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経営のステージによって企業PRの形は変化する。を記事にした件。

「商品には人気の寿命がある」というプロダクトライフサイクル論(Product Life Cycle; PLC)。マーケティングのメソッドとして1950年にジョエル・ディーンにより提唱され、その後たくさんの人たちにより研究されてきたフレームワークがあります。

このマーケティング理論は、さまざまな追加メソッドが付加されてきましたが一定の「経営理論」に落ち着いて、一定の支持を集めています。が、「決定的なマーケティングの解」ではないようです。

パブリックリレーションズは近年、マーケティングのメソッドを経営面からM&Aしていっていて、この理論を別の視点で、企業の情報発信サイクルにあてはめると、結構うまくいくよね、というものをまとめたのが、今回の記事のテーマでした。

今回は、この編集後記です。ちなみにpr401の本体記事は10000字近くある大作です。結論だけほしい思考力の弱い人には難しいかもしれません。ということで、全体の概要も巻末に改めて作りますけれど。

個別商品的には難しいPLC

まずはプロダクトライフサイクル論(PLC)の穴について。PLCは商品が100あったら、個別に100通りのライフサイクルに対応しないといけない、とみなします。さらにこの論は、商品により強いブレが起こるので、サイクルの予測が難しいという元も子もない側面があります。実際にサイクルのウエーブのパターンは、絞り込んでも以下のように4通りあります。

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競争環境や、商品の独自性によって、お客がどう評価してくれるのか。これによって山のでき方がまったく変わります。つまり、ある程度の経験値に基づいた、その商品の人気動向の予測精度がないと、ファッションのつもりがファッドだった、みたいなことになりかねず、場合によってはお門違いな作戦展開になっていることも多い、という。

商品の集合体としての企業活動にまで引いてみる

これがコトラー博士をして「多様性がありすぎてムリ」と言わしめたゆえんですが、1商品サイクルを1企業のライフサイクル、正確には複数の商品が束になった結果としてのライフサイクルとみなしたとき(カンパニーライフサイクルとでも言いましょうか)、それぞれの成長ステージでどのようなコミュニケーションを主題にすればいいのかが大体わかるようになります。

この「大体」というのがポイントです。商品レベルでは対象が一つですが、商品の束を基準にすると、成長期の商品と衰退期の商品と混在しており、その成果集合として企業の勢いが今どこにあるのかを推定するので。

企業の盛衰には絶対的なパターンがある

創業期は混乱し、何らかの商品の売れ行きが安定しだすと、経営が軌道に乗り、順調に業績を伸ばす。業界か商品で成熟度を感じると、今度はその成熟を維持するか衰退に向かう。

これは、企業のライフサイクルとして絶対の法則性となっています。

●●%がダーウインの海で力尽きて倒産する

みたいな話は枚挙にいとまがないですね。

これは、1商品ごとのプロダクトライフサイクル論における、普遍的法則性と瓜り二つなんです。つまり、さっきあげた4通りの波も、「波を作る」という法則性の中におさまるわけで、そのくらいの俯瞰レベルに視点を置いておけるかが重要になります。

PR活動をチャンネルごとに解説する人がいるが、100あるうちの1ポーションにすぎず局地的すぎる

企業規模は、成長の1つの側面であるので、そこからPRのやり方や方法論を考えるというのはまちがってはいません。ただし、PRもそういったやり方や方法論の集合体であるという視点があきらかに欠如しています。「機能特化」は採用募集にも如実に表れている残念な事実で、これはほかの記事で複数回指摘していますが、改善の気配は10年前から比べてもあまりかわらない重症状態です。

IR:投資家対策チームの編成
CSR:持続可能性やコンプラ、投資家対策などで
インターナル:組織が大きくなって組織を維持するための組織論で
UI・デザイン、なんたら:HPの見栄えがよく、とか特に特化しちゃって
アートディレクター:特定の商品やサービスに特化
ウエブ●●:PESOメディアのOwnedに注力。その他は考えてない
デザイナーなんちゃら:見た目のアンカー部分のみ

ずっとこれから企業の20年、そのデザイナーだけで、ディレクターだけでいいのでしょうか。今ココで必要な機能であっても、その製品が衰退期にも、そのセンスを持ったデザイナーが必要なのか、テーマを維持していくべきなのか。戦略化されたフレームワークを基礎教育として大学で学べない日本では、目先主導のニーズこそが正義なため、PRとは報道対応、パブリシティという風潮ができています。「今後会社がどういう成長をするからどういったコミュニケーションがしたくてその募集をします」、という角度の募集はほとんど見たことがない残念な状況が蔓延しています。これでは総合的な視点が必要な(カッコ良く言えば戦略的観点)パブリックリレーションズという職務は育ちません。

