと身が引き締まりました。
初日から非常に有意義な時間を過ごすことができました。
■Day2
2日目は朝7:00-8:00のMorning Wellness Activitiesから始まりました。希望者はランニングとヨガのどちらかに参加します。ただ運動するだけでなく、参加者同士の交流も深める良い機会でした。また、人間の健康に配慮した建築・都市空間の実現を目指すgreen buildingの思想に共感を示した上で、自分たちの健康も維持していこうというコンセプトが含まれているように感じました。
このような取り組みは日本のイベントではなかなか見られないような気がしていて、これから何かイベントを企画する際の参考にしようと思います。
ちなみに僕はランニングを選択して、朝日が昇り始めるD.C.の街を走りました。
全体としてランニングのスピードはかなり早めで大変でした。僕が上京してから運動不足なのもありますが。基本的に横断歩道も車さえ通っていなければ皆信号無視で走る(良くなさすぎる)ので、休憩もほとんど無く走っていました。序盤こそ前の方で楽しく会話で盛り上がりながら走っていましたが、気づけば後ろの方に……。そして45分ほど走ったところでまさかの足が攣るというトラブルが発生し、リタイアする事態に。しかも太ももが筋肉痛になり、イベント最終日まで痛みは続くという羽目になりました(涙)。
ホテルに一旦戻ってシャワーを浴びてから急いで会場に向かい、9:00からのOpening Keynoteに参加しました。
Opening Keynoteでは、USGBCのCEO・Peter TempletonさんからUSGBC創立30周年、そしてLEED v5のリリース(詳細は後述)が発表され、会場からは盛大な拍手が起こりました。世界全体の動きを加速化させるための新たな出発点を祝っている様子でした。
2日目からは、セッションに限らず沢山のイベントが本格的に始まりました。
Expo HallではGreenbuild Expoが開かれ、さまざまな企業が自社製品のブース出展を行い、企業同士の交流、ネットワーキングが行われていました。展示方法にアメリカらしい工夫があるという様子はなく、展示ホールに関しては東京ビッグサイトの展示風景とかなり似ている印象でした。
展示を一通り見て回りましたが、個人的にはHempitectureという会社が開発した、ヘンプ(麻)という植物を用いた断熱材が興味深く、断熱材に用いる資源自体の持続可能性にも配慮している点が画期的だと感じました。
また、僕は参加できなかったのですが、Greenbuild Expoの他にも、
・One 2 One Meetings
・Roundtables
・Speed Networking
といった交流の機会が沢山あったそうです。先ほど紹介したGreenbuildのアプリには参加者同士のマッチングができる機能もあるので、このような機会がいくつもあるのは参加者にとって非常に良いと思います。
そして、12:00-16:00にはボランティアとして廃棄物分別のサポート等を行いました。ボランティアの内容としては先ほど説明した通りです。早朝ランニングの筋肉痛が治らず立っているだけで苦痛だったのはあまりにも誤算でしたが、ボランティア同士で沢山交流できたのが本当に良かったです。
2日目は「Beyond the Numbers Game − New Models to Scale Affordable, Healthy, and Green Housing」というセッションに参加しました。ボランティアのシフト希望を適当に出してしまったせいで、行きたかったセッションに行けなかったのは反省点でした。
16:00からはExpo Hallでハッピーアワーが行われて、2日目を終えました。
■Day3
3日目の朝もMorning Wellness Activitiesが行われているようでしたが……行きませんでした。足が痛すぎるからです。
7:30から「Kohler Presents: Unlocking Adoption of Sustainable Building Practices」というセッションに参加して、豪華な朝食を食べながらトークセッションを聴いていました。
