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(5) 出る杭と、それを叩こうとする輩の、とある攻防。(2024.3改)

商店街を散策していたら、いつの間にか駅から離れていた。赤信号待ちで交差点で留まっていると目前を2両編成のトラムが走ってゆく。
その後方には陽光が当たって輝いている北アルプスの白銀の峰々が聳えている。どうしても富山連峰を仰ぎ見てしまう。
「良い街だなぁ・・」思わず、日本語で口にしていた。
そのうちに不動産屋が目に入り、ガラスに貼られた物件の数々を見る。
円表記のマンション物件を見ると、北海道や沖縄のリゾート物件より遥かに安い。
「へえぇ〜」とまた日本の表現が口に出る。
新築物件が見当たら無いので、独り身の劉 璋は店内に足を踏み入れる。

新築・建造中の物件を知りたいと所望すると、富山県内のあちこちで中層のマンションと県営住宅が着工中なのだと知る。ところが全て完売・入居確定で、新築は来年以降の物件を考えねばならないと聞いて驚く。
店員の話によると、他県からの流入が増えており、購入者や入居者が次々と決まってしまうのだと言う。プルシアンブルー社が県内の工場を増床し、採用を増やし続けているからだと聞いて、また驚く。
工場増強が報道されていないのは、何故だろう?と劉 璋は疑問に思い、レンタカーでも借りて近隣の工場の側まで行ってみようか、と思い立つ。

マレーシアでの4カ国協議を終えた中国外交部の劉 璋は帰国後、春節でもあるので休暇を申請し、日本の富山へやって来た。
都内の国立大の留学生だった頃は、日本海側へ立ち寄った事が無かった。
この国の全てが太平洋側に揃っていたので、地方へ足を運ぶ必要性を当時は感じていなかった。
バブル真っ盛りの頃で、人もカネも東京一極集中に突き進んでいた。

国立市内の大学に通っていた劉 璋は入学当初は隣の立川市に住んでいたが、家賃を優先して高尾に逃げた。
周囲が自然豊かな環境となり、カネのかからないアウトドアにのめり込むと地方を殆ど訪れなくなる。
安い中古車だったが、バイト代で学生が購入できてしまうのも驚きだった。
高尾駅から離れた山中の駐車場まで自転車で移動し、そんな物件でも月額1万円を超えた。

それが今や人口減少国となって空き家も増え、日経平均株価は当時を一度も超えていないと言うのだから、隔絶の感がある。
日本からの帰国後は、留学経験を買われて外交部の日本分析チームに配属された。
花形部門に配属されて鼻高々だったが、日本のバブルが崩壊以降の我が部門は、人員を削られ勢いを失う一方となる。
欧米担当者の方が先に昇格する傾向となり、悔しさのあまり仕事に没頭していたら、何とか注目を集める様になった。没落し続ける日本の政治経済を反面教師として捉えて、我が国はかくあるべきだと論文とレポートを作り続けていたら、いつの間にか同期の出世頭となっていた。

バブル期程ではないにせよ、この富山から留学当時に感じていた人々の熱量の様なものを劉 璋は感じていた。市民の朗らかな表情に余裕を感じるのも、街に活気があるからだろう。
上海や香港の様な大都市が劉 璋は苦手だった。
今の中国の都市はミニ上海、ミニ香港を目指して発展し続けているのを懐疑的に捉えているからだろうか、富山市の程良いサイズ感に魅了されていた。

富山に到着して劉 璋が最初にやったのが、PCとモバイルの購入だった。
ASEAN、台湾、日本にやって来た中国人観光客はプルシアンブルー・ショップを訪れて、AIと繋がらない中国内では使えないのを承知で同社製品を手に入れる。旅行滞在中の時間を有意義に使うためでもあるし、日本の分析を担当する者にとっては必要経費でもある。

