滝ノ家

茨城県在住。コロナ下で始めた博物館・資料館巡りで縄文土器の魅力に捉われました。あとは古…

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茨城県在住。コロナ下で始めた博物館・資料館巡りで縄文土器の魅力に捉われました。あとは古墳系を少々。県内では常陸大宮市の滝ノ上遺跡の縄文土器が一番好きで、ペンネームはそこから頂きました。本ページでは主に気になった土器、ちょっと変わった土器などをご紹介できればと思います。

記事一覧

大木式土器の変貌(2)【縄文DX ー会津・法正尻遺跡と交流の千年紀ー】前編

前回は、大木式土器の大木7a式から大木10式までの変遷について、福島県福島市のじょーもぴあ宮畑で開かれた企画展のパネル解説をご紹介しました。 今回は応用編として、こ…

滝ノ家
9日前
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ボテロの注口土器(松戸市立博物館企画展「異形土器 縄文時代の不思議なうつわ」より)

ずんぐりと大きな本体に、明らかに不相応なちんまりした注ぎ口。上半分は蓋のように見えて蓋ではなく、てっぺんにやはり不相応に小さな口がちょこんと開いています。美しい…

滝ノ家
2週間前
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大木式土器の変貌(1)【縄文土器の精華~縄文時代中期の土器】より

縄文時代に、東北地方南部を中心に分布した大木式土器は、縄文時代前期から中期までの長い期間をカバーする土器型式です。関東地方では諸磯式、十三菩提式、五領ヶ台式、阿…

滝ノ家
3週間前
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火焔土器の時代の新潟の、火焔型ではない縄文土器

口縁にそびえる立体的な突起や、器面を飾る隆帯の文様が見事な火焔型土器は、新潟のみならず全国の縄文土器の代表選手として、縄文時代にあまり関心がない人にも広く知られ…

滝ノ家
1か月前
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ブラジャー土器と呼ばれた縄文土器 ー 縄文時代中期埼玉の複弧文類型

いつだったか、だいぶ前に埼玉の資料館で学芸員の方から、「ブラジャー土器」という縄文土器があると教えて貰いました。昨今はそういうネーミングは差し支えがあるんでしょ…

滝ノ家
2か月前
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安曇野市穂高郷土資料館の広耳把手付土器(ひろみみとってつきどき)

長野県安曇野市は、北アルプス連峰を西側に望む松本盆地のやや北寄りに位置します。安曇野市穂高郷土資料館は、穂高地区の市街地から穂高温泉郷に向けて少し登ったところに…

滝ノ家
2か月前
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なれの果ての縄文土器たち

縄文土器に関する論文を読んでいたら、「なれの果て」という、学術論文にはあまり似つかわしくない言葉が何度も現れて、吹き出しそうになったことがあります。別にふざけた…

滝ノ家
3か月前
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続 まわる土器・まわらない土器  浅間縄文ミュージアム編

2024年5月に「まわる土器・まわらない土器」と題したnote記事を投稿しました。最近、長野県御代田町の浅間縄文ミュージアムなど、長野県内の博物館・資料館の縄文土器を見…

滝ノ家
3か月前
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鉾田市の縄文 ― 吉十北遺跡の縄文土器 ―

茨城県鉾田市の生涯学習館「とくしゅくの杜」に、吉十北遺跡の縄文土器を見に行きました。鉾田市は茨城県南東の鹿行地域にあり、鹿島灘に面しています。メロンの名産地とし…

滝ノ家
3か月前
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まわる土器・まわらない土器

縄文土器には、まわる土器とまわらない土器がある。少し前からそんなことを考えています。 「まわる」「まわらない」の定義どういう土器が「まわる」のか、どういう土器が…

滝ノ家
4か月前
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諏訪遺跡の「スワタイプ」縄文土器 ー 日立市郷土博物館の収蔵資料展「日立のここにもあそこにも遺跡あります」から

日立市郷土博物館の収蔵資料展「日立のここにもあそこにも遺跡あります-日立市内遺跡調査成果展-」(2024.3.23~5.12)を見に行きました。 諏訪遺跡の縄文土器35点が、…

滝ノ家
5か月前
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滝ノ上型土器との再会

茂木町の展示会縄文土器に熱中し始めて間もない令和2年の秋に、栃木県茂木町のふみの森もてぎで開かれた「那珂川流域の縄文文化-縄文時代中期土器にみる地域性-」という…

滝ノ家
5か月前
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野木町の縄文(2) 松原北遺跡の縄文土器

前回の記事では、栃木県の野木町郷土館の常設展示のうち、主に縄文時代の出土品の概要をご紹介しました。今回は郷土館に展示されている松原北遺跡の土器について、野木町教…

滝ノ家
6か月前
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野木町の縄文(1)

栃木県の野木町郷土館に行ってみたところ、縄文土器の常設展示が予想以上に充実していました。 野木町は栃木県のほぼ南端、群馬県・埼玉県・茨城県との県境の近くにありま…

