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「問い」が「差異」を生む

column vol.1239

予測不能VUCA時代の今、「深く考える」ことが大切であると言われています。

そして、深く考えるためのカギとなるのが自らへの「問い」(その意識)でしょう。

長く日本のビジネスの現場でお手本とされてきたメソッドの1つが、トヨタ「なぜなぜ分析」(5 Whys Analysis)でしょう。

こちらは問題が起きた際、「なぜ?」を5回繰り返す「根本原因」に辿り着くというもの。

例えば、生産ラインで機械が停止した場合、

なぜ?(Why 1)
保護装置が作動したから

なぜ保護装置が作動したのか?(Why2)
ベアリングが過熱したから

なぜベアリングが過熱したのか?(Why3)
潤滑油が不足していたから

なぜ潤滑油が不足していたのか?(Why4)
→定期的なメンテナンスが行われていなかったから

なぜ定期的なメンテナンスが行われていなかったのか?(Why5)
→メンテナンススケジュールが管理されていなかったから

と、問いを繰り返していくことで、解決すべき問題点が見えてくるというわけです。

こうした問いの力は古の昔から大切にされてきています。

哲学もそうですし、禅問答もそうです。

物事の真理に近づく手段として存在している。

成功するビジネスパーソンの多くは、自らに「問い」をちゃんと課せているとも思います。

もちろん、「問い」は内省のためだけに行うわけではありません。

前向きな気持ちを育む上でも効果的なのです。


不安を和らげる「安心問答」

先ほど「禅問答」を挙げましたが、こちらは師匠弟子の間で行われる特有の対話形式の問い答えとなります。

単なる知識の伝達ではなく、深い理解と新しい視点に導くための手法。

繰り返すことで、“悟り”、つまり煩悩や苦しみから解放されるというわけです。

例えば、不安から解放するための「安心問答」というものがあります。

〈nobico / 2024年6月20日〉

二祖云、
某甲心未安。乞師安心。
磨云、将心来。与汝安。
祖云、覓心了不可得。
磨云、為汝安心竟。

…な、何言っているか、分からないですよね…(汗)

現代語訳がこちらになります!

達磨に向かって弟子の慧可が言った。
「私は心が不安でなりません。師匠、どうか私の心を落ち着かせてください
達磨が言う、「その不安な心を取り出してみよ。そうしたらお前のために落ち着かせてあげよう」
慧可が言う、「心を探し求めましたが、結局取り出せません
達磨が言う、「これでもう、私はお前の心を落ち着かせたよ

つまり、不安なんてものには「実体がない」のだから気にするな、ということですね。

実体がないのに、自分で自分を締め付けることを、禅語「無縄自縛」と表現します。

本当は存在していない縄で自分を縛るということです。

そこで、例えばこのような「問い」を自らに投げかけてみます。

そもそも、不安に思っていることって、本当に悪いことだろうか?

不安があるから、払拭するために努力したり、ちゃんと準備する。

また、人前でスピーチする時の「緊張」もそうでしょう。

よくスピーチのオープニングトーク

「今すごく緊張しています、、、」

と話す人がいますが、受け手としてはどうでしょうか?

「がんばって!」とか「可愛いな〜」とか、その人への好感が生まれないでしょうか?

もし、そうであるなら

緊張している人=愛らしい人(親しみやすい人)

という風にも定義できるわけです。

それなら、「緊張=価値(魅力)」とも言えるのではないでしょうか?

「My ソクラテス」がある時代

…とはいうものの、この「問い」の体質身に付けるのも簡単ではないのかもしれません…

やはり、コーチがいてくれた方が良いわけです。

そんな中、最近興味深いと思ったニュースがあります。

それが東京新聞【ソクラテスに人生相談できる? 名古屋大が生成AI対話システム】という記事です。

〈東京新聞 / 2024年7月6日〉

名古屋大学などのチームが、生成AIを使って古代ギリシャ時代の哲学者たち対話型のやりとりができるシステム「ヒューマニテクスト」を開発。

対話モードでソクラテス「幸福になるためのアドバイスを」と文章を入力して問うと

「幸福とは正しい行いをすることで生まれる持続的な満足感」
「そのためにはまず自分を知ることだ」

などと回答してくれるそうです。

このシステムは、信頼性の高い学術データベースを生成AIに読み込ませているので、「まるでソクラテスが答えてくれている」という体験を得られるものですが、単なる問いの習慣をつくるだけなら、chatGPTでも良いわけです。

GPT4oに同じ問いを聞いてみますと

「感謝の心を持つ」

などと答えてくれるわけです。

その回答をスタート

「なぜ、感謝の心を持つと幸せになれるのか?」
「自分はその心を持てているのか?」
「どのようにすれば持てるようになるのか?」

など、問答をすることで、自分にとっての「幸福」より鮮明に見えてくるわけです。

最近発表された総務省「2024年版情報通信白書」によると、生成AIを使う日本企業の割合46.8%と、まだまだ半数弱

その上、個人利用9.1%という状況です。

そうした中、問いへの入口に生成AIを活用していくのも、1つのアイデアなのではないでしょうか?

「問い」を育むスポーツ

もう1つ「問い体質」を育むものとして注目しているのが「ボルタリング」です。

健康づくりで運動したい人が多い中、ボルタリングが思考を深める良い習慣をつくるのではないかと感じています。

実際、子どもの考える力を磨くスポーツとして注目されているとのこと。

〈AERA.dot / 2024年6月10日〉

都の「公立御三家」として知られる港区・白金小学校では、高さ約4メートル、幅約5メートルのボルダリング壁があるそうです。

中休みの時間になると、マットの前に大勢の生徒が列をつくる

そして、ある子がこのように話しています。

頭を使わないと登れない。ホールドをどう持てば体を押し上げられるのか、考えて登る」

なるほど、なるほど、挑戦を繰り返しているうちに、自然に考えるくせがつくということでしょう。

ちなみに、ボルダリングでは登るルート「課題」と呼ぶそうです。

自身でルートを考えて、トライしてみる。

上手くいかなかったら、別のルートを考える

まさに、仮説を立ててトライ&エラーを繰り返し、成功に導くというビジネスの考え方に通じますね。

ジャーナリストの池上彰さん教養「幸せに生きるための知識の運用力」と表現されていますが

「問い」も時に内省し、時に前向きな気持ちに導きながら、自分にとって一番グッドなルート選択していくための「知性の運用力」と呼べるのではないでしょうか。

「問い」が「差異」を生む

そんなことを改めて感じている今日この頃です😊

本日も最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!

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