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📖䞉島由玀倫『金閣寺』第䞀章を読む

䞉島由玀倫『金閣寺』を䜕床も読んできた。だのに感想を文字におこそうずするず䜕故かたずたらない。曞きたい話があふれお、どうも順序立おお話せそうにない。だから、この蚘事では章分の感想を蚘すこずにする。

第䞀章のストヌリヌ

第䞀章のストヌリヌはおおよそ぀のパヌトに分けられる。

(1) 䞻人公・溝口に぀いお金閣、そしお、吃音症
(2) 有為子の心䞭
(3) 溝口少幎、京郜ぞ行く
(4) 父芪が死ぬ

最初は、溝口䞻人公が育っおきた舞鶎たいづるの寺の環境や、圌が抱えおいる生き蟛さ、金閣に焊こがれる発端が玹介される。

次に、有為子ういこの心䞭が起きる。有為子ずいう少女が脱走兵ず駆け萜ちするも、憲兵に远われ、心䞭を遂げる。溝口は事件を目撃した。溝口少幎にずっおは鮮烈な䜓隓であり、この話が埌々、圌の心情を揺さぶるこずになる。

その次は溝口少幎の京郜来蚪に぀いお。圌は父に䌎われ金閣寺に赎く。金閣寺の䜏職ず父芪が話し合った末、溝口は金閣での修行を認められる。ひずたず進路は決たったので、二人はたた舞鶎に垰った。

舞鶎に戻った埌に父は容態を悪くする。元々肺も悪く、戊時ずいう状況䞋で、身䜓を匱らせお亡くなっおしたった。この”父の死”の報告ずずもに第䞀章が締めくくられる。そしお、第二章から金閣寺での生掻が始たる。

(1) 䞻人公・溝口に぀いお金閣ず吃音症

本䜜は䞀人称小説である。が、䌚話から䞻人公の姓は溝口ずわかる。出身は舞鶎。床々金閣を称える父の圱響で、溝口も金閣に興味を持぀ようになった。

たた溝口には「吃どもり」がある。䜜䞭にお吃音き぀おんは「吃り」ず蚘される。珟代の芖点からは差別的な衚珟ずなるが、ご容赊いただきたい。この吃音のせいで人間関係に難儀しおきたのは間違いない。実際に、虐められるこずもあった。

しかしそれ以䞊に厄介なこずがあった。「吃り」は本人の思考に倧きな圱響を䞎えた。䜕かを経隓したずきに、感情が埌からやっおくるずいうのだ。衝撃的な䜓隓をしおも、消化しきれず、感情が埌からやっおくる。遅れおやっおきおは、「あのずき、ああすれば  」ずいう埌悔が募っおいく。溝口は人間関係にも、粟神的な郚分にも、生き蟛さを抱える矜目になる。

(2) 有為子の心䞭

有為子は女孊校を出たばかりの矎少女である。溝口は有為子に恋慕を寄せる。圌の䞭で無意識に、有為子は性欲の察象ずなっおいたのだ。だが、そんな有為子は脱走兵ず駆け萜ちする。逃げる先は金剛院こんごういんずいう寺院。二人は憲兵に远い぀められ、逃げ堎をなくす。二人は心䞭する倖なかった。脱走兵は有為子を撃ち、己のこめかみに銃を向けお死んだ。溝口はそんな二人を隠れながら、ただ茫然がうぜんず眺めおいた。

(3) 京郜を蚪ねる溝口

有為子の心䞭の翌幎、溝口は父に䌎われ、぀いに京郜ぞず出向く。溝口を金閣寺の䜏職のもずに連れおいくためである。父ず䜏職の亀枉の末、溝口は金閣寺に匕き取られるこずが決たった。その亀枉の間、圌は実際の金閣を芋孊する。

初めお金閣を芋た溝口の心情を敎理しおおきたい。圌の芋方は少々耇雑だからだ。溝口の思う金閣の䞭に、様々な芳念――しかも互いに矛盟する芳念――が同居しおいるからだ。

(3-1) 金閣の矎は実䜓を持っおおり、か぀芳念でもあった。

溝口は父芪から金閣の話を聞かされおきた。そんな少幎は、父の話ず己の想像力のみを頌っお、絢爛な金閣のむメヌゞを育お続けた。その䞀方で、このようなこずも語っおいる。

山々がその眺望を隔おおいるけれど、芋ようず思えばそこぞ行っお芋るこずもできる䞀぀の物だった。矎は、かくお指にも觊れ、目にもはっきり映る䞀぀の物であった。

぀たり圌の䞭で、矎は金閣ずいう実䜓を持っおいた。

(3-2) 金閣は倉容もするし、䞍倉の金閣も存圚する。

さらに、こんなこずも蚀っおいる。

さたざたな倉容のあいだにも、䞍倉の金閣がちゃんず存圚するこずを、私は知っおいたし、信じおもいた。

(3-3) 金閣の矎は、倧きくもあり、小さくもある。

 金閣は私の手のうちに収たる小さな粟巧な现工物のように思われる時があり、又、倩空ぞどこたでも聳そびえゆく巚倧な怪物的な䌜藍がらんだず思われる時があった。

溝口にずっお、金閣の矎は倧きくもあり、小さくもあった。

(3-4) 矎の基準が金閣ずなっおしたう。

はおは、矎しい人の顔を芋おも、心の䞭で、「金閣のように矎しい」ず圢容するたでになっおいた。

人の顔に限らず、溝口は様々なものの矎に察しお、金閣ず比范しおしたうようになった。しかし、いざ金閣を芋たずきに、溝口は金閣に察しお䜕の感動も芚えなかった。金閣は圌の期埅を裏切った。このずき、溝口はどう思ったのか。

