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前年比+165%で売上総利益1,353億円!米国Square Cash App急成長の秘密

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Cash Appは米国フィンテックアプリの非常に優秀な成功事例です。この記事ではSquareのIR資料と併せて具体的なアプリのUIを見ながら、いかに高度な戦略を体験レベルで実現しているのかを解説していきます。

この記事はコンシューマー向けアプリのプロダクトマネージャーや、フィンテックアプリの担当者におすすめです。

Cash Appとは

Squareが出しているコンシューマー向けフィンテックアプリです。元々はVenmoのようなシンプルな個人間送金のアプリでしたが、現在はペイメント/銀行預金/デビットカード/株式&ビットコイン投資が統合された総合金融アプリになっています。サイトの印象からもわかる通り、かなり若年層にフォーカスを当てた、金融サービスらしからぬブランディングをしていることも一つの特徴です。

このCash Appは特に昨年からのコロナ下において急激に成長し、SquareのShareholder Letterでも昨年よりPOS/決済端末事業を差し置いてCash Appが表紙にアピールされてます。実績としても、Square全体の2020年通期のGross Profit(売上総利益)がYoY +45%の$2.73 Billiion($1=110円換算で約3,000億円)、うちCash AppがYoY +168%の$1.23 billion(同換算で1,353億円)と、この一年でコンシューマーセグメントが彼らのビジネスの中核に並ぶまで成長したことがわかります。

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成長戦略

彼らの急成長は新型コロナウィルス下において配布されたStimulus check(米国政府からの給付金)と、ボラティリティの高い株式市場が多くの初心者投資家生んだことが追い風にはなったものの、非常によくデザインされた成長戦略があった上での結果といえます。

それでは、この急成長を実現したかれらの成長戦略を見てみましょう。要約すると以下です。

1. 獲得コストを最小化する個人間送金
2. 収益ドライバーとなるデビットカード
3. エンゲージメントを高める投資機能

獲得コストが低いので、高くない売上でも短期で利益化しているのが大きな特徴です。

それぞれ詳細を確認していきましょう。

獲得コストを最小化する個人間送金

まずユーザー数を確認します。2020年12月時点で3600万人の月間アクティブカスタマーがおり、2016年と比較すると4年間で10倍以上の成長をしたことがわかります。

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そしてこれらユーザーの1人辺りの獲得コストは$5(550円)以下と、LTVが長いために獲得コストも高くなりがちな金融系としては考えられない程低い数字になっております。

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これだけ低ければ一ユーザー辺りの収益が低くてもすぐに黒字化することが想像に易いですが、下記のROIのコホートを見ると、回収期間が短いばかりか徐々にその期間が短くなっていることがわかります。ここ一年間ぐらいは半年以内にROIが5xになることが固くなりつつある程です。

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VenmoやZelleもある中、Cash Appの個人間送金がうまく働いている理由として、まず$Cashtag(キャッシュタグ)の役割が大きいです。要はCash App上でのアカウント名なのですが、特徴はハッシュタグの「#」の代わりのように「$」が頭についており、ネーミングからしてさすがTwitterの生みの親Jack Dorseyという感じです。以下の$WataruSogaというのが私のCash App上で確認できる$Cashtagです。

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この$Cashtagは個人間送金の際にはもちろん、Twitterなどのキャンペーンでも効果的に使われております。例えば最近あったものでは、下記のツイートをリツイートした上で自分の$Cashtagと欲しい株の銘柄をリプライすると、$5,000(55万円)を山分けする形で、指定した銘柄の株が実際にもらえるチャンスがあるというキャンペーンで、多くの方が自分の$Cashtagをポストしていることが確認できます。

銀行でいえば口座番号に近い存在のものが、SNSでこのように皆が気軽にシェアをして、アプリの名前を言うでもなくこの$のついたタグを見るだけでCash Appのアカウントを指していることがわかることが、強力なマーケティングになっております。また、このようなTwitter上のキャンペーンから、獲得コストがなぜ$5未満で済んでいるのかもよくわかると思います。

Cash Appの個人間送金機能はアプリの体験でも重要な位置づけであることがUIからも明らかです。例えば、下記はアプリのホームスクリーンです。預金残高や取引履歴を見えやすいように表示することが銀行系アプリのホームスクリーンの典型ですが、Cash Appはほぼ「いくら送るか」のみに集中できる構成にしています。「誰に送るのか」すらもその次のステップです。お手元のスマホにて銀行アプリをお持ちの方であれば、試しに振込の手続きを進めていただければ、いかにこの画面が思い切ったことをしているかを理解いただけるかと思います。(ちなみに一番左のタブの$78が預金残高です。)