8:30からは昨日のOpening Keynoteと同じ大ホールにて「2023 USGBC Leadership Awards」の授賞式が開かれ、green buildingに先進的に取り組んでいる5つの組織もしくは個人の方が表彰されました。
表彰された方々の詳細は上記のページに掲載されています。個人的にはフロリダ大学のBahar Armaghaniさんの取り組みが非常に印象的でした。Baharさんは「dedicated educator」ということで紹介されていましたが、その名の通りこれまでに数多くの学生にワークショップや見学ツアーを通してgreen buildingを知ってもらうことで、アメリカを中心に世界に広めていく取り組みを続けているそうです。日本にもこのような取り組みを広めていきたいと考えている以上、まず見習うべきはBaharさんのような取り組みだと感じました。
Keynote終了後、「Volunteer program」と「Greenbuild Scholarship」のどちらかもしくは両方の参加者がステージ上に集まって集合写真を撮影しました。
さらにその後、Greenbuild Scholarship限定の交流会にも参加させていただきました。サステナブルビジネスを専攻している学生、NPOの代表を務めておられる方、大学教授の方、さらには既存建築物の環境性能向上に向けたスタートアップ事業を展開されている方など、非常に多様で刺激的な方たちでした。英語なので、大学教授の方たちともフレンドリーに話すことができました。
12:00-16:00はボランティアのシフトが入っていたのでボランティアの活動に取り組みました。足が本当に痛かったです。
そして19:00からは、コンベンションセンターから国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館に移動して、USGBCの創立30周年を記念した「The Greenbuild Gala」という壮大なパーティーに参加しました。
ここでは建築やビジネスについて真面目な話をしている人はほとんどいませんでした。多分。立食形式でご飯を食べたり、ステージの演奏を聴いたりと、とにかくパーティーを楽しんでいる様子でした。
ちなみに会場ではヴィーガン対応のメニューも提供されていました。日本とは明らかに違う点です。仲良くなった女の子の一人は、両親がヴィーガンなので彼女も17-18歳のときにヴィーガンを選択していたものの、健康上の問題が出たことで医師の助言を受けてヴィーガンを辞めたみたいです。現代で多く見られるような強制力のある制度ではなく、自由な選択ができる制度の中で、本イベントのように誰でもヴィーガン対応メニューを試せるというのが現状は理想なのかもしれません。
1日目前日の交流会、Welcome Reception、ボランティアの同じシフトで仲良くなった人たちと一緒にステージ前で踊りました。日本でもこんな体験をしたことはありません。特にアメリカ人のノリというか活発さには圧倒されました。仲良くなったアメリカ人のうち2人が、このバンドの演奏が何時に終わるのかというしょーもない賭け($2)をしていて少し目を疑いました。
時刻は22:00。会場は閉まってしまうみたいです。最高に楽しい夜でした……のはずでしたが、まさかの別会場にて2次会があるらしく、仲良くなった人から偶然余っていたというチケットをもらいました。これは行くしかないということで、少し歩いた先の別会場に移動しました。
正直かなり疲れていたのであまり元気がありませんでした。アメリカは年配の方でもこんなに夜遅くまで楽しんでいるのが印象的でした。僕よりも全然元気です。少し休憩しようと端の方に移動したところ、ミネソタ州の大学教授の方が声を掛けてくれました。彼は建築とビジネスについて研究しているらしく、東京が好きだと言っていました。しかも、僕は1:00頃に途中で抜けてホテルに戻ることにしたのですが、彼もついてきてくれて一緒にホテルまで帰りました。彼とは今でも定期的にMessengerでやり取りをしているのですが、彼がここまで僕に優しく接してくれたのは何故だったのだろうと今でも考えることがあります。ますますアメリカに住みたくなってきました。
ちなみに2次会のパーティーは深夜2:00まで続いていたそうです。
■Day4
