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聖書と信

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聖書はひとを生かすもの、という思いこみだけで、お薦めします。信仰というと引かれそうですが、信頼などの信として、ひとや世界を大切にする思いが、少しでも重なったらステキだな、と思いつ…
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#旧約聖書

『旧約聖書の思想 24の断章』(関根清三・岩波書店)

『旧約聖書の思想 24の断章』(関根清三・岩波書店)

天邪鬼なもので、この本が、講談社学術文庫にあると聞いたとき、オリジナルの方を探してみる、というのが私のよくやることである。というのは、新しい方は定価かそれ以上で出回っている場合があり、元の方がそれに応じてか、値が下がっている、という場合がしばしばあるからである。ひとは、新しい文庫が出ると、ハードカバーのほうは避ける傾向にあるらしい。
 
関根清三というと、旧約の権威としてとみに有名な関根正雄の息子

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『旧約聖書がわかる本』(並木浩一と奥泉光・河出新書)

『旧約聖書がわかる本』(並木浩一と奥泉光・河出新書)

並木浩一先生の本はいくらか手にし、好感をもっていたので、新たな新書ということで注目していた。本のタイトルは卑近であり、「<対話>でひもとくその世界」ということで、終始対談という形式で展開していることも気になったが、むしろ読みやすかった。「対話」というから、いくらか議論めいたものがあるのか、と思ったが、大学での師弟関係でもあるせいか、至っておとなしく、二人の「会話」が進んでいくような印象である。
 

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行くべきところ

行くべきところ

その朝、子どもが授かることについて悩んでいた人から、よい知らせが届いた。やがて礼拝が始まった。創世記の16章であった。どうしてこの朝なんだ、とときめいた。
 
アブラムの妻サライには、子どもが生まれなかった。(16:1)
 
そこで、サライが夫に提案する。「主は私に子どもを授けてくださいません」とまず口を開く。すでに主は、アブラムに対して、あなたから生まれる者が現れる約束をしていた。アブラムは主を

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『ここが変わった!「聖書協会共同訳 旧約編」』

『ここが変わった!「聖書協会共同訳 旧約編」』

(大島力・小友聡・島崎克臣編 日本キリスト教団出版局)
 
2018年末に出版された、日本聖書協会の新しい聖書。30年を経ての言葉の変化を背景としているとも言えるけれども、新しい研究や見解を踏まえていることが、今回非常に目立っている。これまでの教義や神学を変えねばならないほどにまで、その変更が及ぶことがあるとなると、教会もすぐに全面的にこの聖書を取り入れることは難しいかもしれなかった。
 
比較的

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「殺せ」と命じる神

「殺せ」と命じる神

旧約聖書には、残酷なシーンが多い。新約聖書だと、イエスの十字架の場面だけは厳しいものがあるが、あとは手紙も含めて、比較的平和的である。もちろん、黙示録はまだ酷いものがあるが、旧約聖書の比ではない。旧約聖書はとにかく人を殺すことについての記述が多いし、露骨な表現も多々ある。
 
特に問題とされるのが、主なる神自身が、「殺せ」「滅ぼせ」と命じて迫る場面である。これが並々ならぬほどに次々と出てくる。これ

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詞が先か、曲が先か

詞が先か、曲が先か

ヒット曲を生むソングライターには、詞も曲も自分でつくるというケースが少なくない。そのときしばしば、詞が先か、曲が先か、という質問が出たものだった。最近はあまり聞かないような気がする。
 
曲が先、という人が多かったように思う。すると、言葉が軽んじられている、と批判する識者も出てくる。今では名曲とされるような歌でも、以前の本で酷評がなされていた。言葉にはイントネーションというのがあるが、メロディがそ

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どう読むか、ヨブ記

どう読むか、ヨブ記

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」(『アンナ・カレーニナ』トルストイ/岩波文庫)
 
衝撃的な結末へ向けてひとりの女性の生涯を描く作品の冒頭は、この有名な言葉で始まる。不幸な人の話を聞くことで、辛くなる者もいれば、カタルシスを覚える者もいる。芸術体験も、ひとさまざまとなる。
 
旧約聖書にヨブ記というものがある。不思議な書だ。人間として申し分のない

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