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「受け取り手の$Cashtagを知らなければどうなるの?」「そもそもCash App持っていなかったらどうするの?」と疑問を持たれるかもしれませんが、これが新規獲得のトリガーになっています。電話番号やメールアドレスでも送金手続きが可能で、受け取った側はCash Appをダウンロードするよう誘導されることで、ユーザーにユーザーを増やさせています。

このように、金融アプリでありながらSNSにも馴染むような仕組みを持つことで、ネットワークエフェクトを最大限に活かした低獲得コストを実現しています。

収益ドライバーとなるデビットカード

いくら獲得コストが低くても、収益源がなければビジネスとして成り立ちませんが、Cash Appはその辺りもスマートです。2020年Q4のShareholder letterからの抜粋になりますが、一人辺りの売上は現在$41(4510円)で、YoY+70%と売上も高い成長率となっています。

少々古いですが、2020年3月のInvestor Dayの資料も確認すると、一人あたりの売上は$30で、年々右肩上がりであることがわかります。

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この売上を上げている大きな要因がデビットカードです。Cash Cardというサービス名で提供しており、これを利用開始しはじめた後に一人辺りの売上が大きく上がっていることがわかります。

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名前的に日本でいうATMからお金を引き出すキャッシュカードと混同してしまいそうになりますが、日本でいうキャッシュカードは米国ではATM Cardと呼び、近年はデビットカードと統合されたものが一般的です。デビットカードという言葉に馴染みのない方は、銀行のキャッシュカードでそのままお店で支払えるカードと思っていただければと思います。要は個人間送金で溜まったお金をお店で使えるということです。ブランドはVisaなので使い所に困ることはありません。

このデビットカード、自分で券面に手描きでデザインできることが一つの大きな特徴です。そのデザインの様子を下記Gifアニメをご覧ください。

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自分の手描きのデザインがすぐ反映されるインタラクションを実際に操作するとワクワク感がすごいです。これでオーダーすると、しばらくすると実際に印刷されたカードが送られてきます。(ちなみにOrder Card $5と書いてますが、最初の一枚目は無料です。)

収益からは話がそれますが、この券面もTwitterなどでシェアされることを想定したデザインであることがよくわかります。カード番号も見えないので、#cashcardでTwitterを検索すれば色んな方々のCash Cardを見つけることができます。

https://twitter.com/hashtag/cashcard?lang=en

このカードをどう使わせるのか、という話ですが、Boostという機能がります。一言でいうとレストランや小売店舗などと提携したキャッシュバックなのですが、掲載側が掲載料を払っているので、Squareとしては広告を利用してローコストにアプリのエンゲージメントを高めている点です。表示する内容もパーソナライズされており、これまで使ってきた体感としては最大でも10個までしか表示されていない印象です。

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このリワードの中にはCash Appが独自に提供しているものもあるのですが、その典型がBitcoinによる還元です。Bitcoinは一度Cash App内で購入するとアプリのエンゲージメントが劇的にあがるらしく、その導入として決済のリワードを利用しているのは興味深い点です。このようなBitcoinへの取り組みの結果、2020年には300万人もののBitcoinアクティブユーザーができ、そうち100万人が初めてBitcoinを購入した人とのことです。下はレストランでの支払いの10%相当のBitcoinがバックされるBoostの例です。

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このように、人にシェアしたくなるくらいの世界で一つのデザインのカードと、パーソナライズされたリワードを提供することで、デビットカードの利用率を上げ、獲得コストを大きく上回る収益を生んでいます。

エンゲージメントを高める投資機能

実は、デビットカードの利用回数が増えても、必ずしもアプリのエンゲージメントが高まるとは限りません。実際、読者のみなさまもクレカや銀行アプリを開く頻度はおよそ月に数回程度なのではないでしょうか。Boostの認知を高めるためにも、アプリの起動頻度を上げる工夫が必要です。