ついに最終日。眠い……昨夜にあれほど盛大な夜遊びがあったので、ほとんど参加者はいないのではないかと思っていましたが、意外とそんなことはなかったので驚きでした。
11:00からはClosing Keynoteが開催されました。ゲスト講演では、海洋生物学者のAyana Elizabeth Johnsonさんの基調講演がありました。世界のCO2排出量のうち約4割を建設部門が占めるという事実を説明した上で、「How to do(解決する方法)」はすでに明らかにされているからこそ、「Implemention(実装)」が重要であるということを強調されていました。
また、講演では日本の「生きがい(Ikigai)」が取り上げれていました。生きがいという言葉に相当する英単語は無いらしく、海外でこの日本語が流行っているというのは知らなかったので驚きました。地球環境をこれ以上悪化させないために建築・都市の切り口から何ができるのか、何をするべきなのかを考える4日間でしたが、それ以前の議論としてなぜ地球環境をこれ以上悪化させてはいけないのか、そもそもなぜこの地球で自分たちは生きているのかといった問いに向き合うことも大切であるという文脈で「生きがい」が取り上げられていました。
午後はLEED・WELL認証を取得している建物の見学ツアーに参加しました。僕は5つの見学先の中からアメリカン大学(LEED Gold取得)の見学に参加しました。
とにかく屋根面を中心にソーラーパネルを設置し、地元で作られた建材を積極的に用いる。またコンポストも徹底し、学生主体のリユースプロジェクトも行われている。さらには建物・街区全体の両方に地中熱発電の設備を導入する予定がある。……
簡潔にまとめると以上のような内容で、はっきり言って日本では知ることができないような革新的な取り組みがあったわけではなかったです。しかし、キャンパス内には豊かな緑の空間が至る所に点在し、屋内にもテーブルとソファで安らぐことができる空間が沢山ありました。日本の大学ではなかなか見られない空間を体験することができたのは良かったです。
こうして4日間のGreenbuild 2023は終了しました。得られた学び、考えたことについてこれから振り返っていきます。
3. Greenbuild 2023・考察
※内容は随時更新・修正していきます(2024/03/30更新)
[1/6] Topics of Greenbuild 2023
今回のGreenbuildでは4日間を通して約170ものセッションが開催されていた。スケジュール上ほんの一部のセッションしか参加できなかったが、一部のセッションはアーカイブが残されていたので視聴することができた。
各セッションで扱われていた26個のトピックを以下に列挙する。
個人的に興味深いと感じる5個のトピックを太字で示した。ESGなどと関連したビジネスを扱うトピックが非常に多く、環境問題に関連したテーマである以上、ビジネスや経済の視点が必要不可欠であることが読み取れる。また行政の取り組みなどが多く紹介されていたことも踏まえて、本カンファレンスで扱われていたほぼ全てのトピックはトップダウン型の取り組みを扱っている印象を受けた。
ここで、1日目のセッションで紹介された以下の画像を紹介する。
環境建築の普及を阻むものは何なのか。コスト面の問題だけではない。地域全体の関心の無さ、需要の低さ、行政の支援不足など様々な障壁が存在し、それも地域によって大きく異なる。行政の支援不足という障壁は非常に大きく、言うまでもなく日本ではこの障壁が大きな課題である。ただそれだけでなく、市民が関心を持たない、ボトムアップの動きを起こせない、起こそうとしないという問題も見逃せない。
今回のカンファレンスでは世界各地のそれぞれ抱えている問題などを知ることができなかった(セッションに参加できなかった、アーカイブが残っていなかった、自分の英語力不足もあって深く聞き出せなかった etc.)のが大きな反省点である。これに関してはさらに自分で調査を進めていきたいところだ。
[2/6] Latest trends in 2023
Greenbuild 2023を通して明らかにされた世界の動き、最新の潮流を簡潔にまとめた。
◯ LEED v5 for Operations and Maintenance(草案)の発表
[3/6]参照
◯ 扱う空間スケールの変化
