#小説
【短編】冬の春はまだ来ない-2020ver.
建物から外に出たときに、その温度差に身を竦めた。首に巻いたマフラーの隙間にふと、流れ込んだ冷たい風が肌を刺す。一瞬にして外気に晒され、触れた鼻がツンと赤く染まる。少々暖房の効きすぎた商業施設の中は、どこもかしこも人だらけで。そして、皆々が誰かに寄り添い、温かな表情をしていた。自動ドアの前で立ち尽くす自分に、今しがた怪訝な目線を送ってきたあの女。その右腕に男のそれを絡めて、蕩けた顔をして追い越して
もっとみる【短編】あたしのちっちゃな宇宙
あたしのおなかには、「ウチュウ」がすんでいる。いつからあたしのおなかにいるのか、それは思いだせない。ずいぶん前だった気もするし、本当にさいきんだったような気もちもする。でも、ふと気がついたら、ウチュウはあたしのおなかにいたんだ。
あたしはママがつくるハンバーグが大すきだけど、ウチュウはナスとかやさいがいっぱいのやきそばが大すき。だから、いつもやきそばの日はウチュウがはりきって、ほんとうにおな
【短編】まどろみには届かない
ありきたりな人生だった。
年を重ねるなんて本当は大それたことでもなんでもなくて、ただのうのうと息をしていればいいだけだった。それなのに、そんなことすら、できなくなっていたのだ。彼は。わたしは。これからどう生きていけばいい。屍のように踊り続ければいいのか、死人のように口なしでいればいいのか。そう、まどろんだ思考をしているこの瞬間にも着々と今は過去になって、未来が今へと差し迫る。今はいくらでもや