(4)「謎の結社」による巨額投資の、虚と実
「神は我々を見放さなかった・・」
カーディアス・バークアウトは、アレクシア・デギュスタシオンが差し出した手を、潤んだ目で何とか捕捉し、デギュスタシオンの手を両手で包んでゆっくりと上下させていた。
共和党上院院内総務のバークアウトが 暫く手を離そうとせず、涙目になって感極まっているので デギュスタシオンは、「してやったり」と一瞬狡猾な笑みを浮かべてしまい、慌てて表情を整える。このソロモン財団代表であるユダヤ人の顔の変化に、気付いたものは誰も居なかった。
財団から提案の申し出は敵対陣営の唯一の接点である、民主党上院議員ユリシウス・ロスチャイルドから隠密に齎された。共和党には縁のなかったソロモン財団が、政府に投資したいと申し入れがあったと明かしてくれた。ユダヤ系の財団なのでロスチャイルド家との繋がりと言うのは分かるのだが、当初はからかいの対象なのかと半信半疑でいた。ソロモン財団が約30兆円もの投資提案を出してきたというのもある。 マスコミが掴んでいた情報によると、アメリカへの介入を計画中のIMFのプラン内容は政府の歳出を減らし、緊縮財政を強要しつつ、大増税策を取る予定とされており、北米向けの資金としても2年間で10兆円程度の借款が上限だろうと目されていた。
IMFの数倍の規模の融資を得られると、共和党の誰もが前向きになる。政治を知らない連中に頭を下げ続け、屈辱的な増税策や財政規律に縛られず、豊富な資金を市場に投入出来るのだから、検討しない選択を取る者はいなかった。
財団はユダヤ系アメリカ人に寛容な民主党同様の「緩和策」を共和党にも要求してきた。次回の選挙で上院下院にユダヤ系の候補者を半数以上擁立する要求し、2つ目の要求が、GAFAクラスのIT企業と金融会社への出資を容認だった。共和党政権が公表する前、株価が高騰する前にG社とA社の所有権獲得を目的に、51%の株式を所得したいと提案してきた。
アメリカ経済への影響だけでなく、ユダヤ系の議員比率が高まる可能性が出て来るが、これ以上の条件を出せる機関は恐らく無いと判断して、バークアウト院内総務は見切り発車的にソロモン財団との合意締結に漕ぎ着けようと動き始める。
もしもIMFの支援を受けたならば、共和党政権のみならずアメリカの威信は大きく失墜するのは間違いなかった。暫くは民主党政権が続き、その間、共和党の存続が危ぶまれる状況に陥る可能性が高い。
この連鎖を何とか封じるためにも、経済面で風向きを変え、党内に外部の血を入れて刷新する必要があると訴えるアレクシア・デギュスタシオンの想いを受け入れ、財団との共闘を独断で決断したカーディアス・バークアウト院内総務だった。
新任の大統領や閣僚達の判断を仰いでいたら、機を逸するかもしれない。既成事実を作って党内を束ねてしまおうとバークアウトは考えた。
バークアウト院内総務から情報を得た共和党のスタッフは、3千億ドルもの巨額融資に狂喜しながらも、ソロモン財団の資金力調査に乗り出す。不測の事態が生じないのかと財団の信用調査や資金源を徹底的に調べてゆく。そもそも、3千億ドルという額面自体が桁違いだった。これまで財団がイスラエル国内やアラブ圏で投じた投資内容を見ても、明らかに規模の異なるものだった。
財源の拠出には、ソロモン財団のスポンサーとなっているアジアの財閥が関与していた。インドと香港の財閥に加えて、台湾の企業グループ等が中核となっている。中国や日本の企業は財団には一切関与していないのが分かると、共和党の内偵調査チームは胸を撫で下ろす。「急ぎ、提案の受け入れと提携合意のサインを交換すべき」とバークアウト院内総務に決断のお墨付きを与えた。