LEED認証やWELL認証が対象とするのは主に一つ一つの建物単位であったのが、近年ではSITES(Sustainable SITES Initiative)のような都市、グリーンインフラを評価するシステムが登場したことから読み取れるように、建物単位ではなく、街区や自治体単位にまでスケールを広げて取り組もうという動きが見られた。
◯ 評価スケールの変化
これまでは個別の建物をそれぞれ評価したり、CO2排出量などに関する情報開示を求めたりしていたのに対して、2024年以降は不動産ポートフォリオ全体を評価し、環境性能の改善や検証を行うようになるという。ほとんどの不動産ポートフォリオには当然全ての不動産が含まれることになる、すなわち環境性能の低い不動産も含まれることになる。このように評価スケールをポートフォリオ全体にまで広げることで、これまでは主要な建物だけが評価されていたのがポートフォリオ全体が評価されるようになり、そして改善が求められるようになる。個人的にこれは非常に大きな進展であると考えている。
◯「脱炭素」の強調
既存建築物のCO2排出量は、世界のエネルギー関連のCO2排出量の28%を占めている。本カンファレンスで開催された数あるセッションの中でも多くが既存建築物のCO2排出量削減を強調するものだった。LEED v5の草案が発表されたことも脱炭素への注目が集まっているからである。
また、ホワイトハウスはzero-emissions buildingsについての新たな国家的定義を定めた基準を作成する意向を示した。LEED v5はこの基準に沿う形で作成されようとしている。
◯ 生物多様性への着目
建物単体に限らず都市全体にまでスケールが拡大しつつあるという話題に関連して、生物多様性や自然に関するトピックへの注目度が高まっている。自然へのアクセスを重視したランドスケープデザイン、バイオフィリックデザインに関連したセッションも多かった。ここまで自然資源への注目が高まっているのは、2021年のTNFD*(自然関連財務情報開示タスクフォース)の設立が影響していることが理由として考えられる。
*TNFD について
・TCFD:気候変動について、CO2排出量という情報(非財務情報)の開示を求める
・TNFD:生物多様性について、地域特性を含めたあらゆる情報(非財務情報)の開示を求める
→→どちらも企業の社会的価値を可視化することが目標
[3/6] How to find value in a certification system, LEED v5
LEED v5 for Operations and Maintenance(既存ビルの運用とメンテナンス)の草案が発表された。USGBCによって発表された新たなこの枠組みは、2024年完成予定である。
パリ協定の1.5℃目標達成を本当に目指すのであれば、もう我々に残されている時間は無い。その中で建築物の脱炭素化の動きを加速化させるためにも、LEED v5には大きな期待が寄せられている。現在世界で100,000件を超えるプロジェクトがLEED認証を取得しているほど、LEED認証に注目が集まっているが今回新たに発表されたLEED v5は脱炭素にさらに重点を置いている。また「human health(人の健康)」「resilience(レジリエンス*)」「equity(公正)」に関する課題にも取り組むためのきっかけになることを目標とした内容である。
*「レジリエンス」の定義(災害対策・復旧に関連した内容)
LEED v5の主な新機能としては以下が挙げられる。
・脱炭素目標の達成に向けた既存建築物への取り組み強化
・屋内の在室状況を踏まえた、人中心のアプローチの促進
・気候変動に関するレジリエンスについての評価の義務化
・感染リスク管理の指標を含む、室内空気質の継続的評価 など
正直なところ、このような表層的な変更内容しか理解しておらず、具体的な数値設定の変更箇所などは分からない。この辺りは、2024年内に取得を目指すLEED APの資格勉強を通して、さらに理解を深めていきたい。
このようにLEED v5にはgreen buildingの革新的な一歩を踏み出す期待が込められているが、そもそもなぜLEED認証なのか?果たしてこのような認証制度を普及させることが本質的に必要なのかという問いに今一度向き合う必要があるのではないか。少なくとも自分は認証制度が果たす役割を肯定する一方で、認証制度は不完全な側面も抱えていると考える。