劉 璋が舌を巻いたのが、モバイル機器の使いやすさと機能の充実度、そしてスマホの音声ガイド機能だった。利用する言語を選択して好みの性別音声を決めると、全ては「彼、もしくは彼女」に訊ねれば良い。最適で最良な答えを提示してくれる。中国語も英語もデジタルっぽさが無く、完璧だった。
但し、旅行者の水先案内人を越える範疇、例えば論文作成代行や試験問題の回答を求めたりすると、音声機能は停止してしまい、世間一般の情報検索端末と殆ど同じ内容になってしまう。
PCになると、更に上をゆく。文章翻訳機能は機械的な面は殆どなく完璧だし、文書作成時の誤字脱字は全て直してしまう。
音声ガイドが自分の有能なアシスタントとして機能して、自分は書く作業に没頭している隣で必要な情報を集めてくれている・・

不動産屋を出る前に、電話着信があった。
劉 璋は番号を確認して相手を確認する。まだアドレス登録をしていなかった。

「お待たせした。駅に着いたよ。どちらへ向かえばいいかな?」

「ホテルで集合しよう。5分以内に到着するようにする」と告げて電話を切ると、スマホに「タクシーを呼んで欲しい」と呟くと最寄りのタクシーを探して、アプリなのかAIがそのタクシー会社に連絡し、本当に一台のタクシーがやってきたので劉は感心しながら乗り込んだ。
駅に隣接するホテルにタクシーが到着すると、スマホを後部座席のSuicca決済端末に翳して支払いを済ませて、ロビーに入る。

進藤 傑が手を振っているのが目に入り、近づいてゆく
「おや、君一人なのかい?」

「部屋に荷物を置きに行かせた。話を聞かせたくないのもあるがね」
進藤が女性たちのプロフィールが書かれた用紙を劉 璋に渡す。3人のプロフィールは今までの芸能活動の記録が綴られていた。

「叶 芽実って言うのがオレと同じ部屋だ。他の2人は同室で、2人は好きにして貰って構わない。当然大陸に渡ったら、3人をどうしようと構わない。3人ともそっちの同意はいつものように取り付けているし、前金も渡してある」
進藤が無表情で言った後、やっと笑い顔を見せる。

日本の芸能界で芽が出なかった者を、中国もしくは香港の芸能界で再雇用するのが目的だ。
最初はCM等の話す必要の無い映像だけの媒体に、出演する。日本女性は衣装と化粧センスが垢抜けているので、それが中国人女優と比べて、アドバンテージとなる。
中国語を話せるようになると、ドラマや映画に出ている日本人女優も既に何人も居る。中国芸能界経由でハリウッド映画に出演した者も居れば、中国人政治家や実業家の愛人になる者たちも居る。劉 璋が独身を貫いているのは、この副業の為だった。
日本人女性の親や親族には仕事の内容は分からないし、相応の対価を得て今以上の暮らしになる。中国女優として拠点をハリウッドに移した者も居れば、日本の芸能界で再デビューを果たした者も居る。
何人かはカネを得るために打算的に中国人政財界男性の夜伽相手の道を選ぶが、全員が定期的に日本に凱旋帰国出来る点がこの制度の特徴だった。
中国でのゴシップは殆ど日本には伝わらない。
勿論、この制度にすら該当する事もなく夢半ばで故郷に帰る女性達の方が、大多数を占めるのだが。

「おい進藤、セクシー女優って書いてあるけどさ、この子、大丈夫なのかね?」
劉 璋が笑っているのは、自分のAVコレクションで見たことがあるからだろう。だから選んだんだよと進藤は思いながらも、真顔で言う。

「試す必要が無いっていうのも、たまには必要かと思ったんだ。
日本のAV業界でもコロナの影響で熾烈な争いが起きている。グラビアもだめ、アイドルもダメって感じで女達が没落してゆくんだが、コロナによる収入の機会の喪失で分母が増えた。AVに出て初めはちょっとは売れても、次から次へと新人がデビューするもんだから、ソレなりの売上実績であっても新人に押されて廃れてしまう。
今後は一人二人定期的に加えて、様子を見ようと考えてるよ」

