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森羅万象・万物万象・南無阿弥陀仏

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大院海の短編小説まとめです。
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#短編小説

【短編】しろいつばさ

【短編】しろいつばさ

「だめだよ、こちらに来たら」

今日も見つけてしまった。ああやっぱり、この世はほんとうにつらいことばかりなんだね。何時になってもこの世は変わらない。私が此処を眺め続けて、もういくつの生命が巡り続けたのだろう。眼前に広がるパノラマには、今にも思いつめた顔をして、わっかの形をしたロープを手にしている好青年。対して私は、ゆらゆらとあの世からこの世を漂うユーレイ。もうどれだけ、こんな人間を目にしてきたこと

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【短編】冬の春はまだ来ない-2020ver.

【短編】冬の春はまだ来ない-2020ver.

 建物から外に出たときに、その温度差に身を竦めた。首に巻いたマフラーの隙間にふと、流れ込んだ冷たい風が肌を刺す。一瞬にして外気に晒され、触れた鼻がツンと赤く染まる。少々暖房の効きすぎた商業施設の中は、どこもかしこも人だらけで。そして、皆々が誰かに寄り添い、温かな表情をしていた。自動ドアの前で立ち尽くす自分に、今しがた怪訝な目線を送ってきたあの女。その右腕に男のそれを絡めて、蕩けた顔をして追い越して

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「世界の真理」-11/9の日記(短編付き)

「世界の真理」-11/9の日記(短編付き)

書くことはあるけど、なんか散文が書きたい気分。ある程度日記書いたら書くよ。ちょっとした小話を。

久しぶりに休みが1日しかない生活になると、曜日感覚が狂ってしまう。朝起きた時、なぜか日曜日の気分でいた。その気分で弁当を作るのだから、まあ変な心持ちだ。

土日のいずれかを部活に捧げるのが当たり前だったのに、こんな、週休2日に慣れてしまうなんて。土日って、こんなに素晴らしい制度だったのか……というあり

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【短編】かくしてこころ

【短編】かくしてこころ

 ラブレターを書こうと思う。
拝啓、愛してはいけなかった人へ。

 貴方は今も元気でいますか。同じ空の下で呼吸が出来ていますか、その生活は、豊かなものでありますか。そうであることを強く祈っています。私には、それしかできないから。きっと、これが正しい選択であったのだと、心から思えるようになる為に。

 拝啓、愛しい人へ。貴方の隣には誰かがいるのでしょうか。私の周りには大好きな人がたくさんいますが、隣

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【短編】したためて愛

【短編】したためて愛

幸せとは、何だろうか。

日常でささやかな幸福。繰り返される日々こそが幸せ、とでも言うのだろうか。私にとっては積み重ねた時間こそがそれに値していたのかもしれない。だけどそんなこともう、気がついたところで全て遅かったみたいだ。

すべてはさっぱり返ってこない。すべては無になって、有の隙間すら探させないくらいに……。いや、それは違うか。あれが恋ではなかったことの証明になっただけで、元々愛に対価なん

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【短編】届いて花束

【短編】届いて花束

 愛されないことは、分かっていた。
最初から分かりきっていたことじゃないか。そもそも思いを寄せるのを許してくれたことを、あの人に感謝しなければいけないほどだ。叶わぬ恋。一方通行の、片思い。言ってしまえばその通りなのに、そのような普遍的な言葉で自分の思いを片付けられることが、どうしても嫌だった。
 その日の天気のことを、私はよく覚えている。春の始まり、めでたい日だというのに吹く風はちっともあったかく

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【短編】雨垂れ

【短編】雨垂れ

叩きつける雨粒が身体を芯から凍えさせていく。
身体の内から湧き上がる、この暖かいものは何だろう。

ただ立ち尽くすだけの俺に、思い返す記憶は、いつも、雨。

【短編】まどろみには届かない

【短編】まどろみには届かない

 ありきたりな人生だった。

 年を重ねるなんて本当は大それたことでもなんでもなくて、ただのうのうと息をしていればいいだけだった。それなのに、そんなことすら、できなくなっていたのだ。彼は。わたしは。これからどう生きていけばいい。屍のように踊り続ければいいのか、死人のように口なしでいればいいのか。そう、まどろんだ思考をしているこの瞬間にも着々と今は過去になって、未来が今へと差し迫る。今はいくらでもや

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