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シン映画日記『小さな麦の花』

YEBISU GARDEN CINEMAで中国映画『小さな麦の花』を見てきた。

監督は『僕たちの家(うち)に帰ろう』のリー・ルイジュン監督で、本作も脚本、美術、編集を兼務している。中国版の『怒りの葡萄』に『ニーチェの馬』と『裸の島』を掛け合わせたような素朴な農夫婦の生活に、
地域(国?)の政策から住処を移動させられたり、村の有力者に献血協力をしたり、
時代と国・地域の政策、周りに住む住人たちや親族にまで己の人生を翻弄されながら、
身体が良くない妻とともにささやかな幸せを見つけていく。

主人公のヨウティエはすぐ上の兄貴(三男)の夫婦の家に居候しながら農夫として暮らすも家族にとっては厄介者。そこで、同じくご近所で家族内で厄介者扱いをされている障害持ちの女性クイインと半ば強引に結婚し、近くの空き家になった住処に引っ越すが、農村改革の関係で元の住人が住処を売り払いたいためにヨウティエ夫妻は追い出され、近くの農場に自らの家を建てることに。

これとほぼ同時期に村の有力者チャン氏の献血協力の話があり、たまたま血液型が同じだったヨウティエが半ば強引にこれを受け給わうことに。

この主人公ヨウティエという男は寡黙なアラフィフぐらいのおじさんで、農作業や牧畜は黙々とこなすが寡黙すぎる性格が故に周りの人と打ち解けず、また街に遊びに行くとか、物欲・色欲がほぼないため、独身でいた。
大人しく、だいたいの頼まれごとは了承してしまうから、結婚とか度重なる住居変更まで受け、とにかく翻弄されまくる。
強引に結婚した相手のクイインも大人しい性格で、
ブスではないが美人とも言い難い地味な女性で、
若干の知能障害(発達障害?)と
成人であるにも関わらず直ぐに小の粗相をする障害があるため、結婚出来ずに家族の厄介者になっていて、ヨウティエは己の意思がハッキリしないまま家族から結婚を強要され、これを受けてしまう。

しかしながら、一緒に生活するうちにヨウティエとクイインがそれなりの夫婦になり、ささやかながらの幸せを掴みかける流れは見ていて微笑ましく、美しい。
それでいてヨウティエがクイインに対して異性としての欲を出すかというとそうではなく、ただ一緒に生活するだけだが幸せ、という俗世間の域を遥かに超えた幸福を見せてくれる。

だが、世の中はそうは行かず、
基本的にはお金が必要だから、
本作ではやたらとお金にまつわる話が常につきまとう。そのために一度ならず複数回住居の引っ越しをせざるを得ないヨウティエ夫妻。

そんな中で後半にこの夫妻に好条件の住居転入の話が舞い込む。が、ヨウティエはある尤もな理由で拒む。
普通の人ならこの話を飲んだ方が幸せなはずだが、
ヨウティエ夫妻にとっては不都合が生じる話になっている。
度々出てくる車とロバのエピソードもこの不都合さと近いものがある。
誰しもいい家&いい車が幸福、というわけではない。
傍から見ればみすぼらしい家、貧しい生活、一見役立たずそうなロバでも、
アングルを変えて生活のテンポがあえば、そこには幸福がある。
そうした価値観・生活感は『ニーチェの馬』の夫婦や『裸の島』の夫婦にも近く通じるものがある。

中国映画としてはチャン・イーモウ監督の『初恋のきた道』や『妻への家路』、リー・チーシアン監督の『1978年、冬』ハスチョロー監督の『胡同(フートン)の理髪師』などの中国の夫婦や家族と時代をテーマとしたヒューマンドラマに通じるかな。

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