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“地域” と共に生きる小売業
column vol.875
昨日は【小売から生まれるSDGsの波】と題し、持続可能な社会の実現について事例をご紹介いたしましたが
本日は地域とより深く繋がり、まちの経済の発展に貢献している取り組みについてお話ししたいと思います。
このコロナ禍を経て「ローカル消費」にスポットライトが当たるようになりました。
アパレル業界にも、地域のニッチなカルチャーを発掘したり、店舗に地元のアーティストを呼んでライブをしたり、行政とのまちづくりに参画したり。
成功事例に共通するのは「商品をつくって、売って、儲ける」という従来の思考からは離れていることです。
その代表的な企業が「無印良品」を展開する良品計画でしょう。
住民と生産者をつなぐ店づくり
北海道・函館の本町エリアにある商業施設「シエスタハコダテ」に入居する「無印良品 シエスタハコダテ」では、店舗がハブになり、住民と生産者を繋ぐ店づくりを行っています。
〈WWD JAPAN / 2022年12月22日〉
地下1階食品フロアは、野菜ソムリエが目利きした地元野菜や地元の惣菜屋の食品、老舗ベーカリーなどと協業し、商品を取り揃えています。
また、店舗3階のコミュニティースペースでは、木工職人や革職人などを講師に招いたワークショップを不定期で開催。
ワークショップをきっかけにプライベートで交流するお客さまもいらっしゃるようで、コミュニティー創出のきっかけになっているそうです。
そして、函館には商店の少ない地域もあるので、昨年の春から移動販売サービス “MUJI to GO” を開始。
片道2時間ほどにある町役場や大学のキャンパスなどに出店しています。
この取り組みの立役者となっているコミュニティマネージャーの加瀬紋子さんは
今後は、近隣の商業施設や地域住民との連携を強化して、町全体の経済を発展させる施策を提案したい
と、その熱い想いを語っていらっしゃいます。
無印良品は、先日【小売業は「パブリック」に進化する】で「団地リノベーションプロジェクト」について触れさせていただきましたが、商業を絡めながら地域の発展に大きく寄与されています。
今後ますます注目したい企業の1つではないでしょうか。
日本各地の名産に見出す可能性
続いてお話ししたいのが、ビームスです。
1998年に「ビームス ジャパン」を立ち上げ、日本製のアパレルの他、工芸品や食材、土産物といった特産品を、ブランドセレクトで培った目利きを生かして発信。
さらに近年は、全国150店の「ビームス」業態でも、地域に根付いた店づくりを少しずつスタートしています。
その代表例が広島店です。
同店は広島市の中心地に20年以上店舗を構え、スタッフもほとんどが広島出身の方々とのこと。
お客さまの中には、地元の農家や経営者、クリエイターも多いそうです。
江口裕ショップマネージャーは、地元顧客との親交を深めるうちに
飲食やモノづくりなど、地域にも面白い人がたくさんいるのに、発信場所が少なくポテンシャルを生かせていないこと
に課題を感じていたそうです。
そこで、「店舗を発信の場として活用できないか」という思いでスタートしたのが “ヒロシマ ウラ マルシェ” 。
ビームス 広島の店舗裏の空きスペースを地域事業者の出店スペースとして活用する取り組みです。
広島市内のコーヒースタンドやベーカリー、野菜農家といった企業とタッグを組み、これまでに30回以上開催。
今では毎週末にイベントを開き、5000円という手頃な出店料も相まって数ヵ月先まで出店枠が埋まっているそうです。
さらに今年は、クラウドファンディングのマクアケと協業して、日本各地の地場産業を生かしたオリジナル商品を企画・販売する “地域共創プログラム” を始動。
10月にはその第1弾として、中国地方の16の企業と協業し、バラエティーに富んだアイテムをリリースしています。
こういった取り組みが他の地域のビームス店舗にどのように影響を及ぼしていくのか。
今後の展開にも期待していきたいと思います!
