都市生活者の系譜 ―佐野元春私論

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論 あとがき

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論 あとがき

この「都市生活者の系譜 ―佐野元春私論」は、僕が仕事でドイツに住んでいたころに書いた。帰国したのが2002年4月だったが、その直前まで書いていて、第27回『都市生活者の系譜』は本来「今、引越のために佐野の古いアルバムを段ボールに詰めながら、僕はそんなことを考えている」と結ばれていた。 今回noteにアップするにあたって、一応現在の視点から手を入れようと思い、第23回の「地図のない旅」以下を書き直したうえ、第24回から第26回まで3回分を新たに書き足した。これでアルバム「TH

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(28) まごころがつかめるその時まで

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(28) まごころがつかめるその時まで

消された夢の行方 前回でこの論考はひとまず終わっているのだが、最後に『SOMEDAY』という曲について少し話をさせて欲しい。 佐野元春の先鋭的なファンであった十代の頃、僕はこの曲が好きではなかった。それはこの曲があまりに安直に「いい曲」として認知され、「佐野の代表曲」として扱われることへの反発だった。確かに『SOMEDAY』はいい曲かもしれない。だが、佐野の本領は知的でかつクレイジーなロックンロールにこそあるのであり、そうしたスピード感、疾走感を理解できないヤツらが『SOM

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(27) 都市生活者の系譜

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(27) 都市生活者の系譜

都市生活者の系譜 結局、佐野元春が長い時間をかけて築き上げたもの、勝ち取ったものとはいったい何だろう。そして僕がアーティストとしての佐野を追い続けた結果として手にしたものとはいったい何だろう。 端的に言えばそれはビートの解放だったのではないだろうかと僕は思う。あるいはロックンロールの再発見と言い換えてもいい。ロックンロールという名の下に、幅広い音楽的、文化的バックグラウンドの中からコンテンポラリーな問題意識に呼応するものを選び出し、因襲的な共同体によって疎外されていた新しい

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(26) 太陽

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(26) 太陽

ジャムバンドの影響 アルバム「THE SUN」は前作「Stones and Eggs」から5年ぶりのオリジナル・アルバムとなった。2001年から始まり、断続的に2003年まで足かけ3年に亘ったレコーディングでは、アルバムに収録された以外にも多くの曲が録音されたことが窺われるが、その中から厳選された14曲が、新たに設立されたDaisyMusicレーベルからの最初の作品としてリリースされることになった。 アルバムの名義は「佐野元春and The Hobo King Band」

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(25) ヒナギクはせつなげに風の中

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(25) ヒナギクはせつなげに風の中

コピー・コントロールをめぐる問題 この時期、日本の、いや世界の音楽業界を揺るがしていた大きな問題があった。それはCDの違法コピーだ。 それまでもアナログ盤のレコードやCDをカセットテープやミニディスクなどにコピーして(「落とす」と称された)楽しむことは広く行われており、僕たちの世代では友達とテープに落とす目的でCDを貸し借りしたり、レンタルCDを利用することは当たり前だった。 しかしこの時それが大きな問題になったのは、PC(パソコン)の普及によって、CDからPCへのデータの

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(24) 変容する世界

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(24) 変容する世界

光―The Light レコーディングが思うように進まなかった2001年の9月、アメリカで乗っ取られた旅客機がニューヨークのワールド・トレード・センターに衝突するテロが発生した。この事件は、その全容が明らかになるにつれ、世界に大きな衝撃をもたらした。 東西ドイツの再統一やソビエト連邦の解体などに象徴されるように、長く世界を規定してきた二項対立的パラダイムの最上位のレイヤーとしての東西冷戦は終了したが、それは決して平和で安全な世界の到来を約束しなかった。政治思想の違いよりは宗

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(23) 正史と裏面史

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(23) 正史と裏面史

アニバーサリー・イヤー 翌2000年は佐野にとってデビュー20周年のアニバーサリー・イヤーになった。まず1月に2枚組のアルバム「The 20th Anniversary Edition」が発売されている。これはデビュー曲『アンジェリーナ』から最新の『INNOCENT』まで32曲をおさめた集大成的なベスト・アルバムであり、初期の曲を中心に、例えば『アンジェリーナ』や『SOMEDAY』、『Rock & Roll Night』といった、ある意味でアンタッチャブルなスタンダードにも

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(22) 時代と切り結ぶ意志

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(22) 時代と切り結ぶ意志

時代と切り結ぶ意志 引き続きアルバム「Stones and Eggs」について考えてみよう。 このアルバムが、トータルにバランスの取れた会心の名作か、佐野自身の内発的な動機だけに基づいて、100%のアーティスト・エゴを出しきって制作されているかと問われれば僕は首を傾げざるを得ない。ここにはあまりに生硬で完成を急がれた言葉と、何かに対する配慮、あるいは何かの制約の下で制作したかのような不自由さが色濃く感じ取れる。 優れた表現者は時代と切り結ぶべき宿命を負っている。何が今、最

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(21) ホットスポット

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(21) ホットスポット

ありがとう 1999年3月、赤坂ブリッツでひとつのライブが行われた。「driving for 21st, monkey」と名づけられたそのショーは、佐野元春がファンクラブのメンバーのために行ったプレミアム・ライブだった。 僕はアーティストのファンクラブというものが一般的にどんな活動をするものなのか寡聞にして知らないが、佐野元春のファンクラブは参加者に何か特別で具体的なメリットを与えるものではなかった。それは会報を発行して佐野の支持者にある種のフォーラムを提供してきたし、ある

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都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(20) ロックンロールの成熟

都市生活者の系譜 ―佐野元春私論(20) ロックンロールの成熟

奇妙な相似 1997年にリリースされたアルバム「THE BARN」は、アメリカン・ルーツの強い影響を受けたアーシーなサウンド・プロダクションと、表現者としての佐野元春の認識の深まりを感じさせる落ち着いたトーンの曲作り、そしてプレイヤビリティの高いホーボー・キング・バンドの演奏で、それ自体非常に完成度の高い名作となった。 しかし、一方でこの作品はウッドストック・レコーディングという特殊要因に動かされた一回性の強い作品で、特にサウンド的には前後の作品との脈絡からかなり突出してお

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