Cash Appはそこを投資機能で補っています。有名銘柄の端株を買えるのです。例えば、Teslaの株を$1分だけ買う、みたいなことができます。

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実際に株購入の画面を見てみましょう。株の経験がある方ほど、この画面がかなり株初心者向けにデザインされていることがわかるはずです。株価がいくらだろうと、「1,000円分」のように自分の買いたい金額を端株で買うことに特化しています。ちなみにRecurring(定期購買)もできます。端株と定期購買の組み合わせは月々数千〜数万円程度の定額を貯金代わりに投資に回したいと考えるような人にとっては、投資のハードルを大きく下げうる機能です。このような買い方によって、各銘柄の株価がいくらかに関心はもたなくなり、自分のポートフォリオがいくら上がったのか/下がったのみを眺める形になります。

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初心者向けにオンボーディングにも大きな工夫があります。例えば、これらの銘柄購入の画面は、いわゆる証券口座開設をする前から見ることができます。そして、はじめて具体的に株の買いの操作を行ってから、ようやく口座開設手続きに入ります。KYC(本人確認手続き)も既にCash Appに提供している情報が参照されるので、追加で必要な手続きはかなり簡易になっています。また、買いの操作をした後なので、口座開設が完了するまでの期間はオーダーがスケジュールされた状態になり、開設完了した後のマーケット時間に買いが実行される形になるので、開設後にユーザーが再度アプリを開いてやらなければいけない操作はありません。これら一連のフローは、ユーザーが「買いたい」と思った瞬間を逃さない工夫です。

Bitcoinも同様に買えます。株が取引手数料無料なのに対し、Bitcoinは手数料(最大1.76%)が発生しますが、この買いやすさや、いつでも即現金&支払いに回せる安心感、そしてBitcoinのまま個人間送金できる自由さは意外と他にないと思います。ちなみに取引手数料とは別に、個人の支払う値段と取引所の値段の違いから、取引一回辺りで1~4%儲けていると言われています。例えば、9,000円で売る人と10,000円で買う人がいた場合に、その差額の1,000円がSquareの売上になる、という形です。Bitcoinを在庫として大量に保持していないとできない施策ですが、Squareは2020年10月に$50 million2021年2月に$170 millionのBitcoinを購入しています。Bitcoinによる収益はボラティリティが高いためかCash AppのKPIからは外されていますが(例えば前述の一人辺り$30の売上にBitcoinは含まれていません)、2020年に$4.57 billion(約5,020億円)の売上をBitcoinで生み出しており、これはYoYで +785%の成長です

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このように、支払いとは別のタイミングでもアプリを開く施策として、株とBitcoinの売買機能を提供しています。特に手数料をとらない株式投資機能(下図のEquity Investing)は収益源ではなくエンゲージメントドライバーだと割り切っていることが、彼らのIR資料でも明記されております。

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補足:様々な通知を一元化したお知らせ画面

個人間送金、デビットでの支払い、リワード利用、株/Bitcoinの取引など、多彩な機能を取り込んでいるCash Appですが、それら機能の利用履歴は一番右のタブメニュー内のActivityにて非常にシンプルにまとまっています。

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この見た目はチャット系のアプリに近いレイアウトですが、アプリとユーザーのコミュニケーションの履歴をまとめていくという点では非常にスマートなやり方だと言えるでしょう。

余談:ファッションブランド「Cash by Cash App」

2020年12月にファッションブランドを立ち上げています。その名も「Cash by Cash App」。金融系らしからぬ雰囲気のブランディングとしては非常におもしろい取り組みです。

ちなみにこのEコマースサイトはWeeblyというSquareが買収したノーコードのEコマース制作サービスを使って作られております。モバイルの場合は支払い手段としてCash Appを選べ、ほぼ指紋認証のみで支払いを完結できるスムーズな支払い体験を実現しています。

今後の展望

昨年8月にはペイデイローンのサービスの実験を一部ユーザーで実施しているとのニュースがあり、今年3月にとうとう銀行ライセンスでのオペレーションを開始し、着実にフィンテックとしての機能を拡充しています。一方で、Jay Zの音楽アプリTidal買収からミュージシャンの音楽作品へのNFTs(non-fungible tokens)活用が噂されJack Dorsey自身も最初のツイートをNFTで$2.9millionで売るなど、何かと話題に欠かないSquare界隈。米国時間5月6日に2021年1Qの結果もアナウンスされます。トリッキーながら実は合理的な戦略を高度な実行力で実現していくSquareのCash Appを今後も見逃せません。


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