美容業界が抱える「負」とは?technersが取り組む業界革新のチャレンジ
technersは現在、美容サロン向けの店舗管理SaaS「KaruteKun」を提供していますが、technersが目指しているのは、単なる「業務効率化ツールの開発」の範囲に留まりません。
自分たちが美容業界を変革する唯一無二の存在であるという自負のもと、難易度の高い事業に挑戦し続けています。
今回はそんなtechnersが美容業界に取り組む理由や事業展開の難しさ、描きたい世界観などについて、代表のじゃっきーさんとエンジニアの溝口さん、高梨さん、そしてtechnersの事業に協力されている美容師の橘内さんも交えてお話を伺いました。
※こちらの内容はポテンシャライト社にインタビューを実施頂き作成いたしました。ポテンシャライトの皆様、制作ありがとうございます…!!!
現場を訪れて知った、美容業界に根付いていた大きな「負」
―そもそもじゃっきーさんはなぜ、美容業界を支援したいと思うようになったのでしょうか。
じゃっきー:きっかけは、橘内さんが働く美容室を訪れたことです。端的に言うと、「すごく良いサービスを提供しているのに、どうしていろんな面でこんなにも大変なんだろう」という疑問が湧きました。
業務ではペーパーワークが多く、給与水準も決して高くはない。人手も不足している。良質なサービスを提供できる業界なら、もっと働く人が報われるべきだという思いを、橘内さんと出会ってから7年ほど温めていました。
―具体的にはどのような実態があったのでしょうか?
じゃっきー:美容室は、1人の利用者が繰り返し同じお店に訪れる性質があります。だからこそ、前回利用時の内容を引き継いで、店舗全体で利用者に向き合うことが大きな価値提供になります。
しかし、その内容を全て紙で記録しているため、管理コストが跳ね上がりすぎてしまっていました。上手く価値提供ができなくなった結果、店舗は例えば「初回半額」のクーポンを発行して、新規顧客を獲得しようとします。
毎回「はじめまして」の利用者ばかりでなおかつ施術時間も短い状態では、満足度はさほど高まりません。結局美容師とお客様が長く関係を築けないケースが増えてしまい、悪循環になります。
橘内:利用者も本当は、同じ美容室に長く通えたほうが安心できますよね。毎回不安を抱きながら初回の美容室に訪れて、実際に施術してもらわないと良し悪しを判断できないというのは、良くない状態です。
―他にも、橘内さんが美容業界に対して課題だと感じていたことはありますか?
橘内:もともと美容が好きで美容師になったはずの人が、いつの間にか稼ぐことを目的にしてしまうケースが多い点です。結果として技術の向上もなければ「お客様を雑に扱ってでも、短時間で施術をすればいい」という考えになってしまいますし、それでは長くは働けません。
お客様も初めはその美容サロンを信じて来店されると思いますが、思い描いた施術ではなかったことで次は別のサロンにしようとなってしまい、その結果お客様と長い関係は作れなくなってしまいます。
私自身も一時期低価格でスピーディに施術を行う美容室で働いていましたが、利用者の要望を叶えられている実感はありませんでした。
―他にも美容業界を支援したいと興味を持つようになった理由はありますか。
じゃっきー:世の中にインターネットが2000年頃から入ってきているのに、なぜ美容業界はインターネットによって変わらないのかについては非常に興味がありました。ただ、実際に美容業界に参入してみて分かったことですが、インターネットを活用してもあまり儲からず、事業として素直に難しい領域だなと感じました。
その一因として美容室自体にお金の余裕がそこまでないので、業務効率化等のソフトウェアに投資がされづらいといったものがあります。
KaruteKunもSaaSとして業務効率化を支援していますが、それはほんの一面でしかありません。目指すところは「どうやって美容室が幸せになるか」です。
幸せというのは、美容室の経営者と現場で働いている美容師、そしてお客様全員の満足度が高いことだと考えています。
美容室の経営者にとってはやりがいがあり、現場のスタッフにも感謝され、十分に収益性があることが高い満足度につながりますし、従業員にとってはお客様に感謝され、良い雇用環境で美容師を満喫しながら日々仕事ができることが高い満足度につながると思います。
それらを実現するためには美容室の収益性を高くしていく必要があります。また、不必要なコストは削らないといけないし、さらに美容師とお客様の長期間の関係構築をどのように支援するか。ここまで踏み込んだ支援をKaruteKunでは実現していきたいと考えています。
そういう意味で、”経営者”に対しては、経営管理として合理的な意思決定を促し、売り上げが上がるまでの具体的な戦略とアクションプランを提示したいです。また”美容師”に対しては、現場のオペレーションを邪魔しない無意識レベルで操作ができ、かつお客様に対して必要なアクションを提示することで、お客様と長い関係を作るための基盤にしてほしい。
さらには”お客様”自身も良い美容室を選ぶきっかけのツールとしても発展して、将来的には「美容師も経営者もお客様も全員が幸せになる」という世界観を実現したいと思っています。
―美容業界では様々な理由でインターネットによる変化が未だに起こっていないのですね。
じゃっきー:せっかくなので余談で話をすると、インターネットが人々の生活様式を変える原体験を東南アジアに2度赴いた時に経験したことがあるんです。