融資額3千億ドルが独り歩きして、政府内でも知れるところとなり、アメリカの起死回生策に繋がると騒がれるようになる。政府関係者がIMF支援の路線を考慮しなくなった背景に、イスラエル系の財団からの融資が関与しているとの情報を得たマスコミは、ソロモン財団について調査を始めてゆく。民主党とユダヤ資本との組合せは定番だったが、ユダヤ系組織が共和党に支援を行うのは初めてではないかと話題になる。
共和党政権の失墜を倒閣運動に繋げていこうと策を弄していた民主党には寝耳に水となる。民主党の古参の議員達がソロモン財団へ状況の確認に日参する程だった。しかし融資額を確認すれば民主党と言えども拒めなくたる。祖国アメリカの復権が優先され、揚げ足取りをしている場合ではないと知る。正に祖国のラストチャンスだと悟る。
バークアウト院内総務との会談を成功裏に終えたソロモン財団アレクシア・デギュスタシオンは、尾行のCIA諜報員やFBIの監視網を気にしつつも、ロスチャイルド系のRIT Capital Patners社のワシントン支社へ足繁く出向き、協議を重ねる。この時点でデギュスタシオンからの情報がモサド諜報網を経由して「外部」へ流れていた。
そしてRIT Capital Patners社はG社とA社の株価が低迷しているうちに、密かに敵対買収を始めてゆく。また、ユダヤ系の石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル社の株を売却し同社の市場株価を下げると、申し合わせたかのようにベネズエラ傘下に転じているエクソン・モービル社が、ロイヤル社の事業買収の検討に動き出してゆく。 同時に米国の主要金融業の株が上昇を始める。何者かの「外部」が金融株を大量に買い始めたからだ。
この時点で、中南米諸国による日本、台湾、北朝鮮の東アジア3国への投資総額30兆円と一致すると察していた記者や専門家が居たなら、取材の方向も変わったかもしれない。
その3カ国が中南米諸国から得た資金を財団に投資している実態を掴んでいたら、全く異なる視点が得られたかもしれない。
ソロモン財団が巨額の資金をどのように捻出したのか、誰かが疑問に感じていれば相関関係も把握できたのかもしれない。世界に拡がるユダヤネットワークの奥深さを掴む気力があればの話だが。
北朝鮮と台湾の2つのルートを通じて華僑に資本が渡り、ムンバイーロンドン、香港ーロンドンを経由して、ユダヤ資本に資金が集約されてゆく。誰もこの資金がパナマから送金された30兆円とは思わない。東アジア向けの投資金額がソロモン財団に届けられる背景に、インド・香港・台北の財閥、イスラエル企業、ユダヤ資本がアメリカ市場を侵食するプランが隠されている事に気付かない。アメリカを代表する企業に各国企業の資本が入り、経営権が代わる。従業員も更に多国籍化してゆくだろう。今以上にユダヤ人、インド人、そして中国系ではない華僑の人々のパーセンテージが高まる。
移民を受け入れてきた北米だからこそ、違和感を感じずに取れるプランだった。白人層のハイエンド雇用が奪われる可能性はあるが、巨額の資金が流入する見返りだと捉えて貰うしかなかった。
アメリカ、カナダの経済を弱体化させてから、市場としての北米を各国企業に提供する・・本来ならば中南米諸国企業や日本企業が席巻して然るべき市場を各国に振り分けるのも、一強体制を生み出さないが為だった。
世界中に張り巡られたユダヤと華僑、印僑のネットワーク網を活性化させて、それぞれのネットワーク網を束ねている「外部」が利益を得る。ここまで御膳立てされれば、プランを立て、資金まで出してくれた国家には自ずと謝意が集まる。
資金を受け取ったイスラエルは、モリには伏せて置くようにと断りを告げて、モサドの諜報員が仕入れてきた情報をインド、台湾、香港へ流す。月末にベルギー王室が梅雨の日本を訪問する理由は、ブリュッセルの英雄となったモリの子息の結婚式に出席する為だ、と。 ベルギー首相、EU議長、ブリュッセル市長もお忍びで訪日する予定で、謝意を表するには恰好の場ではないかと伝えていた。