溝口は金閣が矎しくないずいうこずを信じなかった。金閣はその矎しさを珟さないように、醜さの衣を被っおいるのではないかず解釈したのだ。かくしお䞀旊は金閣に察し幻滅を芚えた溝口少幎であったが、舞鶎に戻るず、再び金閣に矎を芋出すようになった。むしろ、以前よりも金閣は矎しいずすら思うようになったのだ。

(4) 父の死

もずもず溝口の父芪は肺を悪くしおおり、身䜓もやせ现っおいた。倪平掋戊争の最䞭、぀いに溝口の父は亡くなっおしたった。

(5) 読曞感想文

ストヌリヌの説明が長匕いたが、ここからは『金閣寺』の感想や疑問を曞いおいきたい。

・ 第䞀章には死の匂いが挂っおいる
・ 有為子ずいう名前

(5-1) 第䞀章には死の匂いが挂っおいる

登堎人物たちが死んでいるずいうのもあるが、それだけではない。现かい描写の䞭にも、死を象城しおいるものが出珟する。具䜓䟋ずしお、角力すもうをしおいる海軍機関孊校の孊生を芋た際の描写を匕甚したい。

 脱ぎ捚おられたそれらのものは、誉ほたれの墓地のような印象を䞎えた。  䞭略  わけおも庇ひさしを挆黒しっこくに反射させおいる制垜や、そのかたわらに掛けられた垯革ず短剣は、  䞭略  、぀たり若い英雄の遺品ずいう颚に芋えたのである。
――『金閣寺』新朮文庫 匕甚者倪字

「墓地」や「遺品」。死を連想させる単語が出おくる。将来は兵士ずなる若き孊生の描写の䞭に。この描写は戊堎での孊生たちの死を予感させる。しかも、これらの単語を修食しおいるのは「誉れの」「若い英雄の」ずいった蚀葉である。぀たりは歊勇の死をも予感させる。第二次䞖界倧戊埌、歊勇も歊士道も朰える。この匕甚はそんなこずを瀺唆しおいるのではないか。

もう䞀぀、有為子ず脱走兵が金剛院に逃げおいくシヌンを䟋に出そう。

埡堂も枡殿も、支える朚組も、颚雚に掗われお、枅らかに癜くお、癜骚のようである。玅葉の盛りには、玅葉の色ず、この癜骚のような建築ずが、矎しい調和を瀺すのだが、  埌略
――『金閣寺』新朮文庫 倪字は氎石

こちらは建築を「癜骚」ず圢容しおいる。癜骚ず玅葉の察比。骚ず血肉ずを䞊べおいるように思われる。玅葉の盛りはさながら血だたりである。こんな堎所で死んでいくのは、有為子ず脱走兵の二人だ。より抜象化すれば、死ぬのは悲恋の䞭の男女だ。あるいは悲恋そのものだ。ここで劇的な色恋は死んでしたうのだ。

第䞀章の最埌で、溝口の父芪も死ぬ。父芪の死ずいうのは「父暩」の死ず読み替えおも良かろう。歊士道が死に、色恋が死に、父暩も死ぬ。こうしお日本は戊埌を迎えたのだ。

(5-2) 有為子ずいう名前

有為子ずいうのも䞍思議な名前である。仏教に由来しおいるのだろう。私は仏教に察しお党く明るくないが、少しばかり考察しおみたい。

そもそも「有為」ずは、「さたざたな因果関係・因瞁のうえに存立する珟象」であるらしい。Wikipediaより。埌で、より正確゜ヌスを匕甚しお、線集しなおしたいず思う。その”有為”もずい、有為子が第䞀章の時点戊䞭で死ぬ。では、有為が死ぬずは、どういうこずか

「有為が死ぬ」ずは、「溝口が金閣の矎を氞久䞍滅だず芋なすようになる」ずいうこずだず解釈しおいる。「因瞁が断ち切られ、金閣の矎を他の珟象ず関連付けられなくなり、盞察化できなくなる」ず換蚀しおもかたわない。そうは蚀っおみたものの、話があたりに抜象的だ。䟋え話をしよう。

䜕か蟛い目に遭ったずき、「あい぀に比べりゃ、ただ恵たれおいる」などず思っお、蟛さをしのいだこずがあるだろう。自分の蟛さを盞察化するこずでストレスを和らげる。しかし溝口はそれができなくなっおしたった。どんなこずがあっおも、金閣寺の矎がチラ぀いおくる。セックスの最䞭ですら。しかも圌はその矎を吊定できない。圌の䞭で「金閣の矎」は絶察的なものずなっおしたった故に。

最埌に話をたずめる。有為子の死は、溝口が金閣寺の矎に支配されおいくずいうこずを瀺す䞀皮のギミックなのだ。

たずめ

『金閣寺』の第䞀章で、様々なものが死んだ。
歊士道が死に、貎族文化的な色恋が死に、父暩が死に、有為が死んだ。

むすびに

憲兵が有為子に脱走兵の居堎所を詰問するシヌンより。圌女の顔に぀いお語られおいる。

 私は今たで、あれほど拒吊にあふれた顔を芋たこずがない。私は自分の顔を、䞖界から拒たれた顔だず思っおいる。しかるに有為子の顔は䞖界を拒んでいた。

では、溝口が金閣寺を燃やすずきに、圌はどんな衚情をしおいたのだろうか。『金閣寺』における倧きな疑問であろう。この小説では䞀人称芖点の語りが採甚されおいるから、たぶん語られおいないはずだ。読み萜ずしおいたら恐瞮である。

▌次回・第二章はこちらから▌


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読曞感想文

平玠よりサポヌトを頂き、ありがずうございたす。