2013年に初めてバンコクに行ったときに、とても嫌な思いをしたんです。それは観光地への行き来にタクシーを利用した時の話です。
行きは良かったのですが帰りはタクシーがなく、乗車時に料金についてタクシードライバーと揉めたんですね。時間がなかったので乗るしかなかったんですが、結局行きの4倍ほどの値段を吹っかけられ…一言でいって最悪でした。
ただその4年後に前職の関係でバンコク行ったときにはそれが様変わりしていて。UberとGrabが登場したことにより、タクシードライバーが乗客のレビューを気にするようになっていたんです。
要は、ソフトウェアを通じて良質なプラットフォームが形成されたことで、ドライバーは以前のような悪質なことをするとアプリ内でマッチングしなくなります。その結果、サービスレベルが劇的に向上していました。
サービス水準が上がった結果、乗客は幸せになりますし、ドライバーは価格が上がったことで収入が増え、UberやGrabは収益を上げることに繋がるという「全員が得をし幸せになる」ところを目の当たりにしました。
良いソフトウェアの登場が三方良しの状態を作り出す――。美容業界でもこれを実現していきたいと強く願っています。
業界をDXしようとする企業の前に立ちはだかる事業展開の難易度
―technersはそんな美容業界のDXを推進しようとしていますが、どんな難しさがあるのでしょうか。
じゃっきー:難しさを感じる理由はいくつかあります。そもそも、プロダクトの開発難易度が非常に高いです。シンプルな1機能のプロダクトではなく、顧客管理・売上管理・予約管理・経営のダッシュボード等、現場で利用され価値を生み出すには比較的大きなサービスになってしまいます。
そしてプロダクトの複雑度が高いと、優秀なエンジニア、優秀なデザイナー、優秀なプロダクトマネージャー等が必要ですが、その結果組織が肥大化してしまい、持続的な開発を行おうとしたときの資金回収がそもそもできなくなることが往々にしてあります。
また、美容室は経営母体が非常に細分化されているため、営業効率が悪く資金回収が難しい。さらに言えば、美容室自体にも潤沢な資金があるわけでもないため、結果的に持続的な開発が難しくなってしまいます。
このような要素が重なり、そもそも事業立ち上げの段階で頓挫してしまってきたために美容業界に変革が起こらなかったと整理しました。
このような難しさのある中でも、ソフトウェアの力を最大限活用して、美容業界の課題を真正面から解決していきたいと思っています。
「自分たちがやるべき唯一無二の開発」こそがtechnersでのやりがい
―溝口さんと高梨さんは、もともと美容業界に興味があったのでしょうか?
溝口:私は一消費者以上の興味はありませんでした。入社の後押しになったのは、「美容業界だったから」というよりも、じゃっきーと一緒に新しい挑戦をしてみたい、という思いです。
高梨:私は単純に、おしゃれに興味がありました。高校生の頃はいわゆる「カリスマ美容師ブーム」が沸き起こっていて、原宿の有名な美容師に憧れを抱いていたほどです。technersへのジョインを考えたのも、自分が美容業界に関心があったことを思い出したのがきっかけでした。
実際に美容業界のペインに目を向けてみると、じゃっきーさんの言う通り非常にアナログな業界ですし、業者間のしがらみも強く、大きな課題を感じました。
―エンジニアとして美容業界のプロダクト開発に携わる面白さややりがいは、どんなところにあるのでしょうか?
じゃっきー:1つ例をあげてみると、美容師の方にとってのプロダクトの「使いやすさ」が、決してデザイン的なかっこよさには直結していません。
iOSでもAndroidでもアプリのデザインガイドラインは存在していますし、「一般的なアプリの挙動」というものもある程度決まっています。
ただ、それが美容師の方が現場で使いやすいかどうかは別の話で、ベストプラクティスは理解した上でそれが現場では通用しないこともあるんです。
例えば検索ボタン一つ取っても、虫眼鏡のアイコンで表示したほうがスタイリッシュではあるのですが、実際には「検索」と文字で示したほうが初見での利用率が高かったです。
そういう細部のこだわりは、本当に現場のことをよく考えて、オペレーションをよく見て、そこで初めて判断できるんですよね。
このように「美容室の現場」に合わせてプロダクト開発をする難しさはありますが、本当に現場を変えるために必要な要素を考える「広がり」がある点は、面白さだとも捉えられるでしょう。
高梨:僕らがやりたいことはかっこ良いアプリを作ることではなく、美容室という現場を変えることなんです。
そのためには現場を変えるために何が必要なのかということを、デザイナーやプロダクトマネージャーに任せば良いということではなく、しっかりエンジニア1人1人が考え、細部までこだわりを持って開発していかなければなりません。
今開発しているプロダクトも、機能においても完璧に揃っているとは言えません。やりたいこと、やれることが尽きない意味でも、エンジニアとしてのやりがいを感じます。
じゃっきー:高梨さんも言うようにプロダクトの機能としても、プロダクトの範囲にとどまらないこととしても、僕らが思い描いているやりたいことはまだまだある状態ですし、同時にそれらに取り組めていない状態でもあるんです。
それらに取り組み、その結果実現できている姿を皆さんに今後お見せしたいと思っていますし、一緒にその実現に向けて伴走してくれる仲間がいれば良いなとも思っています。
―「難易度が高い開発」は他の領域でもできると思います。あえて美容業界に携わる魅力はなんですか?
