見出し画像

ビジネス成功のカギを握る外的要因「カタリスト」とは何か?

はじめに

こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。
ここ20年から30年の間で創業し、急成長を遂げた企業の成功要因には、革新的な技術やユニークなサービスアイデア、圧倒的な事業投資規模など、様々な要因がありますが、そのうちのひとつに、彼らが「カタリスト=事業成長や市場拡大を促進する外部要因やトリガー」を捉えていたことも、共通点のひとつです。

成功のストーリーとして語られるのは、往々にして創業者や企業が持つ「内的な要因」に偏りがちですが、今回は急成長企業がいかに外的な「カタリスト」と結びついているか、カタリストを分類しながら紐解いてみたいと思います。 事業アイデア創出のきっかけやヒントとして、また事業化プロセスの検討ピースの一つとして、参考になれば幸いです。

株式・金融市場では相場や株価の変動を誘発する材料・きっかけを指す。
例えば、政策や経済統計、企業業績など。本来の意味は触媒。

野村証券株式会社「証券用語解説集」より

ビジネスにとっての「カタリスト」とは何か?

ビジネスにおける「カタリスト」は、企業の成長戦略に組み込むべき重要な外部要因です。市場の変化、技術革新、規制環境の変化、社会的トレンドなど、多岐にわたる要素を包みます。

カタリストを捉えた急成長のイメージ(筆者作成)

例えば、スマートフォンの普及はUberやインスタグラム、日本ではメルカリのようなプラットフォームビジネスの急成長を可能にし、フィンテック分野における規制緩和はSquareやRobinhoodなどの新興企業に成長の機会を提供しました。また、パンデミックによるリモートワークの普及は、Zoomに爆発的な成長をもたらしました。これらの例は、カタリストが新たな市場機会を創出し、既存の市場構造を大きく変える可能性を示しています。

主なカタリストの分類と事例分析

カタリストは多様な形態を取り、その影響力も様々です。主要なカタリストは以下の7つのカテゴリーに分類できます。

カタリストの主な分類(筆者作成)

技術的カタリスト

‐定義:新たな技術の登場や既存技術の進展によって生じるビジネスチャンス
‐主なカタリスト:スマートフォンの普及、クラウドコンピューティングの進展
‐企業例:メルカリ(日本、C2Cプラットフォーム)、Slack(米国、クラウドベースコラボレーションツール)

市場的カタリスト

‐定義:市場の成熟や消費者行動の変化により顕在化するビジネスチャンス
‐主なカタリスト:EC市場の拡大、シェアリングエコノミーの台頭
‐企業例:BASE(日本、個人商店向けECプラットフォーム)、Airbnb(米国、短期宿泊サービス)

政策的カタリスト

‐定義:規制の緩和や新政策の導入が事業の需要を増大させる要因
‐カタリスト例:電子帳簿保存法の改正、フィンテック規制の緩和
‐企業例:freee(日本、クラウド会計ソフト)、Robinhood(米国、株式取引アプリ)

経済的カタリスト

‐定義:経済動向や資本市場の変化が事業機会を創出するタイミング
‐主なカタリスト:ベンチャーキャピタルの投資増加、低金利政策
‐企業例:スマートニュース(日本、AIニュースアプリ)、Square(米国、決済サービス)

社会的カタリスト

‐定義:社会の価値観や人口動態の変化により生まれる事業機会
‐主なカタリスト:働き方改革、高齢化社会
‐企業例:クラウドワークス(日本、フリーランス向けプラットフォーム)、Peloton(米国、在宅フィットネスサービス)

法的カタリスト

‐定義:法律や規制の制定・改正がビジネスチャンスを創出するタイミング
‐主なカタリスト:GDPRの導入、デジタル改革関連法、2024年問題(トラックドライバーの時間外労働規制強化)
‐企業例:弁護士ドットコム(日本、オンライン法律相談)、ZMP(日本、自動配送ロボット開発)、DocuSign(米国、電子署名サービス)

環境的カタリスト

‐定義:環境変化や気候問題に対する社会的意識の高まりが事業機会を促進する要因
‐主なカタリスト:気候変動問題への対応、プラスチック規制強化
‐企業例:ユーグレナ(日本、バイオ燃料技術)、Tesla(米国、電気自動車)

カタリストをいかにして発見し、活用するか?

果たして急成長を遂げた企業は「たまたま」カタリストを獲得したり、「振り返ってみると」カタリストに整合していたのでしょうか?その多くは、外部環境の変化を常に注視し、それらの変化が自社の事業にどのような影響を与えるかを分析し、周到に準備したうえで戦略をくみ上げたのではないかと推察しています。ここでは、カタリストの探索/発見し活用するのか、その方法を挙げてみます。

・継続的な環境スキャニング
 定期的な市場調査、技術動向分析、規制環境のモニタリングを実施します。例えば、Zoomはビデオ会議技術の進化と企業のグローバル化傾向を継続的に観察していました。

・多様な情報源の活用
業界レポート、学術研究、スタートアップエコシステムの動向など、多角的な情報収集を行います。テスラは、バッテリー技術の進化と環境規制の変化を複数の情報源から追跡していました。

・クロスインダストリー分析
自社産業以外の変化が及ぼす潜在的影響を分析します。Airbnbは、シェアリングエコノミーの概念を宿泊業に適用する際、他産業での成功事例を研究しました。

・テクノロジーの活用
生成AIを用いた市場調査や競合、政策動向を広範囲にウォッチ、分析していくことで、すでに見えている、また見えつつあるカタリストの予測を行います。

