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(3) 流れに身を任せる時も、必要かもしれない(2024.1改)

カナダ・バンクーバー港を出港した2隻の中型タンカーが日本海に到達する。
カナダ領内の野生豚駆除の返礼の形で、市況価格よりも安い原油が届くようになった。

カナダは石油埋蔵量では世界3位にあたる。しかしカナダ産石油はあまり流通していない。
地中に堆積された時点で様々な物質と混濁しているため、石油からガソリンを精製する前に不純物扱いされる物質を取り除く必要がある。
埋蔵量世界2位のサウジアラビアの石油を各国が求める理由がココにある。サウジの石油は不純物が世界一少ないので、除去する工程が省かれるのでコストが掛からない。
中東から運搬する方が、不純物を除去するより安く済むので、各国は中東産の原油を求める傾向にある。

人口1億人を超える国家が消費する石油の量は、相応な量となる。日本政府や大手石油会社の立場で見れば、トータルコスト比で中東産原油に依存するのも当然だろう。しかし、社会党の知事の県の消費量は自ずと知れたものとなる。既にロシア・サハリン沖、ブルネイ、ベトナムからの調達に加えてのカナダ産原油となるので、カナダからの調達量は当面限られたものとなる。

参考までに記しておく。
野ブタによる年間被害額が2000臆円、カナダ1000臆円に登るとも言われている。アメリカとカナダの農務省が全国野生豚被害管理プログラムで、600万頭が生息していると推定されている野生豚の掃討を展開しているが、広大な面積と農地が災いとなり、これ迄 効果的な駆除が出来ていなかった。

日本の自衛隊のスナイパー部隊とプルシアンブルー製ドローンを2週間投入して、5万頭強の駆除となった。全体の1%とは言え280人で賞味10日間なので、次回は人員数を増やすなり、期間を伸ばせば駆除数が増えることが確認できた。

外務省とプルシアンブルー社のアメリカ・カナダ側への提案は、2021年は北米での年間被害額3000億円中500億円ほど減少させるという目標値を掲げ、北米派遣・滞在費用・冷凍豚肉運搬費用などを除いた400億円分を、北米産原油での支払いで求める内容となり、両国政府から承認された。
政府と社会党は400億円分の原油を半分づつシェアし、政府分は自衛隊・海上保安庁・警察等の消費する燃料にあて、社会党はプルシアンブルー系列会社のPB Enagy社に委託して社会党首長の県内に提供することになった。

翌月2021年1月24日に投票が行われる山形県知事選に、社会党は候補者を擁立せず現職知事を推薦する。それに伴いカナダを発った「タダの石油」を積んだタンカーが山形・酒田港に入港する。ナフサなどの触媒で不純物を取り除いた上で精製して、軽油、ガソリン、灯油にしてPB Enagy系列のガソリンスタンドで販売される。県内の大手石油会社系列以外のスタンド、農協JA系列、中小石油会社系列の47店舗で市況価格よりも安く、間もなく提供される。
2隻のタンカーの一隻分の原油は精製後、北朝鮮へ向かう。コロナ感染用製剤提供に続く、日本政府の支援策第二弾となる。

ーーー

北京訪問中の前田未来外相は中国、ロシア、北朝鮮の外相と会談に臨んでいた。日本側の過度な対応に軟化した北朝鮮を、寄って集って説得している最中だった。
中国もロシアも特効薬を得たので、日本の応援団となっている。継続的に製薬を手にする為の交換条件が、愚息のバカ親父が首謀した拉致被害者の開放だけなので、中露にとってはイージーな話だ。そもそも北の犯罪行為なので、賠償も求めずに石油と特効薬を与える日本側の度量に感服して、過ちを認めてお返ししなさいというモードなので、前田外相も外務省の里中補佐官も中露と北の外相を一歩引いて見ていられた。

北京に集まっているマスコミも「年内の解決はあり得る」と期待を寄せた記事を書いて社会党外相の手腕を称賛していた。
他界した前外相の残念な話題で盛り上がっている最中でもあり、前田外相の成果と「前田で良かった」という安堵感がメディアに広がっていた。