じゃっきー:「自分たちが開発をする理由」が明確にある点が魅力です。プロダクトの開発難易度、ひいては事業としての難易度が非常に高いという業界自体が大きな問題を抱えている中で、その状況を本当に解決しようとしてる人たちが、僕らの見る限り見当たらないんです。
裏を返せば自分たちがやればやるだけ変革の可能性を秘めているので、その点強い充実感ややりがいを感じることができます。
実際に美容師の方々にお話を聞くと、「technersのような存在を待っていた」と言われることが少なくありません。これまでもいろいろな人たちが美容業界のDXに挑戦してきましたが、結局は途中で頓挫していなくなってしまっていたからです。
technersになら、自分たちの大事な顧客データを任せられる――。良い意味で頑固に自分たちの信念をしっかりと持っていてくれているから信じている、そのような声をいただくことが多いです。
だからこそ、自分たちがやっているのは業界に貢献する唯一無二の開発なのだと胸を張れますし、ファーストペンギンとして自分たちがやる意義を見いだせます。これ以上にやりがいを感じることはないですね。
溝口:ストレートに業界に貢献するような事業を展開するのが難しいからこそ、これまでの美容業界はIT企業やベンダーに恵まれていなかったと感じています。
エンジニアがエンジニアリングの力で価値を提供し、美容師の方に喜んでもらえるような開発をし、結果として業界を良くしていく――。そんなストレートなやり方が、まだまだ難しくてなされていない業界だからこそ、自分たちがここに真正面から挑戦し、自分たちの存在意義を証明できるのは、充実感もありますし大きなやりがいなのではないでしょうか。
じゃっきー:”事業機会として儲かるから”といった理由ではなく、自分の技術力を本当の意味で社会に還元できるということにやりがいを持って、それを本当に良くしたいと思って取り組んでいる、そんな青臭い人たちが集まっている開発組織は、非常に珍しいのではないかと思っています。
プロダクトの完成度を高め、現場のお困り事を足元から解決していく
―今後、プロダクト開発で実現していきたいことや展望について教えてください。
じゃっきー:やりたいことは本当にたくさんあります。「日々きちんと顧客管理をして、適切に予約をしてもらう」というベーシックな業務ですらまだまだITの手を入れられていない世界なので、足元から確実に喜んでいただけるようなプロダクト開発をどんどん進めていきたいです。
逆に言えば、明らかに現場が困っていて、それを技術の力で解決できることはわかっているのに、まだまだ確かな形にできていないのがもどかしいくらいですね。
高梨:プロダクトの完成度は僕たちの思い描いているものから、まだ遠く離れているのが現状だと感じています。
―最後に、お伝えしたいことがあればお願いします。
じゃっきー:「美容師も経営者もお客様も全員が幸せになるという世界観」のお話をしましたが、その根底にあるのは”ビジネスだから、稼ぐためには仕方がない”ではなく、たとえ挑戦することの難易度が高かったとしても、倫理観や誠実さを大切にしながら、妥協せず諦めずに前に進んでいきたいという気持ちがあります。
もっと安直な解決策はたくさんある中でもそれらを選択せず、より良くするためには本当はこうした方が良いのではないか――綺麗事を表では言ってるように見えるかもしれませんが、一方で裏では何回も弱音を吐いています。
無理かもしれないと弱音を吐きながらも、それでも前に進んでいくためにはどうすれば良いか、青臭いかもしれませんが、そんな議論をしながらこれまでやってきましたし、これからもそういうスタンスでやっていきたいです。
同時に、それでは実際問題事業が立ち行かないという話も当然あると思います。それと実現したい世界観との矛盾も、これから何か良い解決策を見つけるために頑張っていきたいです。
これまで、矛盾しているようで実は矛盾してなかったということを過去何度も経験してきました。
例えば、美容業界だと上手くいかないと思われたSaaSプロダクトも外部資金に頼らず、KaruteKunを事業として成立させることができました。理想を掲げて、チームで一歩ずつ前に進んできたことで、矛盾と思われることを解決することができたのは大きな財産です。
弱音を吐きながらも青臭い、泥臭いからこそ楽んでいける、そんなメンバーと一緒に今後も頑張っていきたいです。
いかがでしたでしょうか?この内容も未来の仲間になるかもしれないあなたに、どこか響くところがあればとても嬉しいです…!もう少し掘り下げた話を聞いてみたいな…と感じられた方は、ご遠慮なくじゃっきーのtwitterまでDMください!大歓迎です!
インタビュー記事は全部で3本ありますので、続きをお待ちください…!
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