LEED認証に限らず、サステナブル認証ラベルや食品安全マネジメント認証のような認証制度の果たす役割は、定量化しづらいものに対して共通の評価軸を設定することだと考えている。ある建物や製品が本当に信頼できるものなのかを証明する上で、認証制度は非常に重要な役割を果たす。環境配慮の文脈で言えばグリーンウォッシュを防ぐ役割も期待できる。
しかし、求められる性能、つまり認証制度が設定するべき基準の高さも社会の変化に応じてグレードアップが求められる。自分はこのグレードアップにこそ認証制度の真価を見出すべきではないかと考える。
例えば今回発表されたLEED v5を例にすると、2000年に初めて実装されたLEED認証はこれまでもグレードアップを重ねて、2013年にはLEED v4が発表された。そして今、LEED v5の草案が発表されたわけだが、このように時間を重ねるにつれて認証制度自体をさらにグレードアップさせることで、陳腐化させないということが認証制度の核となる部分ではないだろうか。
認証制度がグレードアップするということはすなわち、その認証制度を取得する難易度が上がるということである。そうなると一見、その認証制度の取得数は減少するように考えられるが、以下のサイクルを思い浮かべると認証制度が陳腐化しない工夫の仕組みが分かりやすくなる。
以上のような流れが起きることを狙ってLEED認証をはじめとした制度設計を行うUSGBCの力量・巧妙さには見習うべき部分があるだろう。
ただし、アメリカの組織であるUSGBCが設計している認証制度である以上、あらゆる国・地域に適用する際に不具合が生じやすいのも事実である。例えば日本でLEED認証を取得しようとする場合、Water Efficiencyの項目で評価を得るのが困難である場合が多い。(日本は水資源が潤沢であるため。)あらゆる地域に適用できるように改善が図られているようではあるが、このような部分に建築・都市を扱う認証制度から感じられる不完全さというべきか、根本的に改善するべきだと考える点が存在する。
つまり、USGBCがいくら綿密に制度設計を繰り返して作り上げた認証制度であっても、それはあくまで第三者による一つの評価指標でしかない。定量的なデータ分析も含めた共通の評価軸としての役割は非常に重要である一方で、やはりあらゆる地域の建物や都市空間、そこに住まう人々にとって適切な共通の指標を作るのは限界があるのではないだろうか。
これらを踏まえて、LEED認証のように高度に設計された第三者認証制度と共存するような形で、市民自らが設計して作り出した認証制度、もしくは評価ツールが存在しても良いのではないか、というのが自分の中での仮説である。第三者による評価手法特有の欠点を補完しつつ、市民の参画を呼び寄せるようなものが現時点での理想であると考えている。つまり、ボトムアップの動きがもっと必要だと考える。これに関しては何となくイメージしたものでしかないので解像度もゼロに等しい。しかし、何らかの形で社会実装したいと考えているアイデアの一つである。
[4/6] Affordable housing from an environmental perspective
気候変動、脱炭素、経済、ウェルビーイングなど、いわゆる環境問題に関連したテーマで建築・都市を扱うGreenbuildという名のカンファレンスで頻繁に登場した言葉、それは「Affordable Housing」だった。日本語では「アフォーダブル住宅」と呼ばれるこの言葉は、世界に比べて日本ではあまり浸透していない。
さらにここで紹介したいのが、Greenbuild Scholarshipに応募する際の質問項目のうちの1つである。
あらゆる人々に住む場所を届けようとする取り組みが、環境に関するテーマを扱うカンファレンスで同列に扱われているということが意味するものは何なのか。これについてさらに掘り下げていく。
ちなみにaffordable housingはすでに以前のカンファレンスから取り上げられており、Greenbuild 2019(アトランタ開催)ではほとんどメインテーマとして大々的に取り上げられていたようだ。
