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ショート・ショートの小太郎

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#独り言

日課 ある殺人者の独り言

指紋は拭いた

アリバイは完璧

目撃者はいない

凶器は始末した

監視カメラのテープは抜いた

完全犯罪のための

確認作業

それが俺の日課

いけない!

殺すの忘れてた

採点 ある採点マニアの独り言

採点する事は大事な事だ

僕はいつも採点する

どんな些細な事でも

その出来事に点数を付ける

今日は課長が仕事のミスを

僕のせいにした

課長は自分のミスを僕にかぶせたんだ

これは点数がかなり高い

50点

それから意地悪な先輩が

仕事の出来ない僕を馬鹿にした

1点

すでに百点を越えた人もいるよ

いつも僕をいじめていた小学校の同級生

そんな僕をかばう事もせず

黙認していた先生

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目玉 罪びとの独り言

一度その味をおぼえたら

逃れる事は出来ない

それを口に含んだ時の喜びは

何ものにもかえがたい

あふれ出す液体は

乾いた私の喉を潤し

芳醇なその味が

私の心を深く満たす

私はいつもその事ばかりを考え

夜を待ち続ける

そして夜が訪れると

私は風のように闇を駆け

獲物に忍び寄る

私の大好物

にわとり小屋から盗んだ卵で作る

半熟の目玉焼き

ああ、おまわりさんごめんなさい

陶芸家の恋 ある陶芸家の独り言

私は陶芸家

たくさんの愛好家に認められ

数多くの作品を生み出してきた

そんな私は戯れに

少女の姿をした焼き物を創った

一千度もの炎の中から

美をまとい産まれてきた彼女は

透き通るほど白い肌をしていた

そして私はその美しさに惹かれた

彼女に恋をしたのだ

それからの私は一日の大半を

彼女のそばで過ごした

そして私の彼女への想いは

日に日に強くなっていった

だが私は人間

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あるスナイパーの独り言

今日のミッションは簡単な仕事

よく狙って引き金を引くだけ

ターゲットは女

踊っている女の眉間に

鉛玉を撃ち込むだけ

組織を抜けた者には

死が与えられる

俺たちは子供の時に誘拐され

殺人者として育てられた

お前への想いを

知られる事は許されなかった

組織の掟が俺たちを隔てた

お前が組織を抜けた時

俺は動揺を禁じえなかった

心の奥を見透かされそうで

俺はより冷徹に仕事をこ

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名もなき女の独り言

暫くぶりにここへ戻って来た

ここは私がほんの少しの間だけ

少女時代を過ごした場所

私はこの街で

ある組織に誘拐され

殺人マシーンとして育てられた

組織にとって邪魔な人間を

消してゆくのが私の仕事だった

そんな暮らしに嫌気がさし

私は姿を隠した

小さい頃から踊るのが好きだった

私は流れ着いた街で

踊り子として働き始めた

友だちもでき

その街にも慣れたのに

あの出来事が私

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盗む ある時間泥棒の独り言

俺は泥棒

この世界から

時間を盗む

少しずつ少しずつ

誰にも気付かれないように

みんな時間が足りなくなって

あわただしく働いている

記憶を操作したから

みんな1日は24時間だと

思い込んでいる

昔は48時間だったの

覚えてないでしょ?

もっともっと盗むよ

最終的には1日を1時間に

してやろうと思っている

何をする気も無くなって

本当にやらなきゃいけない事だけ

やる

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踊り子2 友人の独り言

そりゃあ驚いたね

あんなに大人しい娘が

あんな事するなんて

いつものように

ダンスを踊ってたんだ

ダンスは上手だったよ

この街じゃ一番さ

最後のダンスを踊り終えて

楽屋に戻ったんだ

そしてあの男が楽屋に現れた

銃声は一度きりだったね

男は銃さえ抜いてなかった

油断してたんだろうね

それからさ凄かったのは

あの娘は一人で奴らの所へ乗り込んで

結局、奴らを皆殺し

胸がス

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ダイエット宣言 ダイエットしたい私の独り言

私、ダイエットします

ご飯を半分に減らします

おやつも食べません

ちゃんこだってやめます

お酒も飲みません

そしてついでに

仕事も辞めます

おすもうの仕事

横綱まで登りつめる事が出来たから

思い残す事はありません

たくさんのお客さんの前で

ふんどしいっちょうで

ブラも付けず

はだかの男の人と

抱き合うのは恥ずかしいから

ダイエットして、私

普通の女の子に戻ります

物語  物語を読む者の独り言です

私は静かに見ている

ゆっくりと時は過ぎ

物語は幕を閉じる

本棚にそれを戻し

私はゆっくりと息をつく

そして別の物語を手に取る

物語が好き

たくさんの物語が

私を惹き付けて止まない

また一つ

産まれたばかりの物語が

届けられる

私はそれを手に取り

ゆっくりと時間をかけ

物語を読み終える

すべての人が物語の主人公

私はまた別の物語を手にする

そして私はゆっくりと

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貧乏神の独り言

わしは貧乏神

別の家へと引っ越す所じゃ

この家はだめじゃった

わしが来るにはおよばぬほど

貧乏じゃった

さすがのわしも

これほどの貧乏は見たことが無い

あまりに貧乏なもんで

気の毒になって

普通の貧乏にしてやった

するとこの家の者たちが喜んで

わしを福の神、福の神と

もてはやしおって

どうも居心地が悪いので

引っ越すことにしたんじゃ

わしが出て行ったあとには

福の神

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単純作業 ある労働者の独り言

俺の仕事は単純作業

やる事はいつも一緒

いくつかの動作を繰り返すだけ

辞めてしまおうかと思うけれど

俺にはこれしか出来ない

しょうがないからこの仕事を続けている

昨日も今日もそして明日も

やる事といったらいつも同じ

銃に弾を込めて

よく狙って

引き金を引く

たったそれだけ

ああ、もう一つあった

死体の片付け

これが一番大変なんだ

孤独 マラソンランナーの独り言

私は走る

たった一人で

四十キロ以上の道のりを

もくもくと走る

敵は自分自身

目指すのはゴールではない

参加する事にこそ意義がある

誰もいない道を

ただ私は走る

ストイックに

目指すのはゴールではなく

目指すのはスタート地点

敵は寝坊した自分自身

そしてもう一人の敵は

財布を無くした自分自身

スタートの時刻に

間に合えばいいが・・・

そしてスタート前に

四十キロ

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閻魔大王の独り言

わしは閻魔大王

長いことここを取り仕切ってる

だがわしも年をとった

ここ数千年ほど

どうも体の調子が悪い

そろそろ後継者をとも考えている

候補に挙がっているのは

何人かいるが

どいつも小粒で頼りない

だがわしが死ぬ前に決めておかねばならない

そこでふと思った

わしが死んだら天国と地獄

どっちへ行くのか

わしの後継者がそれを決めることになるが

わしはたくさんの人間たちを

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