イスラエルが各国に情報を齎すのと同時に、東京にあるその他の大使館が頓に動き始める。何故、その日に合わせて台湾総督と香港の行政長官、そしてインド首相、イスラエル首相が東京に向かうのか?なぜその日に北朝鮮の越山暫定首相と櫻田外相も訪日するのか?東京で何が協議されようとしているのか、各国が情報の把握に動き出す。
日本のベルギー大使が王室の訪日に伴う警護、警備体制の相談で内閣府と宮内庁に出入りを繰り返していた。 しかし、赤坂の迎賓館は「その日」ではなく、公表されている通り5日後以降を抑えており、皇室スケジュールも「その日」ではなく、5日後にベルギー国王を国賓として迎え入れる予定となっている。
別件の可能性を想定しながらも、都内の各大使館が「その日」の情報収集を始めていた。
平成までスパイ天国と呼ばれた東京は、世界でも有数の情報セキュリティ都市に変貌している。仮にCIAやMI6が暗躍した所で、情報を得られない。逆に各大使館の通信内容から各国の機密情報まで、日本政府が把握していた。都内の大使館、各国の日本大使館こそ、日本の諜報活動の最前線となっている。外務省と防衛省が共闘し、インテリジェンス部隊を創設し、外交官がスパイ活動を担い、自衛官から選抜された特殊部隊員が実働部隊となり、特殊任務を帯びた外交官とチームを組んで、各国で暗躍するようになっている。
案件に応じて中南米軍の特殊部隊とチームを組んで、世界中で暗躍しているCIAやKGB,MI6といった歴史ある機関を手玉に取るまでになっている。組織名こそ明確にはしていないが、組織を統括するのが官房長官であり、内閣府となる。組織の資金源の大半が官房機密費から捻出される。
平成までは公安や警察が担っていたが、国内のチンケな案件には対応、機能出来ても、対外的な国外での活動は極めて脆弱なものでしかなかった。社会党政権になり、自衛隊が国連軍として世界に展開する様になって、自衛隊内に専門の諜報部隊を据えた。国連からの情報だけに頼らずに、日本政府、自衛隊として派遣された国と組織から情報を汲み取ってゆく。社会党政権なので、「紛争解決後のビジネスチャンスの刈り取り」までを視野に入れた諜報活動が求められる。
AI兵器を投入して自衛官の安全を守りつつ、紛争を効率的に収束させながら、裏では紛争後の紐付き援助を紛争国の各組織と取り付けていった。
プルシアンブルー社をコングリマット化したのも、各国のあらゆるニーズに1次受け対応できるグループ体制にする為だった。各国からのニーズを汲み取る度に、その都度日本企業を集めて協議していたら、時間ばかり掛かってしまう。プルシアンブルー社が総合商社的に一括で案件を請け負い、案件ごとにグループ企業内やインド財閥、香港財閥、台湾企業等と組むといったフォーメーションで対応していた。モリがベネズエラに渡ってからは、国連軍としての自衛隊の活動は収束したが、事務総長就任中の10年間で培われた日本側のビジネスのノウハウは引き続き活用されている。
台湾総督、北朝鮮暫定首相、香港行政府長官、そしてイスラエル首相、インド首相が訪日する「その日」に、各国首脳を招き入れる日本政府は 公的な発表を一切行わなかった。公式な来訪であれば羽田、成田などの都内に近い国際空港へ到着するのが通例だが、今回のように非公式の訪日となっている異例の事態に、都内の各国大使館は空港に網を張るしかなかった。
どの国の大使館員も人員をそれぞれの空港に割いて配置する傾向にあった。各国はベネズエラと北朝鮮に大使館を置くことが出来ずに居たので、どうしても日本で情報を集めるしかないという事情も重なる。