アメリカは貧富の差が激しい上に、日本とは違って家賃が一気に跳ね上がることもあるので、自分の住まいを失ってしまうリスクが大きい。そのような背景もあって、アメリカではアフォーダブル住宅に関する施策が整備されていたり、行政からの補助金を取得しやすかったりする。
上の画像から分かるように、アメリカでは特に西海岸の地域やテキサス州でアフォーダブル住宅の不足が深刻化している。
アメリカでのアフォーダブル住宅の取り組みは、「アフォーダブル住宅開発」「就業支援」「持続可能性」の3つのレイヤーで事業展開されるが、今回は「持続可能性」のレイヤーに着目したい。
ここでは、1日目に参加したセッション「DC's BEPS Affordable Housing Retrofit Accelerator」の内容について紹介する。
D.C.市内における「2030年までに温室効果ガス50%削減」という目標を2012年に打ち出し(その後「60%削減」に変更)、そして2045年までにゼロカーボン実現を目標として定めた「SUSTAINABLE DC VISION」の一環として取り組まれるAffordable Housing Retrofit Accelerator(AHRA)は、
・D.C.における既存建築物のエネルギー性能の最低基準値・BEPSを満たす
・手頃な住宅価格を維持する
・住宅のエネルギー効率を向上させ、温室効果ガス排出量を削減する
・居住者の生活の質を高める
以上を達成するための支援をD.C.の共同住宅または集合住宅を対象に行う取り組みである。
D.C.はエネルギー性能の基準としてBEPS(Building Energy Performance Standards)を開発し、まず初めに2021年1月に定められたエネルギー性能の最低基準値を満たしていない既存建築物は改修が求められ、その最低基準値は6年ごとに更新される仕組みを作り出した。
AHRAは基本的に行政や非営利団体による補助金を利用しながら上手く金銭サイクルを回す取り組みである。
また、BEPSを開発した段階から、D.C.は既にアフォーダブル住宅に取り組もうとしていたという。アフォーダブル住宅の切迫した金銭サイクルとBEPSの6年サイクルは明らかに相性が良くないが、アフォーダブル住宅においても居住環境や市場価格を悪化させたくないため、BEPSのような環境基準を免除したくないという先を見据えた視座をD.C.は持っていた。
また、AHRAに関して特筆すべきことは、アフォーダブル住宅の環境性能を向上させる取り組みを以下の組織が共同で取り組んでいるという点である。
・DC Department of Energy and Environment:D.C.の政府機関
・DC Sustainability Energy Utility:非営利団体
・DC Green Bank:金融機関
(・各ビルオーナー)
非営利団体のDCSEUと金融機関のDC Green Bankが政府と協働しようと繋がったのは2021年12月だった。とある基金が支援するプロジェクトを探していたところ、AHRAが全面的に押し出され、それが協働するきっかけになったそうだ。
AHRAはビルオーナー、不動産管理者に向けた取り組みであるが、建物のオーナーにとっては建物の利便性やコストはもちろん、それだけでなく建物の性能も非常に重要である。例えば設備に関係する問い合わせが何件も来るとオーナーは大変であるし、他にも機器の寿命を長持ちさせてコストを極力抑えたいという思いもある。AHRAは居住者だけでなく所有者・管理者のニーズも満たす取り組みであると言える。
AHRAが最終的に目指すのは自立・持続可能なファンドサイクルの実現であり、AHRAなしのBEPSプログラムは成り立つが、それでは賃貸料の増加は避けられなくなる。手頃な住宅価格を維持しつつ、BEPSの基準を達成するのは困難ではあるが、AHRAは非常に長いスパンで展開されているからこそ色々な組織が協働で取り組んでいる。政府と他組織が協働で取り組む一つのモデルとして、参考になる部分は沢山あるはずだ。
この記事ではAHRAの概要について触れたが、レクチャーを見返したりさらに調査したりしてAHRAに対する理解をさらに深めることができた。このトピックに関して今後さらに議論したいと考えている。
ちなみに、日本ではアフォーダブル住宅がほとんど普及していないという問