***

「これ、先生のお陰ですよね?」

新幹線でやって来た由紀子が加わった旅館の食堂で、19時のニュースが北京で行われている4カ国外相協議を伝えている。
神経が太いのか、それとも鈍感なのか、問題の渦中にあった真麻がテーブルに並べられた料理をパクつきながら、発言する。姉の由真は呆れ顔だし、伯母の由紀子も苦笑いしている。

「さて、どうだろう?伯母さんもお姉さんもカナダで活躍した。石油提供の貢献度で言ったら、3人とも同じくらいかな?」 モリは言うとグラスのビールを煽る。由紀子と真麻は妊娠しているので飲めない。由真が空いたグラスにビールを注ぐ。この日の泊まり客は4人だけなので、静かな空間に高い位置に据えられたテレビの音声が良く響いていた。

「そんなことないですよー、北米まで薬を運んでホワイトハウスに乗り込んだと思ったら、アメリカに北朝鮮対策プランまで提示して、誰が見ても首謀者じゃないですか」

「真麻っ!」

姉が妹を叱って、声を落とせと小言を言う。厨房でメイン料理を作っている宿のご主人とおかみさんの手が止まり、こちらを見ているからだ。とは言え、誰もモリを首謀者だとは思わないだろう。民宿と言っても良い小さな旅館にエライ人は普通、泊まらない。ホワイトハウスも何かの聞き間違いに違いないと思ってくれるはずだ。

「あら、火力発電所のニュースに触れないままスポーツの話題になっちゃいましたね」
由紀子が残念そうな顔をして言う。
東京に来て若返ったのか、顔にハリが出て艷やかだ、宿の温泉のせいかもしれないが。

「都合の悪いニュースは流さないっていうのは本当なんですね」
由真が人の顔を見据えて言う。
「富山はローカル扱いだからね、しょうがないよ」と、実は憤慨していたのだが笑ってみせる。

台湾電力が閉鎖する予定だった小型発電所のガスタービンを買い取って、富山に持ち込んだのは9月だった。高岡市の富山湾埋立地のバイオプラント施設の隣に発電所を建設し、タービンを据えて本日より稼働を始めた。
一方、10月いっぱいまで富山湾内に浮かんでいたソーラーパネルは撤去されてボルネオ島のブルネイの海底油田周辺に据え付けられ、発電が始まっている。春先に新型のソーラーパネル500ha分を半年間据え付ける計画でいる。
以降、富山県民100万人の電力は今回の小型火力発電所だけで賄える。富山では主に冬季に稼働する発電機となる。春にソーラーパネルが立ち並ぶと、その分、火力発電所の出力を下げる。

以上により、本日より富山県は北陸電力からの電力供給を終えた。来月から県民の電力料金は下がる。ブルネイ産の安価なLNGでタービンを回し続けてゆく。
因みに山形県民も富山と同じで100万人だ。つまり、富山と同じエネルギー政策を県として決めれば、東北電力からの供給を止められる。県知事と県議会、そして山形県民の皆さんがどう判断するか?だ。次次回の選挙までに社会党知事の県と差が出るようであれば、独自の候補を擁立して、引きずり下ろす。原発ありきの電力会社を選択すれば容赦しない。山形県には原発はないのだから。

電力会社と国にとって見れば穏やかな話ではないだろう。8つある国策電力会社の傘に依存しない、戦国時代の大名家のような無法地帯が国内に出来てしまった、とでも思っているかもしれない・・
「どうして台湾電力だったんですか?」
真面目な顔で由真に聞かれて、居住まいを正す。

「台湾電力って、日本の統治時代に作られた9つ目の電力会社なんだ。戦時中まで同じ方針で操業してきたから、日本の電力事情にも明るい。PB Enagy社がアドバイスを受けるのに格好の相手だった。そもそも東電や関電に助けを求めた所で、断られるよね?北陸電力が可哀想だ、面白くねぇって思ってるんだから」

「なるほどですね・・これも先生のアイディアかぁ・・」
由真はいつの間にか熱燗に移行して手酌で飲んでいる。その酒を物欲しそうに妊婦の2人が見ているが、誰も飲もうとも、妊婦に飲ませようともしない。
向かいに座っている2人の女性が自分の子を生むのだと考えていた。申し訳無いと思いながらも飲まずに居られない。なにしろ片方が妊娠しているのは昼に知ったばかりだ。立ち上がり、追加のビールを貰いに厨房に向かった。