大国や先進国ほど人材を日本へ送り込んで来るのだが、社会党政権になった日本は嘗てとは様変わりしている。日本は各国の大使館員を常時監視し、全員の日常を把握している。大使館に出入りする出前の配達員、店員全員に至るまで監視し、記録している。例えば、中華料理店や蕎麦屋の出前が定期的に届けば、それらの店舗の配達先や店に出入りする客の一人一人まで、盗聴対象となる。必然的に大人数となるので通話相手と通話内容は全てAIが追い、記録している。不審者と遭っていたり、会話の中で「グレーコード」に引っかかる話題や文言に触れると情報が「組織」に連絡され、グレーコード対象者が組織人員の監視下に暫く置かれる。容疑が白か黒かの審判を見極める。
昨年まで極めて少人数だったベネズエラ政府が、CIAやMI6の諜報員を軒並み逮捕、拘束して米英に強制送還し続けていたが、ベネズエラと同じ仕組みを日本も北朝鮮も採用している。アメリカ大使館、イギリス大使館、中国大使館等は日本政府から度重なる通達が届き、大使館員に留まらず、各国企業の日本法人の職員も好まざる人物だとして、通話内容や密会現場の情報を提示して、本国へ次々と強制送還していった。当然ながら情報を提供していた日本側の人員も軒並み逮捕し、企業であれば罰則を、官僚であれば解雇処分していた。
六本木にあったアメリカ大使館には平成期で4千人以上もの人々が居たが、今では50人にも満たなくなり、大使館として使っていた六本木のビルを手放した。
英国大使館も中国もフランスも大使館をダウンサイジングせざるを得ず、日本からペナルティを課せられて、羽田に近い品川区や大田区の雑居ビルに大使館を移転していた。
G7であろうが、嘗ての西側同盟国だろうが、スパイ活動をしていた事実を容赦なく突きつけ続けた。ベネズエラで諜報活動をしても、北朝鮮と日本の大使館に何人もの外交官を送り込んでも、十分な活動が一切出来なくなると各国も諦めるようになる。今回は複数国の首脳の訪日なので偶々「その日」の特定が出来たが、単独で国家や組織が訪日している可能性も想定してしまう。非公式で何度も日本を訪問して隠密理に会談出来る、そんな高度なセキュリィティ国家になっているのではないか?と想像するようになる。
ITインフラも通信会社も、嘗ての民間企業は電力会社と同じように事業撤退したり、事業を縮小していたのも各国の諜報活動には妨げとなっている。プルシアンブルー社とレッドスター社の通信子会社の日本向けサービスを、海外の外交官と海外企業雇用者は利用出来ないハードルを課していた。
友人や家族が購入したり、レンタルした端末を使って大使館員やメディア会社の職員や記者がアクセスしたり通話しようとすると、何故かロックが掛かって動かなくなる。
個人ごとに音声認識がなされているのか、それとも常に監視下に置かれているのかは謎だが、日本の居住者のサービスを使うことが出来ない。使えるのは未だに携帯基地局の通信網を使っているシェアの低い、通信会社の端末か各国自前の衛星端末だけだった。
日本のIT技術と盗聴技術は次元の異なる世界に至ったと痛感する状況となっていた。
日本の首相を始めとする閣僚達のスケジュールは公表されてはいるが、日本のメディアの番記者達でさえ、首相や閣僚達が本当に首相官邸に居るのか、大臣室に篭っているのか分からないと囁いていた。首相官邸と省庁の入居する統合ビルの地下には秘密の地下道が存在して、相互に行き来しているのではないか?といった都市伝説まで実しやかに噂される程だった。実際に、溜池山王駅と虎ノ門駅には政府用の地下プラットフォームが存在し、軌道が変更しても走行可能な政府専用列車が営団地下鉄から地上のあらゆる路線へ乗り入れる様になっている。それが出来るのも、関東圏のダイヤ網をAIが一括管理し、臨時列車が何時でも走れるようにタイムスケジュールを瞬時に変更できるようになっていた。地上駅のホームで列車待ちの人々が、駅を通過してゆく謎の短い車両を見るもの頻繁だった。鉄道会社各社はその謎の車両を「路線管理用の車両」だとしてお茶を濁して、政府の列車だとは伏せていた。