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【短編】あたしのちっちゃな宇宙

 あたしのおなかには、「ウチュウ」がすんでいる。いつからあたしのおなかにいるのか、それは思いだせない。ずいぶん前だった気もするし、本当にさいきんだったような気もちもする。でも、ふと気がついたら、ウチュウはあたしのおなかにいたんだ。

 あたしはママがつくるハンバーグが大すきだけど、ウチュウはナスとかやさいがいっぱいのやきそばが大すき。だから、いつもやきそばの日はウチュウがはりきって、ほんとうにおなかがばくはつしちゃうんじゃないかってくらい、大きくなる。ママもパパもまだ気づいていないけれど、あたしはいつもひやひやしてるんだ。ウチュウがおなかにいることがバレちゃったら、どうしよう。ママはかんかんにおこって、あたしからウチュウを引きずり出そうとするかもしれない。それは、ウチュウがかわいそう。ウチュウには、どこにもいくところがないのに。

 ウチュウは、あたしがねているときに、ゆめにでてきた。夜みたいにまっくらで、あちこちチカチカひかっているところに、あたしはぼうっと立っていた。そのひかりをつかもうと手をのばそうとしたら、ちっともあたしにはさわらせてくれなかった。それはきっと、とってもとおくにあるおほしさまだったんだ。だから、あたしはさわれなかった。
 ちょっとだけしょんぼりしていると、ひかりがだんだんうごいているのに気がついた。そのおほしさまはゆっくりとまわって、大きくなっていた。あたしはこんどこそ、おほしさまをつかまえられると思って、うんと手をチカチカにのばした。

 そのときだった。

――私の中をいきなり、鋭く痛い光が差した。余りの痛さに、目の前が、身体中が真っ赤に、真っ白に点滅して、生温い涙が止まらなくなった。鼓膜を切り刻むような音が鳴り響き、身体は本当に真っ赤に剥がれてしまった、と思った。いずれそして、その音も涙も感じなくなって。
パタリ。私は、ぐちゃぐちゃになった。何も、分からない。それでも、心と頭のどこかはツンと冷え切って、恐ろしいくらいに静かだった。
さっき伸ばした指の先から、ブニブニとした、ナニかが入り込んでくる。それは指を伝い、腕から胸の真ん中を直進したあと、私の真ん中でとぷん、と居座った。その得体の知れないモノを私は、ぐちゃぐちゃになってしまっても、拒絶できた。要らない!と、心の底から叫ぶことができたはず。それなのに、私は、私は。それを受け入れてしまった。
ぶちゅり。何かが、私のなかでつぶれた。そして、それはあたしのからだをうずまくようにどんどん、どんどん、大きくなっていって――

「あなたはだあれ。どうぶつ、なの?」
あたしがそうっとおへそのちかくに話かけると、ソレはグルグルとあたたかく、またあたしのまん中をまわり出した。

きらきら、キラキラ。しゃらしゃら、シャラシャラ。あたしのあたまのなかで、きれいなスズがなる。体はポカポカとあたたかいのに、きこえてくる音はとってもすずしいと思った。

〈私は、『ウチュウ』というんだよ。きみのおなかの中で、たらふく美味しいものを食べさせておくれ〉
まるで、おほしさまがしゃべっているみたいだ。
「うちゅう……?」

〈そう。ウチュウ、だ。よろしくね〉

 それきりウチュウはだんまりして、ずっとあたしのおなかにいる。そのウチュウは、あたしからはなれたくない、っていってるみたいだった。それは、あたしがママにお人形をねだるみたいに。
 ふふ、だいじょうぶ。あたしがずっと、ずっといっしょにいてあげるよ。
そういうと、ウチュウはぐるり、とあたしの中で一かいてんしてみせた。

めっちゃ喜ぶのでよろしくお願します。すればするほど、図に乗ってきっといい文を書きます。未来への投資だと思って、何卒……!!