超短編小説: 呪いの子

ぼくのなまえは優だよ。ぼくは呪い。みんなを不幸にするのが僕の役目さ。他の呪いの子たちに負けないように、今日も誰かに取り憑いて、その子の人生を不幸にするんだ!

あの子はタケルくんっていうんだ。いたって普通な、真面目なだけが取り柄の子。よし、決めた!タケルくんに取り憑いて、呪いをかけて不幸にしよう。

優くんは黒い帽子に変身しました。そして、タケルくんの前にわざと落ちて拾わせました。タケルくんは帽子を見つけると、なぜだか自分のものにしたくなって、頭にのせました。「しめしめ、タケルくんが引っかかったぞ。これは被ると頭の中が丸裸になる帽子さ。」

タケルくんはその帽子を被った日から、みんなからのけもの扱いされるようになりました。タケルくんがちょっとでも誰かのことを悪く思ってしまうと、瞬く間に相手へと伝わってしまうからです。タケルくんへは誰も寄り付かなくなってしまいました。

タケルくんはそれでも頑張りました。自分は悪いことを考えてしまうけど、みんなと仲良くなりたいから、自分から逃げないでほしい。次に優くんは、呪いをかけてタケルくんから言葉を取り上げてしまいました。タケルくんが話をしようとすると、言いたいことを言えなくしてしまったのです。タケルくんは誰とも話すことができなくなってしまい、ついにひとりぼっちになってしまいました。

一人でいるとタケルくんはイライラしやすくなりました。そこで、優くんは今度はタケルくんに力を与えてあげました。タケルくんは、ケンカが強くなりました。その力を使って、下級生や同級生の弱い人を殴りつけたり、蹴飛ばしたりするようになりました。

それでもタケルくんのイライラは治りません。タケルくんは、今度は家にある仏壇を金属バットで粉々にしました。そして御供物の置かれた神棚も破壊してしまいました。

優くんは仕事の出来に大満足していました。さあ、仕上げに取り掛かろう!優くんは黒板をタケルくんの耳元に近づけ、長い爪で思いっきり引っ掻きました。ギャー!やめてくれ!とてつもなく不快な感覚が、タケルくんの身体を駆け巡って、蝕んでいくようでした。これで呪いの仕事は完了だ。

タケルくんは悩んでいました。誰かを殺して死刑になるか、一人で自殺した方がいいのか。死ぬなら一人で死んだ方が、きっと世の中のためにはなるよな。

そんなところで何してるの?話しかけてきたのは、チヨコちゃんだった。チヨコちゃんと話そうとしたけど、優くんの呪いのせいで言葉が出てこなかった?

私ね、実は家の都合で引っ越す事になったの。もう会えなくなるから、その前にお別れが言えてよかった。ばいばい。

チヨコちゃんの声が聞けて、タケルくんは目が覚めたような気持ちになりました。

しぶといな。まだ不幸のどん底に行って無かったのか。優くんはタケルくんに最後の呪いをかけました。あれ?チヨコちゃんの姿、声、顔が僕の記憶からどんどん消されていく。チヨコちゃんを目に焼き付けるために、タケルくんは走って追いかけた。ドテ。タケルくんは転んでしまい、その拍子に足を挫いてしまった。チヨコちゃんに追いつくのを諦めて、びっこをひきながら夕暮れ時を歩いている。そうだ。生きよう。生きなきゃだめだ。チヨコちゃんはこの世界のどこかで今日も生きてるんだから、僕も生きよう。もしもチヨコちゃんのことを思い出せなくなったとしても、チヨコちゃんの誕生日になったら写真を見ながら思い出そう。もしもまたどこかで再会したら、こんな青くて短い季節を共に走りましたねなんて、讃えあうことができるでしょうか。

終わり

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