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「曖昧さ」という強み

column vol.1070

今朝は遅ればせながら、宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』を観て参りました。

こちらは公開まで映画の内容に関する情報を明らかにしない異例の作品ということでも話題になっております。

〈NHK NEWS WEB / 2023年7月14日〉

情報非公開の部分も含めて、作品についてはさまざまなご意見があるでしょうが、今回はこの「曖昧さ」ということをテーマにしてみたいと思います。

ただ!

これから出す事例は、『君たちはどう生きるか』の内容とは全くリンクしておりませんので、そこは前置きさせていただきます🙇

単に「曖昧さ」が強みになっている事例として、この後の話をぜひお楽しみくださいませ。


「代替肉」とは言わないサステナブルミート

まずは私が専門とする小売業の話題から。

セブンイレブンのホットスナックコーナーで販売していた「チキンナゲット 5個入り」について

代替肉を使用した「みらいデリ ナゲット(5個入り)」に切り替えたことが、ちょっとした話題になっております。

〈Business Journal / 2023年7月18日〉

このナゲット、「代替肉を使用した」と書きましたが、同社は「代替肉」とは謳っておりません

表記としては「プラントベースプロテイン配合」という “曖昧” な表現にしているのです。

それもそのはず、えんどう豆ベースの代替肉を使っているものの、実は鶏肉も入っているからです。

つまり、代替肉100%じゃないということです。

…では、なぜ100%ではないのか?

その理由の1つがマーケットの狭さです。

やはり、今はまだ代替肉が世の中的に主流であるとは言えない中、売れ筋商品で売り場を構成するというコンビニの特性を考えると、100%に振り切ることはなかなかできません

その中で、「地球への配慮」「幅広い層から受け入れられること」を両立した最適解をこの商品に込めたというわけです。

特にセブンイレブンは「美味しさ」へのこだわりも相当強いので、「本物のお肉にも負けないくらい美味しく満足度が高いもの」ができてから、100%に振り切るつもりでいるのでしょう。

SDGsを考えながらも、コンビニとして求められる役割を踏まえながら、新たなジャンルを開発する。

曖昧さを「最適解」としている、参考にすべき事例なのではないでしょうか。

「大人の○○」と謳ったオールターゲット戦略

続いては季節の話題をお届けしたいと思います。

といえば「冷やしそうめん」

夏バテ気味の体でも、スルスルっと食べられる旬の味覚です。

この冷やしそうめんに関して、発売以来ロングセラーになっている商品をご存知でしょうか?

ドウシシャ社が開発した「大人の流しそうめん」です。

〈ITmediaビジネスオンライン / 2023年7月15日〉

2018年4月のリリースから、これまで約10万台も売れているそうですよ。

ドウシシャ

桶部の面積は縦35cm横35cm以内で、それほど広くないテーブル上にも置けるようになっています。

ちなみに、高さは約55cmなので収納面でも買いやすいサイズ。

それもそのはず、当初は子どものいない夫婦や大学生ターゲットとしていたからです。

大学生の一人暮らしでは、まさに “省スペース” がカギを握ります。

一方でファミリー層にも非常に売れているとのこと。

確かに、もともとはこうしたエンタメ商品は子どもに受けることが前提です。

さらに、キャラもの(子ども向け)のデザインだと、買う時は良くても、子どもが成長することを考えると、長くは使える気がしない

それでいて省スペースで機能的であるならば、親の算段としてはこちらの方が選びやすいというわけです。

そう考えると、子ども向け商品を「大人仕様」にして曖昧さをつくることで、結果的に幅広い世代に受け入れられるものになる

ゲームでも「大人の人生ゲーム」がありますが、これも大人を入口にしておくと、子どもたちが大きくなってからも楽しみやすい

最近、妻の姉家族(姪:大学3年生・高校2年生)と6人で人生ゲームで遊んだばかりなので、そんなことを実感いたしました😊

仏人は変化を望み、日本人は「治療」を望む

季節の話ということでいえば、「読書の夏」

いやいや…、本当は「秋」なのですが、社会人は夏休みや冬休みなど、大型連休が読書期間になりやすいからです。

私も夏休みは、いつもより多くの本を読もうと思っているのですが、その中の一冊として注目しているのが、パリ政治学院日本代表であり、歴史家のジャン=マリ・ブイスさんが執筆した『理不尽な国ニッポン』という本です。

〈Forbes JAPAN / 2023年7月7日〉

2020年に出版されているので、noterさんの中には既に読んでいらっしゃる方も多いかもしれませんね。

「理不尽」というタイトルの言葉に背筋が伸びる思いですが、むしろ日本を肯定する意味すらも含まれているそうで、それは「(フランスよりも)『日本の方がいい!』──二四時間ですべてがわかる」という第1章の章題と内容からも言えるとのこと。

記事の筆者の金融企業に勤務し、ライターとしても活躍する松尾優人さんは、フォーブスジャパンの記事の中で、ジャンさん「分断を好まない日本人の精神」についての考えを取り上げていらっしゃいます。

社会問題に対して、フランス人と日本人のアプローチは正反対である。フランス人は変えることを望むのに対し、日本人は治療を望む。私たちフランス人古い世界を壊して新しい世界をつくろうとする。(中略)社会の悪を公に告発し、見せしめに処罰して、同類の仲間全員を悔い改めさせようとする。害悪は完全に排除するか、または再教育して、社会を解放しようと闘うのである。
一方の日本人は、機械を直す、間違いを正す、病気を治療する、悪い習慣を取り除くのと同様の動詞を使う。「生活、社会、世界」を立て直すときは、それら全体を一言にして「世」を立て直すという言い方をする。悪というよりは、機能不全に陥った共同体全体を立て直すという意味で、壊すのではなく、再出発するために活力を取り戻すという意味だ。

ジャン=マリ・ブイス著『理不尽な国ニッポン』より

なるほど、確かに坂本龍馬もかつて「日本を今一度せんたくいたし申候」と表現しており、「壊す(全く別のものに変える)」という表現は使っていませんね。

ジャンさんが指摘する「治療」の概念と符号します。

これらの考えはあくまでもジャンさんがフランス人と比較して、という前提での話ですが、フランス的な合理性とは対照的な「日本人の良い意味での “曖昧” な文化」にこそ学びがあると仰っているのです。

もちろん、曖昧さは「歯痒さ」でもありますが、ここをどのように上手に活かしていくかが、来る本格的なAI時代における光明になるのではないかと感じました。

ということで、本日は「曖昧さという強み」というテーマでお話しさせていただきました。

もちろん、曖昧さは毒にも薬にもなるというのはあるでしょうが、それは人間の長所と短所は表裏一体という話と通じますので、この夏は「薬」の部分を掘り下げてみたいと思います😊

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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