逆ミラーガラスの車両なので首相や大臣達が乗り込んでも、誰が乗車しているのか分からなければ、行き先を悟られる事もなかった。郊外の駅で突然警官が立ち並んで、大臣が車に乗り込む光景を極稀に出くわす様になる。また、ベネズエラがホバークラフトを製造を初めてから、首相官邸と統合庁舎の屋上のヘリポートからホバークラフトが離発着するようになり、羽田と成田空港や旧横田基地、現在の西東京空港に飛ぶ様になったので、大臣や閣僚、官僚達が車を殆ど使わなくなっていた。逆に黒塗りの年代物の車両を使われるのは、各国の首脳や関係者が訪日する位になっていた。
民間機が離発着する空港であれば、各国の専用機の到着も把握できるが、在日米軍撤退後の自衛隊基地や地方空港に着陸されると何処に居るのか分からない。
日本の梅雨の時期だからこそ、梅雨とは無縁の北海道にヤマを張る大使館が殆どだった。G7の外相会議で使ったばかりなので、可能性として高いと考えたのだろう。大使館員だけでなく、情報網を持つマスコミも含めてかなりの人数が新千歳空港や函館空港で張っていたらしいが、臨時の北海道旅行をしてくれた格好となる。北海道はプチ観光をしてくれた各国の大使館員やマスコミから、小遣いを貰った。時として、このような副産物に遭遇するようになるのが今の日本だった。
ブリュッセルの空軍基地に密かに日本の政府専用シャトルと航空自衛隊の護衛機が降り立ったのだが、王と王妃と首相夫妻に加えて、EU議長夫妻、ブリュッセル市長夫妻が飛び立ったのをベルギーの国民は誰も知らなかった。
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北朝鮮と台湾の政府が中南米諸国の東アジア向け投資の概要の一部を、これ見よがしに公開する。都内の各国の大使館員が、関係国が訪日する理由は中南米諸国からの投資内容を協議する為ではないかと「誤認」する。ユダヤ資本に資金が集約されている事実を隠蔽する目的も兼ねているのだが、世界は誤認したまま、投資対象になった北朝鮮と台湾の両国を羨みと妬みの目で見てゆく。
軍事用AI用のデータセンターの建設を、台湾・台中市と北朝鮮・新浦市で行うのが分かった。両軍内でモビルスーツや人型ロボットの比重が高まるので、より円滑に稼働させるのを目的として衛星経由での利用だけだったAI運用をより効率的なものにすると言う。
台湾軍と北朝鮮軍が、中南米軍との連携が更に加速するだろうと軍事評論家や専門家が肯定的な記事を出すと、台湾の軍事力強化に繋がる蛮行だと中国政府が非難の声を上げる。
ビルマ、タイ、フィリピンに加えて、台湾と北朝鮮に中南米軍用のデータセンターが揃うと日本を除くアジア沿岸部をカバーする事になり、中国包囲網がより強固なものとなる、と数多くのメディアが指摘する。それも当然で、衛星を介さないネットワーク網が齎すコンマゼロ一秒代の差が縮むだけで、中南米軍のAI兵器の能力は格段に跳ね上がる。攻撃、後退、退避、フェイント等の反応が更に凄みを増し、既存の兵力では更に対応できない状況となる。中国が非難の声を上げるのも当然だった。
中南米諸国は軍事目的以外のAIもデータセンターに用意する意向も表明しており、アジア圏の民需用途向けでも本格的な参入を企てている姿勢を明確に打ち出した、といった記事も散見される。
各国への大使館配備に加えて、AI配備に留まらない、あらゆるITシステムが稼働するネットワーク網がアジアに構築され、中南米諸国内と全く同じ環境となると聞けば、そう考えるのも当然だろう。
「中南米諸国が地球環境維持と国防・防衛を掲げながら、次なるビジネス展開を企んでいる」コロニーと名付けた施設の横展開が加速し、主要国への大規模なITインフラの構築が発表されると、次はどの国が対象となるのか話題になる。