「ヤダヤダ。本当に人身売買している気分になってきたよ・・」

「劉はん はまだいいさ。この3人に絞り込むまで、俺が何人を相手にしたと思う?
コロナが終わって本当に良かった。こんなのはもう勘弁だよ。俺ももう若くないんだって実感した。身が持たんから、後継者を据えるのを真剣に考えたよ」
そう進藤が毎度の様に言うが、顔はいつもの如く艶やかだ。自分も人の事は言えない。人の夢に便乗するヒモの様な存在なので・・

「劉さん、はじめまして〜宜しくお願い致しますねぇ」
ソファの後ろから声を掛けられて、劉 璋は慌てて振り返って立ち上がる。

「こちらこそ、わざわざ富山までご足労頂いてありがとうございます」
劉 璋を見る3人は、「共栄党の幹部たちに雰囲気が似てる!」そんな受け止め方をしていた。
劉璋の紳士的な振る舞いに遭遇した3人が「この男なら!」と、安堵した顔になるこの瞬間に、進藤が達成感を得る。畜生の仕事だと自虐する日々の中で、唯一贖罪を得る場でもある。

一度スポットライトを浴びた経験がある彼女達は、それぞれの地元で小さなスターとしてチヤホヤされた経験がある。幼少時から「カワイイ」「美人だ」と持ち上げられながら育った、ある意味に置いては選抜メンバーでもあり、容姿的にはエリートでもある。
その手の立場にあった人々が東京に集約され、競い合う場が芸能界という魔窟だ。
毎年の様に新人が事務所に入所し、同じ数だけ契約が切れる者が出て仕事を失い、ひっそりと消え去ってゆく。
その後の道も様々だ。性を売り物にする業種を選ぶ者もいれば、夢を追って海外に活路を見出そうとする者も出てくる。

進藤と劉 璋は光の当たらない芸能界システムのそんな裏の一面を事業にしようと考えた。
芸能プロダクションでスカウト畑を歩いてきた進藤は、学生時代のバイト仲間だった劉 璋と、中国市場向けのスカウト事業を立案する。
女性が誰でも持っている一人一人の「商品価値」を、日本の芸能界と中国政財界という全く異なる環境間でありながら成立する、需要と供給の関係で繋ぐ発想を思い立った。
個人事業主である進藤と中国外交部の劉 璋のサイドビジネスで始まった事業は、それなりの収入を2人に齎してゆく。

「事務所との契約が切れるらしい」という女性に進藤が近づき、声を掛ける。これまで大陸に渡った女優の実名を上げずにスカウトの実績を語り、中国の芸能界での再起を促す。
華やかな場で自身が露出する事を当然の様に捉えてきた女性達の「野心」を、進藤が奮い立たせてゆく。
その最初の受け皿となる人物が俳優としても十分やって行けるルックスを持つ劉 璋となるので、異国へ転ずる女性達の不安感を、幾分かでも軽減する役割をこなす。

とはいうものの、大陸に渡った半分以上は中国語や英語での演技が認められず、中国の芸能プロダクションから解雇されてしまう。進藤スカウトの日本での実績と嗅覚的な「目利き」により、中国人の俳優よりもクビになる確率は少ないとはいえども、どうしても一定数は2度目の烙印を味わってしまう。そして、大陸での相談役である劉 璋に再びコンタクトしてくる女性達も一定数居る。島国の外のゴシップは殆ど注目されることも無いのも大きい。

世界最大級とも言える巨大な組織、中国共産党内で立身出世する為に、日夜 熾烈な争いが党内で繰り広げられている。
上下の人間関係だけでも相応のストレスを抱え、与えられた仕事で成果を出す為に取り組む中で別のストレスを抱える。男性優位の中国社会が維持されている背景には、献身的な妻の存在と、妻には話せない女性の存在が多分にあるのかもしれない。男達の癒しとなる、潤滑油的な存在として。
そんな男社会の中国共産党の幹部には、色狂いの者が多いのも事実だ。中には、嘗て中国人が虐げられた日本人を服従するのを悦に感ずる者も居る。