職人と消費者をつなぐプラットフォーム
最近のトピックで言えば、12月9日、東京・南青山にオープンしたばかりの「MIZEN(ミゼン)」を共有しておきたいです。
〈WWD JAPAN / 2022年12月14日〉
こちらの店舗では、1階にカフェとプロモーションスペース、2階に牛首紬や大島紬といった日本の伝統工芸品を用いたテーラードジャケットやケープ、スカートなどを揃えたショップを擁しています。
パリの展示会プルミエールヴィジョンで紬に出会い、その美しさに衝撃を受けたというMIZEN代表取締役・クリエイティブ・ディレクターの寺西俊輔さん。
2018年に帰国した後、反物をテキスタイルとして使用した “装い” を提案する「ARLNATA(アルルナータ)」を創設。
そして、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」の創業者、須永珠代AINUSホールディングス代表と出会い、今年4月に共同でMIZENを立ち上げたのです。
寺西さんは
産地の職人技の存続を目標にしている。着物ではなく、洋服にすることでより多くの人に価値を伝えられる。MIZENでは服に限らず、もっと幅広くライフスタイル全般のコラボレーションを生み出したい
と、その胸中を語っていらっしゃいます。
そこで、日本全国の伝統工芸職人による製品を企画し、販売するだけではなく、定期的にコラボレーションイベントを立案して、繋がるきっかけや協業アイテムをつくり、職人たちが主役となるラグジュアリーブランド構築を目指しています。
さらに、「ふるさとチョイス」とのパイプを活かし、ふるさと納税への返礼品としても積極的に出品。
寺西さんは「日本の職人を引き上げるためのプラットフォームになりたい」と語っていらっしゃいますが、日本の伝統技術を次世代に繋げていく取り組みは、今後の小売業全体の好事例となっていくでしょう。
地域を元気にし、日本全体を元気にする
職人の技術を守ると言えば、やはり触れておきたい方が中川政七商店会長の中川政七さんです。
〈Premium Japan / 2022年4月25日〉
小売業関係者のみならず、…今更ながらだとは思いますが……
「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、器や衣料品、インテリアや食品に至るまで、日本の工芸技術をベースにした生活雑貨を製造・販売。
コンサルティングにも力を注ぎ、長崎県で波佐見焼を生産する有限会社マルヒロの商品をプロデュースし、中川政七商店でも人気のブランドに成長させたことは有名な話。
ここから「年商1億円以下の赤字企業の再生をする企業」として再生案件が続々と来るようになりました。
さらに、確かなモノづくりを行う企業の販路を開拓するために日本各地のメーカーが集結する合同展示会『大日本市』を実施。
数々の実績を残し、2018年に社長職を後進に譲ってからは、本格的にまちづくりに力を注ぎます。
それも単なる街の活性化ではなく、工芸産地が生き残ることを優先。
共倒れの要素の強い分業制から脱却し、モノづくりの工程を一ヵ所に集約した方が良い
と考え、モノづくりの現場を観光資源にする “産業観光” を設計。
一方で生産者の拠点は山の中など、必ずしもアクセスの良い場所にあるわけではないので、人に来てもらうための美味しいレストランや魅力的な宿を同時に築き上げているのです。
モノづくりとともに、人が来たいと思う要素をつくる。それが結果的にまちづくりや地方創生という事業になってきたんです。
と確かな手応えを感じながら、2017年に立ち上げた日本工芸産地協会を軸にしながら、日本各地の工芸産地の企業が自ら産地の未来を描けるように活動をサポートし続けています。
中川さんは、他にも学生と共に地方創生を繋ぐセレクトショップ「アナザー・ジャパン」を仕掛けるなど、未来を担う人財を育成しながら、地域を元気にしようとしています。
今回の各社それぞれの事例を通じて、これまで地域経済の中で拮抗しがちだった “強い小売店” の存在が、より共存共栄を図る存在へと少しずつ移行している様子を感じていただけたのではないでしょうか。
地域の経済を元気にして、日本全体の経済を元気にする。
小売業が媒介となって、地域の食・工芸の価値を伝え、さらに顧客のニーズに適したマッチングを行っていく。
よりヒトとモノの架け橋としての小売業という側面をどれほど強化できるかが業界としての存在意義を示せることにも繋がっていくでしょう。
本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
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