やや希望の光。事業規模ごとに必要なPRは何かを解説する記事がぽつりぽつりと出てきたこと

PRSJ系で、マーケベースではあるけれども、パブリックリレーションズが企業規模ごとに必要なポーションをまとめた記事がぽつりぽつりと出てきたのを感じています。先にあげた重症を治す特効薬的な考え方ですが、記事に対する反響数はそうでもなく。

重症患者たちは、企業のステージごとに必要なポーションそれぞれに興味は持つものの、それらが連なってひとつの総合性を発揮する、ということには思考が至らないのだ、ということにもなっているよね、と。連なっているということを解説するにはパワー不足だな、と、それらの記事を見ていて思うこと。

「PRは情報宰相」である事実をバーンとわからせる方法はないのか?

企業の成長ステージによって取るPR策が違うことを解説している記事はまっとうだなと思うものの、ポーションそれぞれが連なるという連想と重要性の解説が足りない(というか、ほとんどない)。情報宰相であるパブリックリレーションズポジションは、会社のナンバー2か3くらいの価値があるのに、その価値をうまく説明するものが見当たらない。ひとつ、欠けているなと思うのは、

情報を発信する根本理由はなんなのか。それをわかったうえで、コミュニケーションを作っているのか。

ということを常に問うていないこと。これは戦略作りの動機を問うのと同じことで、なぜその会社を創業したのか、なぜその会社が存続しなければいけないのかを説明しなさい、と言っているのと同じ。なぜそこまでしてコミュニケーションを一体化しないといけないのか。

この解。ここが伝わらなければ(社長に)、コミュニケーション担当は、目先のことしか見ない、なにかに秀でた職人が担う状況(正確には何かに秀でた職人をディレクターやマネージャーという経営者目線にシフトし、改めてほかのチャンネルを勉強させて総合的な情報プロデューサーにアップデートさせない職場環境)が今後も続いてしまうだろうな、と。

パブリックリレーションズはしかし、何か得意分野がないと出発点が見いだせない

Youtubeやインスタ、紙メディアなど、何かを出発点にパブリックリレーションズに進むことは王道ですが、それはさまざまなコミュニケーション手法に通じようとする総合的な視点があることが前提になります。たとえば、ベンチャーで採用広報がスタートした部署では、今後、インターナルPRの充実や外部への企業ブランディング向上のためのマインドやメソッド開発が必要だよね、というように。どんなキャリアを作っていけばいいのかの指標を一目でわかるようにできないものか。

そしてPLCと経営の流れとしての波形が一致した

カンパニーライフサイクルは非常に似通っていますが、どういうわけか企業経営からPLCに絡めた話を見かけたことがありません。経営者はコミュニケーションと経営がセットであることを知らないし、自称コミュニケーションの専門家たちは、自分たちの得意フィールドからしかものごとを語れないからこういうことがおこっているんだろうな、と、資料をたくさん探していて思ったことでした。

図解一発

ということで、ライフサイクルにそれぞれの成長ステージに必要なコミュニケーションをプロットした図がこちら。

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PLC4つの成長ステージと、イノベ理論5つの顧客タイプステージをあわせ、企業の成長とその都度必要なコミュニケーションとの位置関係がわかるようにしてみました。個々の商品の売り上げカーブが業績に影響を与える、というようなイメージも取れるよう、個々の商品ライフサイクル例をイメージとしてプロットも。これをもとに、コミュニケーションそれぞれのメソッドが経営にどのように関係してくるかを解説してみたわけで、国内PR系の足りない視点と説明をうまく補完してみた(つもり)。

では、本体記事の目次から、それぞれで書いたことをスニークプレビューしてみます。

起業期は死の谷や魔の川があり、顧客は新し物好き。ヒット作待望論アリ


(1)信用力強化を財務招聘とビジョン流布で行う
(2)戦略の体系化

起業ステージの段階で、どのくらい経営ビジョンを言語化できているか、ということに尽きます。多くの会社はビジョン設定などしておらず、売り上げを追うだけの守銭奴の体制です。社会的に容認された仕事であれば、そのすべてに価値があるので、これをいかに言語化するかにより、社会から共感を得られることになりますよ、ということです。チャンネルは、ビジョン流布、戦略連動、財務招聘の3つになるでしょう、というもの。財務の安定に向けて潤沢な資金を確保し、戦略に沿ったブランドづくりの種まきをしよう、というものです。