滝ノ家
6か月前
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新潟の神像土器

笹山遺跡から来た土器昨年5月に念願の新潟に火焔型土器を見に行きました。今回はその時に見られなかった土器のお話をしたいと思います。 よく行く図書館で最近借りた展示…

滝ノ家
6か月前
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大木式土器の変貌(2)【縄文DX ー会津・法正尻遺跡と交流の千年紀ー】前編

大木式土器の変貌(2)【縄文DX ー会津・法正尻遺跡と交流の千年紀ー】前編

前回は、大木式土器の大木7a式から大木10式までの変遷について、福島県福島市のじょーもぴあ宮畑で開かれた企画展のパネル解説をご紹介しました。

今回は応用編として、この解説を参考にしながら、福島県立博物館の企画展「縄文DXー 会津・法正尻遺跡と交流の千年紀 ー」(2024/7/6~9/1)に出展された大木式土器を観察します。法正尻遺跡は猪苗代湖の北西、福島県猪苗代町と磐梯町の境目にあった、縄文時代

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ボテロの注口土器(松戸市立博物館企画展「異形土器 縄文時代の不思議なうつわ」より)

ボテロの注口土器(松戸市立博物館企画展「異形土器 縄文時代の不思議なうつわ」より)

ずんぐりと大きな本体に、明らかに不相応なちんまりした注ぎ口。上半分は蓋のように見えて蓋ではなく、てっぺんにやはり不相応に小さな口がちょこんと開いています。美しい仕上げと対照的なアンバランスさに思わず笑ってしまいました。

これは岩手県軽米町の長倉Ⅰ遺跡から出土した、縄文時代後期、約3500年前の注口土器です。松戸市立博物館の企画展「異形土器 縄文時代の不思議なうつわ」で見てきたばかりのところでした

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大木式土器の変貌(1)【縄文土器の精華~縄文時代中期の土器】より

大木式土器の変貌(1)【縄文土器の精華~縄文時代中期の土器】より

縄文時代に、東北地方南部を中心に分布した大木式土器は、縄文時代前期から中期までの長い期間をカバーする土器型式です。関東地方では諸磯式、十三菩提式、五領ヶ台式、阿玉台式/勝坂式、加曽利E式と時期ごとに分かれた多くの土器型式に対応するのが、東北南部ではまとめて大木式です。

大木式は大木1式から大木10式まで、細分を含めると13段階に分かれています。時代によって変化する様々な土器が含まれるのですが、名

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火焔土器の時代の新潟の、火焔型ではない縄文土器

火焔土器の時代の新潟の、火焔型ではない縄文土器

口縁にそびえる立体的な突起や、器面を飾る隆帯の文様が見事な火焔型土器は、新潟のみならず全国の縄文土器の代表選手として、縄文時代にあまり関心がない人にも広く知られています。新潟県十日町市笹山遺跡から出土した「新潟県笹山遺跡出土深鉢形土器」は、1999年に縄文土器としては唯一の国宝に指定されました(のちに長野県茅野市の国宝土偶「仮面の女神」と一括で国宝指定された土器を除く)。

一方、火焔型土器とその

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ブラジャー土器と呼ばれた縄文土器 ー 縄文時代中期埼玉の複弧文類型

ブラジャー土器と呼ばれた縄文土器 ー 縄文時代中期埼玉の複弧文類型

いつだったか、だいぶ前に埼玉の資料館で学芸員の方から、「ブラジャー土器」という縄文土器があると教えて貰いました。昨今はそういうネーミングは差し支えがあるんでしょうけど、と。最近ふと思い出して全国遺跡報告総覧で検索してみると、確かにブラジャー土器(以下ではBJ土器と略)という言葉が出てくる発掘調査報告書が見つかりました。

こうして見ると、学術用語に準ずる通称くらいの感じだったことが分かります。文献

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安曇野市穂高郷土資料館の広耳把手付土器(ひろみみとってつきどき)

安曇野市穂高郷土資料館の広耳把手付土器(ひろみみとってつきどき)

長野県安曇野市は、北アルプス連峰を西側に望む松本盆地のやや北寄りに位置します。安曇野市穂高郷土資料館は、穂高地区の市街地から穂高温泉郷に向けて少し登ったところにあります。

元は旧穂高町の郷土資料館だったようですが、平成の大合併で近隣5町村が合併して安曇野市になったおかげで、旧明科町などの遺跡からの出土品もまとめて見られます。

安曇野市穂高郷土資料館には長野県宝「信州の特色ある縄文土器」が3点展

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なれの果ての縄文土器たち

なれの果ての縄文土器たち

縄文土器に関する論文を読んでいたら、「なれの果て」という、学術論文にはあまり似つかわしくない言葉が何度も現れて、吹き出しそうになったことがあります。別にふざけた論文ではなくて、山形真理子氏の「曽利式土器の研究 ― 内的展開と外的交渉の歴史 ―」[1][2]という、いたって真面目な論文です。論旨が明快で大変読みやすく、また随所で「私はこう考える」と自分の立場をすぱっと明らかにしては、それを論証してゆ

