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BtoB製造業は、自身の価値をどれくらい発信できているのか?

みなさんの会社の価値は、どれくらい社外に伝わっているのでしょうか?

現状は千差万別でしょうが、理想的には、自社の価値*を100%伝えきることがBtoBコミュニケーションの目指したいゴールです。(*製品・サービスの価値を含む、会社が提供するすべての価値)

それは、3つのステップから成ります。

1.自社の価値を正しく認識する
2.価値をコンテンツ化する
3.しかるべき相手にコンテンツを届ける

顧客は、みなさんの会社が提供する価値にお金を払います。その価値は伝わる形でなければなりません。そしてコンテンツにするだけで届く訳ではないので、ターゲットにタイミングよく届ける工夫が必要です。

なお、コンテンツとは、言語化・図式化・イラスト化・動画化された、メディア掲載可能な情報とします。

期待あふれる「コンテンツの届け方」の裏で忘れられたもの

1, 2には後でふれるとして、3つ目の「コンテンツを届ける」は、インターネットの登場で大きく可能性が開けました。

BtoBコミュニケーションの特徴は、BtoCよりもターゲットが狭いこと。コカ・コーラは日本の全人口が対象ですが、一台数千万円する走査電子顕微鏡を利用する研究者は多く見積もっても数万人しかいません。

このように市場が小さいと、マスメディアは全く割に合いません。そのため、BtoB製造業では、対象を絞れる展示会を中心に「コンテンツを届けて」きました。

それが、デジタルコミュニケーションの登場で突如、同じコストでより広く情報発信ができるようになったのです。

東京や大阪で3日間だけ開かれる展示会に来てもらうしかなかったものが、世界中の潜在顧客に対して、365日情報を届けられるようになったことは、BtoB製造業にとって革命的な変化と言って良いでしょう。

そのためこの20年、BtoBコミュニケーションの議論は、Web制作や検索エンジン対策、メルマガ、ネット広告、データマーケティングなど、「コンテンツを届ける」手法の話題で持ち切りでした。

しかし、いくら「コンテンツを届ける手法」に革命が起きたといっても、そもそもコンテンツが無ければ、届けようがありません。

つまり、「自社の価値を正しく認識」し、「価値をコンテンツ化」できてはじめて、「コンテンツを届ける」新たな手法が意味を持つということ。

1,2の出来を踏まえずに3を議論することは、野球の基礎が出来ていない子供が、一足飛びに大谷投手の二刀流をまねるようなものです。

BtoBコミュニケーションの課題は、「自社の価値のコンテンツ化」にあり

では、BtoB製造業において、肝心のコンテンツは十分そろっているのでしょうか?

あくまでイメージ論ですが、自社の価値を伝えきるのに必要なコンテンツを100とすると、形にできているのは良くて20-30といったところな気がします。

僕は、20年以上BtoBコミュニケーションをお手伝いしてきた中で、こんなことを見てきました。

  • 製品あたりの発信すべき情報は、複雑なBtoBの方がBtoCよりも多いはずだが、そうなっていない

  • Webサイトリニューアルにおけるコンテンツ制作の割合が小さい

  • そもそも、コンテンツ制作には予算がつきにくい

  • 面白い特徴・取組みのコンテンツ化に対してもOKが出にくい

  • BtoB製造業のコンテンツ企画・制作のプロが少ない

もちろん、最終的には何らかの差別化ができていないと受注できませんから、提案資料や口頭説明で価値訴求がなされます。営業段階では、「自社の価値は正しく認識」されていると言えるでしょう。

つまり、日本のBtoB製造業は、「価値をコンテンツ化する」プロセスが弱いために、十分なコンテンツを用意できないのです。

なぜ、BtoB製造業はコンテンツ化に消極的なのか

コンテンツが大事だなんて、BtoCでコミュニケーションに携わる方が聞けば、何を当たり前のことを言っているんだろうと思うことでしょう。

しかし、BtoBには、いくつかの理由で異なる事情があるのです。

1.固定客との長期的な関係
新車は発売の3-4年前から自動車メーカーと部品メーカーとが一体となって、また、化学繊維メーカーはアパレルメーカーの要望に応える形で、製品開発を進めます。

こうした長期の固定客とは、直接対話がコミュニケーションの中心となるので、コンテンツ化は必要ありません。要望に応える対応が主だと、価値を言語化する機会も少なくなります。

2.”個”客対応文化
BtoCは汎用品なのでコンテンツ化しやすいですが、BtoBは”個"客ごとのカスタマイズ比率が高く、一律の説明では済ませにくいところがあります。

そのため、最低限の情報だけカタログの形にコンテンツ化し、後は口頭説明やデモ、個別提案でカバーします。結果、顧客に伝えたいことの総量に対するコンテンツ化の比率は低くなります。