売り上げが上がらないときにどんなコミュニケーションをするのが妥当か、というと、過去の事例ではトップがビジョンを熱く語り、商品を営業し、さまざまな改良の都度、トップメッセージですばやく対応し賛同者をたくさん得るケースでしょう。PR担当者は体制を作っていくプロセスそのものにストーリーをつけて、あらゆる活動に情報価値をつけていく腕の見せどころです。

成長期はヒトモノカネが「徐々に」集まってくるジレンマとキャズム想定

(1)商品ベースのマーケティング開始
(2)顧客チェンジの足音・キャズム攻略
(3)そして、ヒット作が出てくる
(4)採用広報

ひとりで作業していたものを、5人に分業して生産力アップを図る。こういった体制変更もコミュニケーションにおけるアピールポイントの変化に加算します。マーケティングが目立った成果をあげるのも成長ステージの特徴であり、そのとき、PRとマーケはどのようなすみわけに落ち着いていくのかを絵図を描きながら、目の前のキャズムという大きな課題を解決しながらすすむのだ、というものです。採用広報の登場は、社長によるトップメッセージの分業化の成果でもありますね。

成長中期から成熟期は競合林立を想定し、新しい柱を育てる必要性

(1)円熟の利点を生かし、囲い込み策
(2)定番化獲得へ
(3)組織を維持するための組織づくり
(4)経営体制は上場を前提としたものか、社会性を前提としたものか

キャズムを克服し、経営安定期に入ったステージでは、リブランディングやシェア争い、撤退を想定して、それまでにやれることをマーケ中心に行なっていくことが主となります。ここでの最大目標は、いかに定番商品を作るかです。定番商品の購入バックグラウンドが、ブランド価値やCSR等の企業の社会性への評価の結果だとしたら、PR活動は大きな成果を得た、と言えるのではないでしょうか。

もうひとつのポイントとしては、業績が上向いた先の企業の方向性です。上場を目指す、あるいはそれに相当する財務透明性を作ろうという雰囲気なのか、社長のために働かされる会社になっていくのかで、コミュニケーションの可能性の幅が大きく変化します。残念ながら後者のパターンが圧倒的に多いのが現状であり、著しく制約された中コミュニケーションをどうマネジメントするのか、という課題も覚悟すべきです。社長の公私混同が増えてくると、PRは成立しません。その場合PR担当者は転職を検討しましょう、という真実に基づく提言もしっかりと盛り込んでいます。

衰退期はイグジットや企業M&Aを意識して内なる諸問題を解消する

(1)経営体制のコミュニケーションを遅滞なく行う
(2)リブランディング
(3)M&A対策による事業承継を想定したコミュニケーション

衰退に向かう商品は、きれいな撤退作戦を、定番商品のテコ入れには大胆な視点を。シェア争いには選択と集中を駆使した資金効率のいいキャンペーン設計を構築するステージです(しかも分業・チーム戦で)。

それ以外では、M&Aを想定して、企業が抱える諸問題をとにかく早く解決していくイグジットモードにしていくことでしょう。競合から買収提案を受けても高く売れる前提を作る、というキナ臭い話も想定しますが、ベンチャー企業クラスでは最適解であることも。そういった現実から目を背けず、PR担当はやるべきコミュニケーションを適切に選ぼう、ということです。

カンパニーライフサイクル

人に成長過程があるように、商品にも人気化という点でライフサイクルがあり、それら商品たちをプロデュースする会社にも成長過程が存在します。マーケティング用に開発されたライフサイクル論は、商品というミクロの視点で栄枯盛衰を体系化した理論ですが、競争理論や需要予測など、見えない手によるブレまで完全にカバーできてない未完成の理論という結論がマーケッターの間では出ているような。しかし、この理論を企業の成長過程という、もっと引いた視点から見てみると、ファジーになりがちな経営の法則性にフィットする傾向を示しているのに気づきました。企業の成長ステージごとに必要なパブリックリレーションズは、マーケティングとしてのプロダクトライフサイクル論たちのガイドでほぼ間違いありません。どこまで個別に落とし込んでいくかは、フィット感とPR担当者の裁量でしょう。

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