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「リスキリング」への推進力

column vol.1113

イノベーションが求められるビジネスの現場において、「リスキリング(学び直し)」は重要項目として挙げられています。

政府は個人のリスキリング支援5年間で1兆円を投じる方針を示し、岸田首相は先月31日に行われた「日経リスキリングサミット2023」でも改めてその必要性を訴えました。

そんな中、リスキリング促進について最近気になる事例を見つけました。

「リスキリング先進国」ドイツの「失業診断ソフト」です。

〈現代ビジネス / 2023年9月26日〉

…ちょっぴりドキドキする名前ですが…、ここから読み解けるヒントもありますので、本日はこちらの事例についてお話ししたいと思います。


ドイツの「失業診断ソフト」とは?

これまで失業者中心だった職業訓練雇用保険を、デジタル化によって業務代替される可能性のある失業前の労働者にも拡大したドイツ。

その推進役の1つとなっているのが「失業診断ソフト」です。

こちらはIABというドイツ連邦政府の雇用・労働に関する研究所のウェブサイトなのですが、サイトにアクセスし、自分の職業を入力すると、将来の失職可能性が表示されます。

ちなみに、こちらは日本のハローワークのような業務を行う雇用エージェンシーが運営しています。

試しにテレビディレクター(ビデオジャーナリスト)と入力。

すると、AIによる判定では失職の可能性は25%だったとのことです。

もちろん、失職可能性を知ることがメインではありません。

判定画面を下にスクロールしていくと、その職業に必要な能力スキルが表示

カメラワーク、制作、ストーリーボードの制作、ビデオ編集、ジャーナリズム、研究、情報検索など。

その中に「ロボットのアイコン」が表示されているスキル項目があるのですが、それが将来、ロボット(AI)によって代替される可能性の高いスキル。

テレビディレクター(ビデオジャーナリスト)の例では

ビデオ編集、情報検索のスキル

が、代替可能性が高いと判断されています。

一方、

ストーリーボードの制作や研究、ジャーナリズム

といったスキルはロボットが代替しにくいスキルと判定。

単に失職可能性を示すだけではなく、そのうちどのスキルが活かせるのか、そして何を学び直した方が良いのかが分かるというわけです。

ベネッセが出資「米・スカイハイブ」

ちなみに、日本でも職業におけるAI診断の導入は進行しています。

例えば、教育大手の「ベネッセ」が今年4月、カナダで創業し、アメリカに本社を置く「スカイハイブ」1000万ドルを出資。

国内では2024年3月までに本格展開を始める見通しとなっています。

〈BUSINESS INSIDER JAPAN / 2023年9月28日〉

同社はアメリカやヨーロッパ、日本など世界各国の労働市場データを分析し、職種と必要なスキルを結びつける「独自のスキルデータベース」を保有。

職務経歴書のデータをアップロードするだけで、過去の経歴から身につけたスキルが抽出でき、スキル保有を裏付ける十分な情報を確認できた場合には、そのレベルも評価できるそうです。

そして、これからの時代に最適な自分のスキルとマッチするおすすめの職種が提示され、その職種に就くために必要となるスキルや、それが学べる講座まで提案してくれるとのこと。

ベネッセによると、カナダ政府EUニューヨーク市など公的機関が導入しており、製薬大手メルクや、アクセンチュアといった大企業など約2000社で利用実績があるという話です。

企業が導入を急ぐのは、今日の仕事は内容がどんどん細かく規定されるようになっており、ジョブレベルでの採用が難しくなっていることが理由。

AIの力を利用することで、的確に応募者とマッチングできることを期待しています。

スカイハイブのCEO、ショーン・ヒントンさんはこのことを

「例えば『フォードの工業デザイナー』と表現するだけでは表せないような、カテゴリーを超えた共通するスキルセットがある。共通スキルから人材を探すことで、効率よく見つけられる可能性があります。
それこそが、現代において『スキルは新しい通貨』と言われるようになった理由です。

と語っております。

日本のベネッセでは、社会人のためのオンライン動画学習「Udemy(ユーデミー)」を利用している企業に対し、スカイハイブを活用

新しい職種への異動の際に、必要なスキルを学べるUdemyのオンライン講座の提案も行っていこうとしているのです。

個人のリスキリング支援の充実ぶり

ということで、AIは人間の仕事を代替しようとしつつ、AIには行いづらい仕事を提示し、学び直しを促してくれようとしています。

近藤真彦さん「天使のような悪魔の笑顔」ですが、まさに破壊者にもなりつつ、救世主にもなろうとしているのです。

そう考えると、まさにAIによる個人スキルの「スクラップ&ビルド」と言うこともできますね。

再び、ドイツの事例に話を戻すと、もう1つ参考になると思ったのが社会全体で労働移動をサポートできているところです。

自動化により失職する可能性があると判定されると、何と雇用エージェンシーリスキリングにかかる費用だけでなく、日本の「職業訓練受講給付金」にあたる訓練中の生活費の保障はもちろん、保育料交通費など全てを支給してくれます。

この支援は大きいですね〜

そして、リスキリングを軸にした労働組合の新しい交渉術も出てきています。

例えば、世界的な自動車部品メーカー「ボッシュ」バンベルク工場についての事例です。

この工場では、長年エンジンのシリンダーを作り続けてきましたが、自動車産業のEVシフトを受けて、工場労働者の6300人の大半がリストラになることが発表。

これに対してIGメタル労働組合が、次の提案をしました。

従業員がリストラになる代わりに、労働時間の短縮と給料削減を条件に、新たな燃料電池の製造工程に関われるようになるためのリスキリングを要求

内容は1ヵ月のうち3週間は仕事をする代わりに、残り1週間で燃料電池製造に必要な知識や技能などを学ぶというもの。

その結果、従業員は給料が2026年まで削減される代わりに、労働時間の短縮とともに新しい技術を学ぶ時間まで手に入れたそうです。

そうして、雇用エージェンシーの庇護を受けながら、新たな時代の活躍人財へと変貌し、成長産業へと移動していく。

ドイツがリスキリング先進国と呼ばれる所以を感じました。

ということで、本日は「リスキリング」についての新しい動きについてご紹介させていただきました。

私もまだまだ働かないといけない世代ですので、新しい時代を見定めつつ、会社と自分が時流の川からこぼれないように日々考え、学びを注入していきたいと思いました。

しかし、本日は花金です。

まずは良い休日を過ごしたいと思います😊

皆さんも、良い週末をお楽しみくださいませ!

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