題がある。ここでは豊田啓介さんのツイートを引用している。
日本でもアフォーダブル住宅の必要性が唱えられ、さらにはエネルギー高騰といった問題もあるからこそ、環境性能の観点は必要不可欠ではないだろうか。実際に、昭和後期に建設された公営住宅の断熱性能の低さが問題視されているという事実も存在する。
後述するが、環境建築を普及させる、より多く広めていくのであれば、あらゆる人々に届けるべきである。一部の人間だけが利用できる今の状況は必ず改善しなければならない。今回自分がアフォーダブル住宅に大きな関心、そして危機感を抱いたのには理由があった。Greenbuild 2023に参加する前にボストンを観光していたとき、Back Bay Stationという大きな駅の前にあるコンビニエンスストアで、14歳の女の子が働いている光景を目の当たりにしたのだ。彼女は平日に学校に通って、土日はいつも働いているという。「アメリカの貧富の差」を自分の目で見た瞬間だった。このような経済格差に対して、AHRAのような取り組みは重要な手段になり得るし、他にもそのコンビニの環境改善を図るとか建築だからこそできることはあるはずだ。建築はビジネスと相関させなければならないし、取り組むべき問題は沢山ある。
まず自分にできることはこのような事例を徹底的にリサーチしてわかりやすく伝えるところからだ。
[5/6] The Legacy Project: Roots to Success
まだ編集中。
[6/6] How to realize green building
これから環境建築はどうあるべきか。
Greenbuild2023で扱われていたトピックを全体的に眺めてみると分かるように、green buildingはビジネスや経済の色が強く、そして動作的なものである。地球に激甚な被害をもたらす気候変動への対処、誰もが快適に暮らせる社会の実現、……果たして、green buildingは本当に世界を変えるものになるのか。少なくとも今の状態ではまだ不完全だと考えている。
ここで、社会におけるgreen buildingの立ち位置を明確にした上で、自分が考える欠点・改善点を2つ示す。
1つ目は、green buildingという取り組みは、環境建築ではない建築物に現状ほとんど対処できていないというジレンマである。
LEED認証やWELL認証を取得する需要が高まっているのはなぜなのか。建物の所有者が環境に配慮したいという思いがあるからという理由の他にも、環境に配慮していることを証明することで企業のイメージをより良くしたいという狙いもあれば、そもそも日本のオフィスビルに海外の企業が入居する場合、そのオフィスビルがLEED認証を取得していることが前提であるというケースもあるためである。このように見てみると、green buildingの市場を確立することで環境建築を広めようとする狙いは非常に優れている。カラーテレビやスマートフォンが登場した当時、それらは革新的な出来事だったが、今となっては当たり前のものになっているのと同じように、環境建築を当たり前のものにしようと目指しているのが今の社会の動きである。
しかし、このような市場の動きはある一定のレイヤーに収まっているのが現状である。「一定のレイヤー」というのが曖昧な表現ではあるが、少なくともこのレイヤーには断熱性能やエネルギー効率が低く利用環境が劣悪な住宅・業務用建築のような本当に今すぐ改善するべき建築物は含まれていないのである。特に市場の動きはなかなか住宅にまで及ばず、2023年時点で日本国内でのLEED認証件数約230件のうち、住宅の認証件数(LEED for Homes)は僅か4件である。市場は順調に拡大しているからこそ、一つのレイヤーに収まってしまっている現状から脱却するための最大限の努力が必要である。これに関しては順序の議論も必要であると考えている。例えば、[4/6]で紹介したアフォーダブル住宅の取り組みはあらゆるレイヤーにまで適用しようとする観点から見ても重要な取り組みであるが、まだまだ課題も多い。この課題に対して自分は必ず答えを導き出したい。
2つ目は、green buildingはトップダウン型の動きである、つまりボトムアップ型の動きも必要ではないかということである。