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続 まわる土器・まわらない土器  浅間縄文ミュージアム編

続 まわる土器・まわらない土器  浅間縄文ミュージアム編

2024年5月に「まわる土器・まわらない土器」と題したnote記事を投稿しました。最近、長野県御代田町の浅間縄文ミュージアムなど、長野県内の博物館・資料館の縄文土器を見て歩いているうちに、新たに気づいたことがいくつかありましたので、記事を追加したいと思います。

前回の記事の概要前回は縄文土器のデザインの指向を、「まわる・まわらない」という基準で分類してみました。「まわる土器」というのは、真上から

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鉾田市の縄文 ― 吉十北遺跡の縄文土器 ―

鉾田市の縄文 ― 吉十北遺跡の縄文土器 ―

茨城県鉾田市の生涯学習館「とくしゅくの杜」に、吉十北遺跡の縄文土器を見に行きました。鉾田市は茨城県南東の鹿行地域にあり、鹿島灘に面しています。メロンの名産地として知られていて、生涯学習館のすぐ近くにもJAほこたの農産物直売所「なだろう」があります。
数年前、関東考古学フェア・スタンプラリーのカレンダーに吉十北遺跡の土器が載ったことがあります。関東6都県の博物館や資料館を回ってスタンプを集めると、出

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まわる土器・まわらない土器

まわる土器・まわらない土器

縄文土器には、まわる土器とまわらない土器がある。少し前からそんなことを考えています。

「まわる」「まわらない」の定義どういう土器が「まわる」のか、どういう土器が「まわらない」のか。まず、そこを説明したいと思います。私が考える「まわる」土器とは、簡単に言えば、真上から見た平面図が下のようになる土器です。

これらは、次の条件を満たします。

左右非対称の、複数の突起(把手)をもつ

(360°未満

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諏訪遺跡の「スワタイプ」縄文土器 ー 日立市郷土博物館の収蔵資料展「日立のここにもあそこにも遺跡あります」から

諏訪遺跡の「スワタイプ」縄文土器 ー 日立市郷土博物館の収蔵資料展「日立のここにもあそこにも遺跡あります」から

日立市郷土博物館の収蔵資料展「日立のここにもあそこにも遺跡あります-日立市内遺跡調査成果展-」(2024.3.23~5.12)を見に行きました。

諏訪遺跡の縄文土器35点が、日立市指定文化財30周年を記念して展示されていました。指定文化財の土器全てがずらりと並んださまは圧巻でした。この記事では、鈴木裕芳氏の論文「諏訪遺跡出土土器群の再検討」(文献[1])に基づいて、展示された土器に解説を加えてみ

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滝ノ上型土器との再会

滝ノ上型土器との再会

茂木町の展示会縄文土器に熱中し始めて間もない令和2年の秋に、栃木県茂木町のふみの森もてぎで開かれた「那珂川流域の縄文文化-縄文時代中期土器にみる地域性-」という展示会を見に行きました。その直前に茨城県立歴史館で見た特別展「Jomon Period - 縄文の美と技、成熟する社会 -」(令和2年10月10日~11月29日)がきっかけで縄文土器に興味を持ち、展示会巡りを始めたばかりでした。

関連講演

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野木町の縄文(2) 松原北遺跡の縄文土器

野木町の縄文(2) 松原北遺跡の縄文土器

前回の記事では、栃木県の野木町郷土館の常設展示のうち、主に縄文時代の出土品の概要をご紹介しました。今回は郷土館に展示されている松原北遺跡の土器について、野木町教育委員会/編「松原北遺跡 友沼西部土地区画整理事業に伴う埋蔵文化財発掘調査」[1]を参考にしつつ、考察を加えたいと思います。

松原北遺跡は町の北西部、野木町大字友沼にあります。利根川水系の思川東岸の河岸段丘上です。発掘調査では縄文中期中葉

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野木町の縄文(1)

野木町の縄文(1)

栃木県の野木町郷土館に行ってみたところ、縄文土器の常設展示が予想以上に充実していました。
野木町は栃木県のほぼ南端、群馬県・埼玉県・茨城県との県境の近くにあります。3年ほど前に土さんのnote記事 はるか東にやってきた火焔型土器 ー 野木町郷土館 [JOMOSEUM] でも取り上げられていました。実際に訪問したところ、特に松原北遺跡の中期縄文土器が大変面白かったので、2回にわたりレポートしてみたい

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新潟の神像土器

新潟の神像土器

笹山遺跡から来た土器昨年5月に念願の新潟に火焔型土器を見に行きました。今回はその時に見られなかった土器のお話をしたいと思います。

よく行く図書館で最近借りた展示会図録に興味深い土器が載っていました。群馬県立歴史博物館で平成10年に開かれた「縄文文化の十字路・群馬-土器文様の交流」 [1]という企画展で、主に前期から中期の群馬の土器を取り上げ、なかなか充実した構成です。おそらく展示の目玉として新潟

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