南米ギアナ共和国の第二カタパルトとフィリピン・スービックのカタパルトが完成し、フクシマとギアナの第一カタパルトの2本だった発射施設が4本となり、打ち上げられる輸送機の数が倍となっていた。中南米諸国が化石燃料以外の資源を宙から得る体制に転じる、という推測が現実なものとなり、各国は地球に降下する輸送船や、重量の重い鉱物資源を積んだ大気圏突入ポッドの数量の把握に務めるようになる。地球上の資源価格に影響を及ぼす可能性と、中南米諸国の生産量が公表される数値通りの適切なものかどうかを把握する為でもある。今まで使われていたGDPの基準が、地球外からの資源や完成品を扱う地域が中南米諸国だけとなる為、世界各国と比してどの程度の規模になるのか把握する必要がある。中南米諸国にはどうでも良いのかもしれないが、エリアの一つだけが突出する可能性はあれど、どの程度の差を生み出すのか、抑えておく必要を訴える国もあった。
台湾と北朝鮮への投資を行うのがベネズエラで、ソロモン財団に集約した30兆円を捻出したのがパナマに拠点がある中南米諸国基金と、財布が異なるのがミソだった。台湾と北朝鮮という同盟国をパイプ役に使い、ユダヤ資本をフロントに掲げる巧妙な作戦だった。
ソロモン財団のバックアップにはインドのタタ財閥と香港の7財閥が関与する。いずれもモリが海外事業に進出した頃からのビジネスパートナーだった。
北米事業にユダヤ、インド、華僑の資本家が関与してゆく。アメリカ合衆国にしてみれば、フタを開けると、あまり違和感の無い組合せだと受け止めるだろう。しかし、人材の大半はメキシコ国境を越えていった難民達の雇用先となり、アメリカ国内の雇用には大して貢献しないと察するのは、数年後となるやもしれない。
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次に、世界中も日本人ですら驚いたのが、日本の防衛大臣と防衛省の発表だった。
防衛省の次期AIが長年使われてきた日本企業プルシアンブルー社製から、ベネズエラ企業のGray Equipment社製への変更が決まった。ベネズエラ企業の入札価格が下回ったのと、中南米軍と同じシステムを利用することで共同作戦が容易に組織出来ると報じられれていた。「自衛隊の既存AI兵器が1.3倍以上性能が向上する」と防衛大臣が発言すると、中国が頭を抱える。既存兵器が軽々と機能向上すれば、自衛隊の防衛力も必然的に上がる。「赤壁」と三国志好きな日本人が呼称する中国包囲網に自衛隊も加わるとなれば、踏んだり蹴ったりの状態になる。
それに加えて、国家セキュリィティレベルが日本もベネズエラ並になるとすれば、日本での諜報活動は夢物語となり、人材を派遣するだけ無駄となるかもしれない。
月面有人基地が稼働する事で、ベネズエラと日本の技術力が手に負えないレベルまで成長するだろうと言われている。そのプロジェクト自体が各国に参加を求める内容になっているのが、国際的な評価を得る反面、参加する権利を持たない米中英仏にとっては、癪な話でしかなかった。4カ国を除いて国際標準が決められ、ルールが制定されてゆくのではないか、といった懸念ばかりが浮かんでくる。だからこそ諜報活動に必死に取組み、日本やベネズエラの「現在地」を突き止める必要があるのだが、難易度の高いバリアに阻まれ続けるだけで、差がどの程度生じているのか、取り得るべき手段や策は講じられるのか、そういった判断すら出来なかった。このままの状態が続けば、地球市民としてムラ八分の状態になるやもしれない、と憶測と推測だけが常に先行する。
各国の焦りが漏れ聞こえてくるようになり、ベネズエラの大統領府では 歓喜の声が日々上がっていたのだが、誰も知る由もなかった。
(つづく)
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