ーーーー

横浜から富山の祖母の家に到着し、孫3人と夕飯を食べている最中だった。

「私が連れてって上げる」と祖母が半ば明日の予定を強要しながら、すき焼きの肉を足している。祖母が観客席に居ると喧しいのを知っている3人は、苦笑いする。

杜 歩 ・海斗・圭吾の3兄弟は3学期からの転校に合わせて、金沢市にあるJ2サッカークラブの下部組織、U18の練習生テストを受けにやって来た。
その話を持ってきたのも祖母だった。孫たちが飛び付くのが祖母も分かっていたのだろう。

プルシアンブルー社の社長に掛け合って、子会社を何社かクラブチームのスポンサーに据えて、入団の採点を甘々なものに変えてしまった。

親バカとババ馬鹿っぷりを発揮していた。スポンサー契約の下りまで実の次男と孫たちは知らない。ましてや隣の県の知事がスタンドで騒いでいたら、目立つし、選考から落とそうものなら何が起こるか分からない。

同クラブのスポンサーになっている北陸電力や金沢の大手地銀にすれば、天敵のような隣県の知事絡みの企業と肩を並べるので困惑していた。

新しいスポンサーになったPB Enagy社の社長を兼任しているゴードンは、南米からの助っ人選手3名分の費用を出す用意がある旨を、クラブ側に伝える。
既にプルシアンブルー社として先行して選手と所属クラブには打診しており、エクアドルの2選手とアルゼンチンの1選手、計3選手のプレイを集めたダイジェスト映像と分析データ、スペイン語通訳も合わせた4人分のアパート宿舎と移動用の4台の自動車まで用意していた。

南米の3人が加わった際の戦術バリエーションと、J2各チーム攻略プランまで出揃っていて監督達は驚く。全てAIがプランしたもので、サッカー好きなゴードンとモリが最終的に監修している。

スーツ、コート類を扱う「pb」ではなくカジュアル服の「PB」で、スポーツウェアを新たに加え、ユニフォームと練習着、スパイクまでクラブに用意して提供すると言われ、サンプルまで渡されたら、頷くしかなかった。提携していたドイツのスポンサーとの次シーズンの契約を破棄する。

監督とコーチは神奈川県U17での杜 歩のデータを取り寄せ、意見を改めていた。明日の紅白戦の時刻に合わせて、トップチームの監督とフィールドコーチも立ち会って貰うようにした。


ゴードンとモリはJ1の下位クラブを所有するか、J2からJ1へ昇格圏内に居るクラブを買おうとしていた。合わせて南米のクラブを3つ所有し、3クラブから日本へ選手を送り込み、最強のJ1チームを5年計画で作ろうと画策していた。

製薬の収益だけでもとんでもないことになるので、スポーツ産業にも投資する方向で調査に取り掛かっていたのだが、その調査過程で南米の3選手に注目した。
3人とも日系人というのも大いに作用した。場合によっては帰化して、日本代表という流れを夢みていた。

***

誰もいない露天風呂で浸っていると、下手に購入せずとも、こうして穴場の宿を選んで滞在するのもいいかもしれないと思う。
妹の真麻が国内を旅して廻るのを好むようで、この宿を選んで貰ったのだが、一人7千円もしないので驚いた。内容から、1万は下らないだろうと思ったからだ。

とは言え、気軽に歩けるのも地方議員だからで、国会議員や知事となるとそうもいかなくなるだろう。別荘だ、コンドミニアムだとなれば、維持管理に金が必要となる。痛し痒しだなと思っていると3人が堂々と入ってくる。

真麻だけ恥じらいもせずに笑っているので、露天風呂まで込で計画していたのだと察した。
「ハーレムを地で行っている」と娘たちは言うが、自分で集った覚えもないし、My 大奥を作ろうと考えたこともない。
が、岩風呂で3人に囲まれて股間が元気になってしまい、説得力が全くない状況に陥ってしまっていた。
揺らぐ水面下で直立するモノを見定めた真麻が嬉しそうな顔をして、遠慮なく手を伸ばし握ってきた。由紀子と由真が驚こうが、お構いなしだ。

後、身体を洗われながら「お嬢さんとお孫さんは、あんな事しません」と由紀子に伝えていたら咥えられてしまい、先程以上に困惑する事態となる。

(つづく)


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