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超短編小説: 呪いの子
ぼくのなまえは優だよ。ぼくは呪い。みんなを不幸にするのが僕の役目さ。他の呪いの子たちに負けないように、今日も誰かに取り憑いて、その子の人生を不幸にするんだ!
あの子はタケルくんっていうんだ。いたって普通な、真面目なだけが取り柄の子。よし、決めた!タケルくんに取り憑いて、呪いをかけて不幸にしよう。
優くんは黒い帽子に変身しました。そして、タケルくんの前にわざと落ちて拾わせました。タケルくんは帽子
無音の青春 (短編小説)
教室の一番後ろの真ん中の列に正(ただし)の席がある。席の横に据え付けられた金具のフックには、学校指定のデザインの鞄がかけられている。鞄の中は教科書とノートが常にぎっしり詰められていて、外から見るとパンパンに膨れ上がっている。それは正がガサツ過ぎて、最低限その日に持っていくべきもの以外も、お構い無くボンボンと詰め過ぎてしまうせいもある。しかし、買い物を母から言い渡され、学校帰りにスーパーに寄ることも
もっとみる短編小説 ある晴れた日の海で
「今日は初めて隆太が言葉を話した記念日なのよ。」
助手席に座った母が嬉しそうに呟いた。隆太は家族4人で車に乗っている。これから長浜海水浴場に行くところだ。「そうなんだ。最初に話した言葉は?」「ママって呼んでくれたの。」ふーん。何でもかんでも記憶している母には脱帽してしまう。家を出発してから1時間くらいは走っている。そろそろ着く頃だった。車中はカーエアコンの独特の生々しい香りが充満していた。道路は
短編小説 ユートピア
私の名前は義秀光。あるメーカーで貿易事務の業務をしている。入社してから3年目になり、仕事はだいぶ板についてきた。福利厚生や休暇の制度は整っていて、残業もなくほぼ毎日定時で帰宅できるとても恵まれた労働環境に身を置かせてもらっている。けれども残業が予算の関係であまり良しとされない見返りとして、就業時間までがそれなりに慌しい。今日もルーティンの仕事をしながら、舞い込んでくる雑務に追われていた。基本はデス
もっとみる超短編小説 | 訪問者
「水江さん。おはようございます。今日も朝から掃き掃除ありがとうございます。」
「久美ちゃん。おはよう。これから講義かしら。」
「はい。一限目からで7時半には席についてないといけないので。眠くなりそうですが、がんばって聴いてきます!」
「そうなの。いつも偉いわね。じゃあ行ってらっしゃい。」
久美は大学2年生になったばかりだ。この街に引っ越して一人暮らしを始めたのもちょうど2年前。親からの援助
短編小説 | 水の形
水の形1 プールサイド
水が怖い…。私がそう思うようになったのは、水泳を習い始めてから2年くらい経ってからだった。持ち前の積極性と運動神経のおかげで、泳ぎの方はメキメキと上達していった矢先の事だった。親も先生も友達も私がこのまま水泳を続けるだろうと期待していたので、突然やめたいと言い出した時は周りのみんなを困惑させてしまった。2年続けてみて一応泳げるようにはなったから、もっと色んなスポーツに挑戦