その種の需要が存在するので、劉 璋の出番となる。劉 璋も進藤同様に自虐的な立場に置かれながらも、彼女達を党の幹部に斡旋してゆく。
胸が痛みを覚えつつも、劉 璋の党内ポジションが上がる。斡旋した幹部は劉 璋の後ろ盾にもなってくれる。
同僚の党員達が党幹部の為に賄賂の費用を捻出し、それが露呈して失脚するのが中国政界の常となっているが、日本人女性を「私設秘書」「メイド」として表向きの紹介をするので、一切金銭は介在しない。
人を雇用するので幹部も「日本人秘書」の存在を別荘や郊外の邸宅に囲って、家族にもひた隠す。それ故に表沙汰になる事も無かった。

こうして、何人もの日本人女性達が日本海を往復して来た。この3人にはどんな試練が待っているのだろうと、劉 璋は期待を滲ませている日本人女性の顔を交互に見ながら、考えを巡らせていた。

ーーー

08年のリーマン・ショック時に27兆円もの費用を投じて世界経済を救った中国が、世界経済を牽引する立場となり、メディアが中国の動向を報じない日は皆無だった。
特に2月は春節での民族大移動の話題の後、全中代が開催される。中国の今年の方針と、今年の経済目標成長率が注目を浴びるのが常となった。

しかし、2021年の2月は近年とは異なる様相となっている。中国が発信源となるニュースは悪い内容ばかりとなったからだ。
2020年第4四半期のアジア向けの工業製品の輸出がストップ状態となり、年が改まっても改善の兆しが見当たらない。
新興企業プルシアンブルー社の製品の販売急拡大に、押されているからだ。
1日のミャンマーでのクーデター失敗後、話題の中心はプルシアンブルー社の株価の動向や製品発表、そしてモリ親子の動向に注目が集まるようになった。
中国の人々が「情勢の変化」に迎合し始めた、というニュースも非常に目立つ。
春節期間中の海外に向かう人々が減少し、最寄りの国内観光地で済ます人々が増え、マンション購入を見送る傾向が顕著となり、旅行会社と不動産デベロッパー会社の売上が急減速している等、景気減速感が漂い始めており、今回の全中代ではプラス成長のアドバルーンを上げられないのではないか、との見方が主流を占めている。
その種の後ろ向きの情報ばかりがメディアで取り上げられている。

その一方で、日本で21日に投開票される熊本・阿蘇市と天草市の市長選の応援にモリが現れ、農業支援と獣害駆除を約束したとか、7日に当選した宇城市の新市長と会談をしている場で環境汚染と無縁の半導体工場の進出を公表し、熊本ではフィーバー状態になっていた。

息子の共栄党代表の杜 亮磨は岐阜副知事の3名とプルシアンブルー社のゴードン会長とアジア本社の志木社長と共にミャンマー入りして、スーチー最高顧問と会談に臨み、包括的経済協定を結び、バングラデシュのロヒンギャ族の難民キャンプを訪問し、大量の援助物資を提供して、ミャンマー内への帰還プログラムをミャンマー政府と練る事になったと難民たちに説いた。
キャンプ地ではAIがドラムを叩いて、ゴードン会長がサミアの代わりにAIを制御するサポートを行ない、Deep Forestがミニコンサートを行ない、ロヒンギャ族支援の国際募金活動を行った。こちらは国際ニュースとして世界中で報じられた。

環境に配慮した工場建設とミャンマー民主化支援、少数民族支援は中国のアプローチとは真逆のものだとメディアが言及し、記事にする。
ミャンマーとの包括支援プログラムの前には、シンガポール軍とブルネイ軍の国防体制のデジタル推進を締結し、ミャンマー軍を解体してASEAN軍を設立する方向性も許容された。
中国の春節に合わせるかのような杜親子の活動が、この日も注目を集めていた。