今ある社会問題はトップダウン型では解決できず、ボトムアップ型の解決方法へと変容していくべきではないだろうか。[1/6]、[3/6]でも触れたが、ボトムアップの動きがより加速化すると、自分も社会も変わることができるのではないだろうか。
2024年1-3月に開催された展覧会「能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ) ――複数種の網目としての建築」を開催されていた能作文徳さんの以下のツイートが非常に考えさせられるものだ。
日本とは異なり、欧米では行政主導でトップダウン型の環境建築の普及が進められていて、日本は欧米を見習うべきだということは間違いない。しかし、能作さんの展覧会でも見られるような多角的な視点から挑戦する環境建築は新たな価値を生み出し、それが実際に欧米で評価されているということにも注目する必要がある。
展覧会の「断熱のジレンマ」という章では、断熱工事は予算の中で大きな比重を占める上に、断熱材の工事費と冷暖房のランニングコストの回収に時間がかかるため、お金に余裕がない人は断熱工事ができないという問題について触れられていた。(参照:アーバン・ワイルド・エコロジー / 能作文徳+常山未央)
それに対する一つの解決策として、自分たちで少しずつ断熱改修する手法が挙げられていたが、それは正にボトムアップ型の動き、そしてその動きを生み出す環境の必要性が唱えられているように感じた。
下の写真は、自分が千葉県匝瑳市を訪問した際に見学させていただいた古民家の窓を撮影したものである。
窓のガラス面に貼られている*のは、緩衝材や梱包用に用いられている気泡緩衝材(プチプチシート)で、実はこれを貼るだけでもそれなりの断熱効果が期待できるのだ。
*厳密には、訪問した古民家では、気泡緩衝材を貼った型枠を窓のガラス面に重ねるような造りにすることで、気泡緩衝材をガラス面から剥がす手間を省略している。
今ここで重要なのは、気泡緩衝材による定量的な断熱効果ではない。現代の人々がいかに自分たちの手で暮らしに工夫を加えようとするアクションを失ってしまったのかということである。寒さの厳しい冬場、寒さを凌ごうとするためにまずやるべきことは果たして暖房をつけることなのか。それよりもまずは自分たちの手で何ができるのかを考えることではないだろうか。暖房をつける前に、窓をはじめとした開口部に何か工夫ができないかとアクションを試みることが必要ではないだろうか。自分を含めた現代人はこのようなアクションを取り戻していかなければならない。異常気象、エネルギー問題、環境問題と謳われるこれらの問題以前に、考え取り組むべき問題がそこにはあると考えている。
以上、Greenbuild 2023を通して自分の中で明確化された課題感である。
Greenbuild 2023ではトップダウン型の取り組みを扱うテーマがほとんどだった。しかし、環境建築にはボトムアップ型の動きも必要であり、その動きを促進させるための一種のトップダウン型の動きがまた必要となる。気候や文化も異なる世界各地で環境建築を普及させるためには、両者のバランスを上手く保ち、欠けている部分を補っていく必要があるかもしれない。少なくとも日本ではトップダウン型の動きがあまりにも小さいのではないか。
Greenbuild 2023では明確な答えを示すことはできなかったが、これから必要となる視座を得ることができたように思う。トップダウンの政策や事業も実現させたいし、この分野におけるボトムアップの具体的な方法論を確立するために検証実験にも取り組んでいきたいと思う。
実際にGreenbuild 2023に参加して気づいたことは、日本の取り組みがあまりにも遅れていることはもちろんだが、案外他の国も課題が山積みであり、例えば既存建築物の環境性能が低いといった日本と同じような課題をアメリカも抱えている。今回はボランティアとしての活動をメインに参加したこともあり、より多くのセッションに参加することはできなかった。自分自身の勉強不足も痛感した。ただ、Greenbuild 2023に唯一の日本人学生として参加してこのようなカンファレンスで沢山の人と交流する中で自分の存在を示したことをきっかけに、この分野でこれから挑戦し続けていきたい。
読んでいただきありがとうございました。
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