これらのアプローチを通じて、企業はカタリストを早期に認識し、それを戦略的に活用する準備を整えることができます。重要なのは、これらのプロセスを組織文化に組み込み、全社的な取り組みとして確立することです。

カタリストの評価と優先順位付け

すべてのカタリストが等しく重要ではありません。企業は、認識したカタリストを評価し、優先順位を付ける必要があります。以下の基準を用いて評価と優先順位付けを行うことも欠かせません。

・影響の規模と速度
カタリストが市場にもたらす変化の大きさと、その変化が起こるスピードを評価します。例えば、スマートフォンの普及は、その影響の大きさと速度から、多くの企業にとって重要なカタリストとなりました。

・自社の強みとの整合性
カタリストが自社の既存の能力や資源とどの程度適合するかを分析します。Amazonは、自社のITインフラストラクチャーの強みを活かし、クラウドコンピューティング(AWS)を新事業として展開しました。

・市場機会の大きさ
カタリストによって生まれる新市場や既存市場の拡大可能性を評価します。Squareは、小規模事業者向け決済市場の未開拓な潜在性を認識し、そこに参入しました。

これらの基準を用いて評価することで、企業は限られたリソースを最も重要なカタリストに集中させることができます。また、この評価プロセスは、カタリストの変化に応じて定期的に見直す必要があります。市場環境の急速な変化に対応するため、評価基準自体も柔軟に調整することが重要です。

リスク管理とカタリストの逆風への対応

カタリストは機会をもたらす一方で、既存事業にとっては脅威となる可能性もあります。したがって、カタリスト思考には適切なリスク管理が不可欠です。以下に、カタリストの潜在的リスクに対処するための主要な戦略を示します:

・シナリオプランニング
複数のカタリストシナリオを想定し、それぞれに対する対応策を準備します。石油メジャー企業は、再生可能エネルギーの台頭というカタリストに対し、多様な事業ポートフォリオを構築しています。

・コア・コンピタンスの再定義
カタリストによる市場変化に応じて、自社の中核能力を柔軟に再定義します。Fujifilmは、デジタルカメラの台頭というカタリストに対し、光学技術や化学技術を基に多角化戦略を展開しました。

・継続的なイノベーション
カタリストがもたらす変化に常に先んじるための研究開発投資を行います。Appleは、スマートフォン市場の成熟化を見越して、ウェアラブルデバイスやサービス事業への展開を進めています。

・適応的な組織構造
急激な変化に対応できる柔軟な組織構造を維持します。Nokiaは、スマートフォン市場の急変に対応できず苦戦しましたが、その後ネットワーク機器事業に注力することで再成長を果たしました。

・戦略的な撤退と再投資
特定のカタリストが既存事業に深刻な影響を与える可能性がある場合、適切なタイミングでの事業撤退と新分野への再投資を検討します。IBMは、PCハードウェア事業から撤退し、クラウドやAIなどの成長分野に経営資源を集中させました。

これらの戦略を適切に実行することで、企業はカタリストの逆風を最小限に抑え、新たな成長機会を見出すことができます。重要なのは、リスクと機会のバランスを取りながら、長期的な視点で事業戦略を構築することです。

カタリストの今後、変わるものと変わらないもの

カタリスト思考の本質は今後も変わらないものの、その実践方法や影響範囲は大きく変化していくと予想されます。以下に、変わるものと変わらないものを整理します。

変わらないもの

・カタリストの重要性
外部環境の変化を機会として捉え、それを戦略的に活用する重要性は今後も変わりません。

・継続的な環境スキャニングの必要性
カリスタルを早期に認識するための、常に変化を注視する姿勢は引き続き不可欠です。

・柔軟な組織対応の重要性
カタリストに迅速に対応できる適応力のある組織構造の重要性は変わりません。

変わるもの

・カタリスト予測の精度と速度
AI・機械学習の発展により、カタリスト予測の精度と速度が飛躍的に向上していくことは明らかです。企業は、テクノロジーと人間の洞察力を組み合わせた新たな予測モデルの構築が求められます。

・カタリストの範囲とスケール
グローバル化とデジタル化の進展により、カタリストの影響範囲がより広範囲かつ急速になることも想定しておく必要があります。一つのカタリストが複数の業界に同時に影響を与えるケースも、より多く見られることになりそうです。

・カタリスト対応のスピード
コロナ・パンデミックの渦中にあって、mRNA技術の研究を従来から進め、大規模な生産能力を確保していたモデルナ社のように、突発的なカタリストへの即応、また言い換えれば以下にこれを予測して、いかに準備をすすめておくかが重要になります。

・カタリストの複雑性
社会・環境問題とビジネスの結びつきが強まり、カタリストがより複雑化します。サステナビリティと関連した新たなカタリストも今後ますます、増えていくことになるでしょう。

これらの変化を見据えつつ、カタリスト思考の本質を理解し、実践し続けることが、今後の企業の持続的成功につながります。変化を恐れるのではなく、それを機会として捉え、迅速かつ柔軟に対応する能力が、これまで以上に重要になります。

おわりに

いかがでしたでしょうか?
ここまで見てきたように、カタリストは企業の成長を加速させる重要な要素です。しかし、それを単に待つだけではなく、企業は積極的に市場の動向や技術の進展、政策の変化を見極め、自らの事業にどう結び付けるかを戦略的に考える必要があります。急成長企業が示すように、カタリストと自社サービスを巧みに結び付けることができれば、ビジネスの成長確率を高めることができます。

今後のビジネスの戦略立案において、また事業創出や事業の見直し、ピボットの場面でも、関連するカタリストを捉えてその好悪両面での影響を分析したうえで、最大限に活用していくことで、これまでに得られなかった機会や成長スピードの加速に繋げていけるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?