3.顧客サイドの秘匿性向
BtoCでは、誰にも気兼ねすることなく価値訴求を行ないます。顧客がそれを嫌がることはありません。

ですが、優れた生産財の購入が自社の競争力に直結するBtoBの顧客企業は、何を使っているかをオープンにしたがりません。有名なのはアップル。新製品のサプライズ性と競争優位の維持のため、部品や生産設備に関する情報漏洩を非常に嫌います。

BtoB製造業は、そうした顧客企業の要望を感じ取り、広く人の目に触れるコンテンツでの価値訴求には一定の抑制をかけ、具体的な差別化訴求は、直接対話や提案書で行うにとどめる傾向があります。

4.情報量の多さとコンテンツ化の手間
BtoBの製品は高価な分、訴えるべき事も多くなります。150円のコカ・コーラに対して、10万倍の数千万円する走査電子顕微鏡では、顧客が購買判断するのに、同じく10万倍の情報が必要というのが大雑把なイメージ。

自販機の飲み物は秒で判断しますが、数千万円の買い物だったら検討に10万秒=28時間は使うでしょうから、あながち外れてはいないでしょう。

情報量が多ければ、整理し、構造化してコンテンツに落とし込む手間がかかるし、今は製品単体よりもソリューション提案が重視されるので、見せる情報はさらに膨らみます。ならば、BtoCよりも顧客の数が少ないのだし、会って説明した方が早いとなりがちなのです。

5.難解さ
製品が難解であることも、コンテンツ化に立ちはだかる壁でしょう。

コンテンツ制作やコミュニケーション活動は、製品開発とは異なるスキルを要するため、専門部署が担当します。

BtoCの場合、コミュニケーション担当者はいち消費者でもあるので、ユーザーの立場に立ったコンテンツを作りやすい。

しかし、BtoBだとそうはいきません。例えば走査電子顕微鏡のユーザーは、材料や半導体デバイス、医学・生物学などの研究者。コミュニケーション担当者の方々も勉強されているでしょうし、必ずしも専門知識が必須な訳ではありませんが、ユーザー視点に立つハードルが高いことは否めません。

ちなみに、走査電子顕微鏡の開発は、電子・機械工学の技術者が行うので、開発側の思いや技術を理解する別の苦労もあります。

専門性の高さゆえに、開発とユーザーをブリッジできる人材が少ないことが、コンテンツ化のハードルを上げているのです。

6.控えめの二乗
文系は、少しでもできる可能性があればできると言うのに対し、理系はファクトを尊重するので、少しでもできない可能性があればできると言わない傾向があります(気賀調べ)。BtoB製造業も、理系カルチャーで控え目。良いところまで来ていても未完の技術や製品のことは、外に出したがりません。

そもそも、贈り物を「つまらないものですが」と言って渡す日本人は、とても控えめなキャラクター。

両者の二乗でますますパワーアップした控えめ気質が、価値訴求を控えてしまう背景にありそうです。

積極姿勢に転ずべき2つの理由

必要なコンテンツ化は2-3割しか出来ていないと言いましたが、このように、日本のBtoB製造業にはコンテンツ化に消極的となる合理的な理由があるのです。

ただ、日本経済が成長し、固定客が多くいた時代はそれで問題ありませんでしたが、今後は2つの理由から、積極姿勢に転じなければなりません。

理由①:第四次産業革命で従来の企業間関係がリシャッフルされる
例えば、ガソリンエンジン車のEV化で、エレクトロニクスメーカーには自動車メーカーを顧客化する機会が訪れます。反対にサプライヤーの座を奪われる自動車部品メーカーは、自動車以外の取引先を開拓せねばなりません。

第四次産業革命は、これまでの固定的な企業間関係に大きな見直しを迫りますが、新規顧客との関係構築は、自社の価値がコンテンツ化されていなければ始まりません。

理由②:デジタルコミュニケーションを使い倒すには、コンテンツが不可欠
理由①が進行する中、新しい接点づくりが得意なデジタルコミュニケーションは、これからのBtoB製造業に必須となるはずです。顧客接点は、Webサイト、メルマガ、SNS、ネット広告にアプリと急増しました。

ですが、自社の価値の2-3割しか表現できていないコンテンツをばらまくだけでは、もったいない。この新たな機会を活かすには、まだ言語化できていなかったことを伝えるコンテンツを増やさねばなりません。展示会やカタログだけでは伝えられていなかった特徴も、これからは存分に語り尽くすべきではないでしょうか。


今回は、BtoB製造業がなぜコンテンツ化に腰が重いのかを考察してみました。

今後、コンテンツ化に力を入れなければならないことは明白ですが、ただ「やるべきだ」と唱えても、何も変わらないでしょう。なぜなら、BtoB製造業の消極姿勢には一定の合理性があるからです。

ならば、コンテンツ強化に必要となる取り組みを示す前に、今後も変わらぬ消極性の理由と、そうも言ってられなくなる部分を分けておく必要があると思いました。

それが明らかになったところで、いよいよ、BtoB製造業はどんなコンテンツを増やしていくべきなのか、そのために何をすべきか、について、次回以降のnoteで考えていきます。

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