小売業は「パブリック」に進化する
column vol.864
最近、団地から「お一人様生活」をお届けするYouTuber・多良美智子さんに注目が集まっています。
〈Earthおばあちゃんねる / YouTube〉
御歳なんと88歳。
チャンネル登録者数は15万人を突破しております。
お孫さんと二人三脚で番組を制作されているとのことですが、そのほのぼのとしたシーンにほっこりさせられます。
ちなみに “団地” と言えば、高度経済成長期に全国で数多く建設され、全国に約5000程あるようです。
建設から長い年月を経ており、住民の高齢化や住居の老朽化、さらにバリアフリーの遅れなどの問題が顕在化していることが指摘されてきました。
この問題解決のため2012年に立ち上がったのが無印良品です。
その歩みと今後の展望がウォーカープラスで紹介されていたので共有させていただきます。
〈Walker plus / 2022年12月10日〉
全国の団地で1000戸以上の入居を実現
無印良品が実施する「団地リノベーションプロジェクト」は、ちょうど10年前から実施。
すでに全国各地で1000戸以上に入居しています。
しかも、入居者の7割以上が40代以下で、前述の「団地における住民の高齢化」に対しても貢献していると言えるでしょう。
ウォーカープラスの記事がそのように評価するように、無印良品が果たしてきた功績は大きいと感じます。
団地はもともと土地に余裕があった時代に建てられているので、贅沢な敷地要件で建設されていたり、緑が多く風通しが良いなど、集合住宅として優良で多くの可能性を秘めている。
このような優れた部分を活かし、新しい世代も快適に過ごすことができれば、社会全体に大きな価値をもたらすことができます。
そこで、大掛かりな予算がかかる団地の取り壊しは原則的に行わず、快適に暮らすために改善・改修が必要な部分のみのリノベーションを行っているのです。
その上で、家具類も無印良品の既存の商品を使いつつ、団地ならではの規格化されたモジュールに合わせた収納や家具をUR都市機構と共同で開発しています。
今後は、例えば団地の共用部、隣接する広場、団地敷地内にあるショッピングセンターなどもトータルでデザインしていくそうで、実際に千葉の花見川団地や横浜の野庭団地などで実施が決定。
このプロジェクトがますます広がっていけば、団地という点ではなく、地域を創生するという面になっていくはずです。
この後の展開が楽しみで仕方ありません。
アパレル企業が「公園事業」に進出
このような公共性の高い取り組みで最近とても気になった事例が、アパレル企業「アダストリア」の公園事業への進出でしょう。
茨城県水戸市千波公園の魅力向上のための事業公募において設置等予定者として選定されたのです。
〈セブンツー / 2022年11月26日〉
アダストリアと言えば、「アパレルカンパニーから、グッドコミュニティ共創カンパニーへ。」という中期経営計画のテーマが掲げられていました。
同社はこれまでも創業地である茨城県水戸市の活性化のために、水戸管弦楽団や水戸芸術館への支援、水戸黄門漫遊マラソンへの協賛、地元のプロスポーツチームのスポンサーを務めるなど、地域活動に協力。
今回の計画においては大和リースと横須賀満夫建築設計事務所とともに大和リース・アダストリアグループとして事業に取り組んでいます。
このコンセプトワードは、こんな想いからつくられたそうです。
施設の中はフードエリア、プレイエリア、ネイチャーエリアの3つのテーマのエリアを想定。
ちなみに、現在サウナブームですが、サウナーの皆さまに詳細をお伝えすると、プレイエリアのサウナは「niko and ...」がプロデュースするそうですよ。
施設全体としては、2025年春に開業をできるよう水戸市との協議を進めているとのこと。
このように小売企業が公共性の高いプロジェクトに参画するケースが増えているのです。
アメリカでは「Kindness」がキーワードに
日本でも企業の社会性がより問われるようになっていますが、アメリカではさらに深度化しているようです。
実際、マーケティング業界でも「Kindness(優しさ)」がキーワードになっているとのこと。
そして、小売業でもKindnessを体現しているカフェがあります。
それが、ロサンゼルス・サンタモニカに昨年オープンした「La La Land Kind Cafe」です。
〈Forbes JAPAN / 2022年12月7日〉
店内には「NORMALIZE KINDNESS(優しさを正常化する)」というメッセージが掲げられています。
注目されているのが、スタッフの採用です。
フォスターチャイルド(里子の意味)を積極的に雇用し、コミュニティや人を大切にしながら社会課題を解決するビジネスモデルを形成しているのです。
若干25歳のオーナー、フランソア・レイハニーさんはホームレスの50%以上が里親に預けられた経験があることを知り、その受け皿になるカフェをオープンしたいと考えました。
一方で、顧客からカフェが単なる慈善団体と捉えられ働く人に対する一定のイメージを抱かせないように、ブランディングに力を注いだとのこと。
実際、同店のInstagramアカウントを覗くと、スタイリッシュでハッピーオーラ満載の店内になっております。
今後、日本でも社会課題を明るくオシャレに解決する小売企業が増えていくように思えます。
これは、実は小売業だけではなく、全ての業界でのヒントになっていくような気がします。
「社会性」は次のステージに向かっているのですね。
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