アトリエ

 申し込んだのは私だ。この私だ。
不登校で、不登校の子達がいく施設にも不登校な彼を登録したのは私だ。
彼は数ヶ月前に、美術予備校の中学生クラスの体験レッスンに行って、得意な絵を褒められ嬉しそうに顔を歪め、授業が終わった後にはスッキリとした爽やかな表情を浮かべていた。
そんな彼を見たのは本当に久しぶりだった。少年野球のエースだった彼が、最優秀選手賞に選ばれた時以来だったと思う。
 五月に不登校になって以来、野球部にすら行かなくなってしまった彼。その才能が勿体無かった。その若さが。幼さが。二度とは戻ってこない時間が。
それらが部屋でごろごろしたり、亀の世話をしている間に、どんどんと物凄い速さで失われていくことが堪らなかった。まだ中一なのに。
 絵は野球以外で彼の好きな、得意なことなのだ。

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