「生産性」を上げる生成AIの力
column vol.1163
今週、KDDIが、国産の生成AIを開発する東京大学発のスタートアップ企業「イライザ」の株式を取得し、子会社化すると発表。
〈NHK NEWS WEB / 2024年3月18日〉
イライザは、アメリカのメタが公開した大規模言語モデル「Llama2」をベースに、経済産業省が所管する産業技術総合研究所の支援を受けて生成AIを開発。
先週、国内最大規模の国産の生成AIを完成させたと発表していました。
そうした流れの中で、KDDIは、自社の通信ネットワークなどと組み合わせ、企業や自治体向けの事業に新たに参入することを決めたのです。
通信会社ではこれまでにも、NTTが、今月から生成AIの企業向けのサービスを開始。
ソフトバンクも、大規模な生成AIを2024年度に完成させる方針を示しています。
通信大手3社がこぞって生成AIに取り組み、企業・自治体へのサポートにつなげる。
そうした構図が鮮明になってきた今日この頃ですが、今後人口減少が急速に進む日本では、ますます生産性の向上(省人化)が求められるでしょう。
そこで、本日は【「生産性」を上げる生成AIの力】と題して、そのヒントに迫りたいと思います。
製造産業の追加利益予測:105億ドル
日本の代表的な産業の1つが製造業ですが、アメリカのニューヨークに本社をおくABI Researchによると、製造産業では生成AI投資によってもたらされる追加収益は2026~29年にかけて44億ドル増加。
また2032年には105億ドルに達する見込みとなっています。
製造産業では主に、
の4分野で生成AI活用が広がると予想。
このうち、まずはデザイン分野での生成AI活用が増える可能性があるとのこと。
一方、プロダクションとオペレーションは、その複雑さから、生成AIのさらなる成熟化が必須となり、導入まで多くの時間がかかると分析しています。
デザイン分野でのユースケースとしては、
の最適化などが挙げられます。
生成AIを活用することで、例えば、与えられた仕様や制約条件のもとで、新しい製品デザインや部品の配置案を自動的に生成したり、MBOMやEBOMを顧客特有の要求に基づいてカスタマイズすることが可能に。
これにより、生産性の向上が期待できるというわけです。
他にも
などにより、生産性の改善が見込まれています。
生産性向上に向けたドイツの事例
生成AIに関して先行した動きを見せているのが、ドイツの製造会社・ボッシュです。
同社では昨年12月、生成AIを活用して既存のAIアプリケーション開発を加速する計画を発表。
通常半年から1年要するAIアプリケーション開発を数週間に短縮することを目指しています。
生成AI活用による生産性向上の成果も見えており、ドイツ・ヒルデスハイムの工場では、機械学習ベースのデータ分析アプリケーションが導入され、これにより新しい生産ラインの立ち上げ時におけるサイクルタイムを15%削減することに成功。
また、シュトゥットガルト・フォイエルバッハ工場では、コンポーネントのテスト工程に要する時間を3分半から3分に短縮したそうです。
ボッシュが発表した生成AIのユースケースの1つが、生成AIによって人工的な画像をつくり出し、これらを既存の機械学習モデルに読み込ませるというもの。
これまでは実際の画像データを使わないといけなかったものが、人工的な画像で代替することで、データ収集やクリーニングに要する時間を大幅に短縮することができるようになりました。
そして工場だけではなく、カスタマーサービス分野でも生成AIの活用を始めています。
ブラジルを拠点とするボッシュ・ブラジルは、オラクルとの提携で、生成AIベースのカスタマーサービスエージェント「Beto」の運用を開始。
ちなみにBetoとは、同社が扱う製品に関して、顧客の質問に答えることができるチャットボット。
ポルトガル語でのやり取りが可能で、WhatsApp、フェイスブック・メッセンジャー、ボッシュウェブサイトで利用できます。
オラクルによると、Beto導入後、ユーザーからの電話回数は40%増加。
1ヵ月あたり平均3000件の質問があり、これまでの会話回数は20万回を超えたとのこと。
Betoは、人間のオペレーターに引き継ぐこともできますが、50%のケースでオペレーターに引き継ぐことなく、自ら問題を解決できたそうです。
このように生成AIによる成果は、日本の製造業においてもヒントになるでしょう。
日本の鉄道会社も生成AIの活用に挑戦
日本の企業でも、独自の生成AIを開発し、活用していく兆しが見えています。
製造業ではないですが、JR東日本が最近ニュースになりました。
鉄道版の生成AIの開発に着手しています。
〈ニュースイッチ / 2024年3月13日〉
まず生成AIの誤回答を防ぐ「RAG(検索拡張生成)」技術を活用し、鉄道の専門知識に対応したシステムを開発。
2024年度中に試験利用を始める予定です。
ちなみに、RAGは外部ソースの情報を用いてAIの精度と信頼性を高める技術で、最新の情報や企業独自の情報に基づく回答ができる技術として注目されています。
今後は、鉄道設備の設計図や工事計画の生成などを視野に入れ、新たなAIの開発を検討しているとのこと。
同社が行いたいことは、以下の通りです。
もともと同社では、23年に企画や総務部門などの業務を効率化するため、オープンAIのchatGPTの利用を始めたのですが、…やはり、鉄道の業界用語や規定などを知らないため、なかなか期待通りに活用できませんでした。
そこで、RAG技術で社内文書を読み込み、専門知識を補おうとしているのです。
鉄道業界の人手不足は地方ほど深刻…
JR東日本としては、
と、最大手として業界の技術革新をリードしていく熱き気概を持っております。
他の鉄道各社と手を結びながら、どう鉄道業界にイノベーションをもたらしていくか、注目が集まるところでしょう。
鉄道だけではなく、他の業種でも業界内、そして業界を超えて生成AIの活用を模索しながら、社会課題に打ち勝つ生産性の向上が図れると良いですね。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました😊
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