熊本 空港から飛び立つサザンクロス航空のチャーター機まで、メディアが紹介する程だった。機体にはプルシアンブルー社がスポンサーになっている、モンテディ〇山形とツ〇ーゲン金沢の2つのクラブチームのロゴが機体の左右にそれぞれ記載されている・・のはご愛嬌で、熊本にもクラブチームがある地元テレビ局はスルーする。
ターボプロップエンジン駆動による中古プロペラ機SAABb2000は20世紀の終わりと共に、スェーデン企業が生産停止しているが、プルシアンブルー社が春から再生産を始めると触れられる。同機体は中古機だが既設の旅客機用エンジンのロールスロイス製AE2100Aから、貨物機用のAE 2100D3に換装され、熊本ー富山間を720kmとジェット機並みの巡航速度で飛翔すると紹介されていた。
両翼、ボディなど外観と操縦室の計器類、そして機内のシート類に至るまでエンジン以外は全て日本企業のメーカーに製造の発注済だと言う。30人乗りのS340と50人乗りのS2000の2タイプをサザンクロス航空が10機づつリース契約済で、当面、ロールスロイル製エンジンで製造するが、3年以内に自社製エンジンに置き換える予定だと、どこかで調べて来たらしい。

大学を春休み中の養女4人と教え子2人と共に搭乗口に入ってゆく一行を映像に撮っている頃、一行が宿泊していたホテルで室内清掃員に扮していた中国の工作員が、モリのDNA採取となる材料の収集に励んでいた。毛髪、ティッシュの残骸等を回収していった。
北朝鮮で狙撃犯が残したと思われる遺留物から検出されたDNAと照合するためだった。

モリが事件に関与している疑いが生じたのは、ミャンマーでの、とある映像が発端となった。
スーチー邸と大統領宅前の通りを写していた赤外線監視カメラの映像に、偵察の兵士を殴打する男が数秒間写っていた。
赤外線カメラなのでモノクロで、犯人がマスクを被っているので顔は分からないのだが、身体的な特徴はほぼ同じと見做されていた。
また、ミャンマー軍幹部本部襲撃時に、幹部達の足を撃ち抜いた人物の射撃の腕前が、伝説の様にゲリラ兵で語られていた。

「マスクを被った子供に銃弾を装填させながら、3丁の猟銃を代わる代わる手に取って500m先の幹部達に放っていたマスクマンの狙撃の腕前は百発百中で、全て足を撃ち抜いた」と言うものだった。

スーチー邸前の撃たれた兵士と幹部達の足から猟銃のライフル弾が検出された、という医療記録も入手し、神業的な射撃能力の話題と実績から同一人物の犯行に間違いないと人民解放軍の鑑識は断定した。

一方で、北朝鮮の平壌で1300m離れた位置から放たれた弾はNATO弾だと判明しており、ミャンマーで用いられた銃とは異なるのは明らかなのだが、潜んでいた場所での残存物から精液が検出され、DNAが取得出来た。

「驚異的な射撃能力」という点しか繋がりが無いのだが、ミャンマーにモリが居たのは事実だ。
息子の亮磨とモリの滞在先で遺留物を収集するのと、J2のクラブチームに属している別の2人の息子のDNA情報入手のミッションが実行されていた。
DNAが一致するかもしれない、その一点に人民解放軍は固執していた。

富山空港でモリ一行の到着を待ち構えている男達の元へ、熊本のチームから「精液は入手できず、体毛のみ採取」と連絡が届いた。

軍がそんな目的で動いていることを知らない富山に滞在中の劉 璋は、モリをひと目見ようと偶々空港までやって来た。

チャーター機が空港に着陸する前に、富山県警と背中に書かれたジャンバー姿の男たちが突然現れて、不審者を拿捕し始めたのを劉 璋は目撃する。

「捕まったのは同胞か?」そう思った時に劉 璋は肩を掴まれたのに気付いた。

「えっ?」と思った時には腕を後ろ手にされてロックされていた。
向かいからコート姿のコロンボ警部の様な頭髪の男が歩いてくる。

「外交官の劉 璋さんですね。お話を伺いたいので署までお越しいただきます。何、あちらの皆さんとは別行動だとは分かっているのですが、双方が空港内にいらっしゃったので、念の為です。然程お時間は取らせませんので」
そう言われ、連行されてしまう。

日本の警察をよく知る劉 璋は逆らわず、連れられてゆくことにした。外交特権を行使するにしても休暇中で、副業絡みの訪日だった。副業による捜査なら、進藤と女性達にも影響が及びかねないので従うしかなかった。

(つづく)







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